日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝芽腫」の意味・わかりやすい解説
肝芽腫
かんがしゅ
hepatoblastoma
小児の原発性肝臓がんとしてもっとも頻度の高い悪性腫瘍(しゅよう)。小児の肝臓がん中8割以上を占める。1歳をピークとして3歳までの乳幼児期に好発する。日本では年間30~40例程度の発生数と推定されており、小児の悪性腫瘍のなかでも1%程度のまれな腫瘍である。
特徴的な症状はないが、腹部膨満や腹部腫瘤(しゅりゅう)の触知による発見が多く、腹痛、嘔吐(おうと)や発熱の症状をきっかけに精査した結果、発見されることもある。血液検査ではα(アルファ)フェトプロテインが著明に高値となる。肺、脳、骨、骨髄などに転移することもある。
病期分類は、肝臓内に腫瘍の存在しない区域がどれだけ残存しているかをⅠ~Ⅳに分け、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを標準リスク群、Ⅳを中間リスク群、遠隔転移例を高リスク群として分類している。
治療はリスク分類に応じて行われる。たとえば中間リスク群の場合、術前化学療法としてシスプラチンとドキソルビシンを併用し、腫瘍を縮小させてから外科的に切除する。術後は補助化学療法を行う。標準リスク群の5年生存率は90%と予後良好である。診断から3年が経過すると再発の可能性は大きく減少する。高リスク群に対しては、シスプラチンを含む化学療法の併用が行われ、腫瘍縮小後に原発巣と肝外病変の切除が行われる。手術での切除範囲や病理組織型、残存病変の有無などによって術後化学療法や肝移植が考慮されることもある。
[渡邊清高 2019年11月20日]