内科学 第10版 「胃良性腫瘍・胃ポリープ」の解説
胃良性腫瘍・胃ポリープ(胃・十二指腸疾患)
胃良性腫瘍は胃に生じる発育速度が遅く転移をきたさない腫瘤で,上皮性のものと非上皮性のものがある.上皮性の胃良性腫瘍の多くは粘膜上皮の局所的増殖によって胃内腔に突出する隆起性病変を形成し,これは胃ポリープとよばれる.一方,非上皮性の胃良性腫瘍は胃粘膜下に腫瘤が存在し胃粘膜下腫瘍とよばれる(胃粘膜下腫瘍については8-4-11)を参照).
分類・病態
胃ポリープは病理組織型などにより分類されており,頻度の高い胃ポリープには,胃底腺ポリープ,過形成性ポリープ,腺腫性ポリープがある.そのほかに,Cronkhite-Canada症候群,若年性ポリポーシス,Peutz-Jeghers症候群などの胃病変としてみられるものがある.
1)胃底腺ポリープ(fundic gland polyp):
胃底腺ポリープは胃底腺の囊胞状拡張を伴う過形成によるものであり,胃体部を中心とする胃底腺領域にみられる.家族性大腸腺腫症では胃底腺ポリープが高頻度にみられ,100個以上多発してみられることが多く胃底腺ポリポーシスとよばれる.通常の胃底腺ポリープは中年女性の萎縮のない胃粘膜に多くみられるが,家族性大腸腺腫症に合併する胃底腺ポリープは20歳代の比較的若年で発生する.家族性大腸腺腫症の患者を除いて胃底腺ポリープは癌化しないと考えられている.
2)胃過形成性ポリープ(gastric hyperplastic polyp):
胃過形成性ポリープは腺窩上皮の過形成によるものであり,Helicobacter pylori胃炎や自己免疫性胃炎による萎縮性胃炎粘膜を背景に発生する.2 cmをこえる大きいものでは胃癌の合併が多く,胃過形成性ポリープ全体の1.5~4.5%に異形成や癌が認められるとされている.
3)胃腺腫性ポリープ:
胃腺腫性ポリープは異型上皮の増殖による腫瘍性ポリープで,高度の胃粘膜萎縮や腸上皮化生を背景として発生する.高齢男性に多い.腺腫は癌化すると考えられており,特に2 cm以上の大きいものや組織学的異型度の高いものでは癌化率が高いとされている.
臨床症状
無症状のことが多く,上部消化管内視鏡検査や胃X造影検査時に偶然に発見されることが多い.過形成性ポリープでは,貧血がみられることがある.
診断・治療
通常,上部消化管内視鏡検査および生検材料を用いた病理組織検査により診断される.ポリープの大きさや形状,色調は鑑別診断に有用であり,胃隆起性病変の形状の分類として山田分類が用いられる(図8-4-15).胃底腺ポリープと過形成性ポリープ,腺腫性ポリープの特徴を表8-4-4に示す.
1)胃底腺ポリープ(図8-4-16):
胃底腺ポリープは胃体部と穹窿部の胃底腺領域に数mm大の無茎性または亜有茎性隆起(山田Ⅱ型あるいはⅢ型)の多くは多発してみられる.色調は周囲の粘膜と変わらないことが多い.確定診断は生検によるが,ポリープの形態や分布から診断は比較的容易である.家族性大腸腺腫症に合併する胃底腺ポリープを除いて胃底腺ポリープは癌化しないと考えられており,通常,放置してよいとされている.
2)胃過形成性ポリープ(図8-4-17):
胃過形成性ポリープは,小さいものは半球状のものが多いが,大きいものは有茎性を呈する.表面は発赤し,しばしば表面のびらんや白苔,凝血塊が混在して腐れいちご状を呈する. H. pylori除菌によりポリープの消失がみられることが報告されており,除菌が推奨されている.2 cm以上のポリープでは癌化のリスクが高いことが指摘されており,注意が必要である.ポリープが大きい場合や,出血や貧血がみられる場合は内視鏡的切除を考慮する必要がある.
3)胃腺腫性ポリープ(図8-4-18):
胃腺腫性ポリープは扁平隆起で,色調は褪色調(やや白色調)のものが多い.胃腺腫の多くは隆起性病変を形成するが,まれに陥凹型を示すものがある.胃腺腫性ポリープではⅡa型早期胃癌との鑑別が必要であり,陥凹型胃腺腫ではⅡc型早期胃癌との鑑別が必要となる.胃腺腫は生検診断ではグループⅢと診断される.異型度が高い場合には,生検によっても高分化型胃癌との鑑別が困難な場合があり,その場合には内視鏡的粘膜切除が行われる. 癌化のリスクがあり,定期的な経過観察が必要である.2 cm以上の大きいものや癌が疑われる場合には内視鏡的粘膜切除が行われる. 胃腺腫や胃過形成性ポリープの患者は背景の萎縮性胃炎粘膜から胃癌が発生するリスクも高いので,内視鏡検査時には胃内の十分な観察が重要である.[篠村恭久]
■文献
Jain R, Chetty R: Gastric hyperplastic polyps: A review. Dig Dis Sci, 54: 1839-1846, 2009.田沼徳真,篠村恭久:胃良性腫瘍.消化器研修ノート(白鳥敬子,菅野健太郎,他編),pp335-336, 診断と治療社,東京,2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報