聞さす(読み)きこえさす

精選版 日本国語大辞典 「聞さす」の意味・読み・例文・類語

きこえ‐さ・す【聞さす】

〘他サ下二〙 (「きこえる(聞)」の未然形「きこえ」に、使役助動詞「さす」が付いて一語化したもの。この場合、「さす」は謙譲の意を強めるはたらきをする)
[一] 「きこえる(聞)(二)(一)」の、対象を敬う度合を一層強めた謙譲語
① 「言う」の謙譲語。申しあげる。お耳にお入れ申しあげる。
※大和(947‐957頃)一七一「いと切にきこえさすべきことありて、殿より人なむ参りたると聞こえ給へ」
源氏(1001‐14頃)帚木「きこえさせつるやうにかたちなど、いとまほにも侍らざりしかば」
文通音信などをする意の謙譲語。(手紙などを)さしあげる。また、手紙など人づてで、申しあげる。
蜻蛉(974頃)中「まかでんことはいつとも思う給へわかれねば、きこえさせん方なく」
③ 「願う」「懇望する」の意の謙譲語。お願い申しあげる。
落窪(10C後)一「いと嬉しう、聞えさせたりし物を賜はせたりしなん、よろこび聞えさする」
④ ある人のことを「世間の人が…という」の意で、呼ばれる人を敬っていう。(名を)…とお呼び申しあげる。
大鏡(12C前)四「このおとど、これ大入道殿の御三郎、粟田殿とこそはきこえさすめりしか」
[二] 補助動詞として用いる。「きこえる(聞)(二)(二)」の用法と同じであるが、動作の対象を敬う度合が強い。他の動詞に付いて、その動詞の表わす動作の対象を敬う謙譲語。…申しあげる。
※蜻蛉(974頃)中「いつもおろかに思ひきこえさせざりし御すまひなれど」
※源氏(1001‐14頃)帚木「なほさて待ちつけきこえさせむ事のまばゆければ」
[補注](1)「聞こゆ」よりも謙譲の意が強い。平安時代末になると、「聞こゆ」と敬意は同等近くになると同時に、急速に衰え、補助動詞には「参らす」が用いられるようになってくる。
(2)「聞こえさす」の「さす」は「聞こえさせ給ふ」などのように尊敬の用法もあるので、注意を要する。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android