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胃癌 いがん stomach cancer

6件 の用語解説(胃癌の意味・用語解説を検索)

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

胃癌
いがん
stomach cancer

胃壁に生じる癌腫で,癌の浸潤が粘膜下層までにとどまっているものを早期癌,固有筋層から漿膜に達するものを進行癌という。リンパや血液を介してリンパ節,肝臓,膵臓,腹膜などに転移しやすい。

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デジタル大辞泉の解説

い‐がん〔ヰ‐〕【胃×癌】

胃に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。初期には自覚症状がないが、進行するにつれ食欲不振や胃の不快感から、しだいに吐血・下血などの症状がみられるようになる。

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百科事典マイペディアの解説

胃癌【いがん】

日本では各種臓器の癌のうち第1位を占めるが,近年は減少傾向にある。特に50歳以上の男性に多い。幽門部,小彎(わん)に好発し,次いで胃体,噴門に発生する。初期には特有の症状はなく,不定の胃症状を訴える。
→関連項目胃液検査胃潰瘍胃拡張転移(医学)乳癌フィービガー無酸症幽門狭窄

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世界大百科事典 第2版の解説

いがん【胃癌 gastric cancer】

胃の粘膜に発生する悪性腫瘍。尾崎紅葉が30歳代の若さで胃癌になったときに,〈セントヘレナの古英雄をもたおせし不治の胃癌〉といったように,ナポレオン1世は胃癌で死んだといわれている。ナポレオンの家系には胃癌が多かったようだ。日本では徳川家康の家系に胃癌が多いといわれている。この病気は最近まで治らないものと考えられてきたが,今では,早く発見して適切な治療をすれば,ほとんどが助かる病気の一つに数えられるようになった。

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大辞林 第三版の解説

いがん【胃癌】

胃の上皮から発生する悪性腫瘍。ごく初期には全く症状がないが、次第に胃部の痛み・膨満感、はきけ・食欲不振・胸やけなど不定の胃症状が自覚され、吐く物や大便に血液が混じることがある。

出典|三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

胃癌
いがん

胃に発生した癌腫(がんしゅ)のことで、胃の悪性腫瘍(しゅよう)のなかでは約98%を占める。わが国は世界第一の多発国で、1980年ごろから減少傾向がみられるとはいえ、胃癌患者は依然として癌患者のなかでもっとも多い。X線診断や内視鏡診断の水準向上と健康診断の普及によって早期癌の発見率は向上し、治療効果が得られ、胃癌による死亡は減少しつつある。1999年(平成11)の年齢調整死亡率(人口10万人当り)は男性40.8、女性15.9であったが、2005年の年齢調整死亡率(人口10万人当り)は男性32.8、女性12.5である。[三輪 剛・五十嵐宗喜]

原因

古くから刺激説、胎生説、迷芽説、細菌説、ウイルス説など多くの学説が唱えられたが、胃癌も遺伝子の病気で、発癌は癌遺伝子、癌抑制遺伝子やDNA修復遺伝子の異常が複数個蓄積することによって、段階的におこってくるとされるようになった。
 癌遺伝子として、ラス遺伝子、K・サムイ遺伝子、c・アーブB2遺伝子、c・メト遺伝子、癌抑制遺伝子としてp53遺伝子、APC遺伝子、DCC遺伝子などの変異によって胃癌がおこってくると考えられている。このほか、細胞分裂を繰り返すと、本来は短くなるはずのテロメアtelomere(染色体の両末端にある遺伝子配列)でテロメラーゼtelomerase(逆転写酵素に類似した働きをもつ酵素)の活性が亢進(こうしん)し、アンチセンスhTRの発現亢進を促し、癌化に関与してくるのではないかと注目されている。
 また、もっとも重要な発癌因子がヘリコバクター・ピロリHelicobacter pylori感染であることは多くの疫学的研究や動物への感染実験から確実であるが、機序に関して更なる研究が進められている。またEBウイルス感染に関しても研究が進められている。[三輪 剛・五十嵐宗喜]

病型と病態

胃癌には分化型腺癌(せんがん)と未分化型腺癌とがある。分化型腺癌には正常胃粘膜にみられる表層性胃炎が加齢とともに萎縮(いしゅく)性胃炎、腸上皮化生へと進み、さらに異型上皮から胃癌が発生してくるといわれている。これらの過程でヘリコバクター・ピロリ菌の感染が関与していると考えられている。未分化型腺癌は腸上皮化生を経ないで癌化するものでスキルス胃癌とよばれている。
 胃癌は、肉眼的分類で0~5型に分類される。癌の浸潤の深さが粘膜内または粘膜下層までにとどまっているものを0型癌といい、これはいわゆる早期癌である。固有筋層およびそれよりも深く浸潤しているものを進行癌とよび、1~4型に分類される。5型は、0~4型に分類できないものである。[三輪 剛・五十嵐宗喜]
早期胃癌
0型癌はさらに次のように分類されている。型は隆起型で腫瘤(しゅりゅう)状の隆起が認められるものである。型は隆起や陥凹がはっきりしない表面型である。型のなかには低い隆起のある表面隆起型のa型、隆起も陥凹もない表面平坦(へいたん)型のb型、浅い陥凹の認められる表面陥凹型のc型がある。型は明らかに深い潰瘍がありその辺縁に癌がみられるものである。これらのうち約60%がc型またはc+型とよばれるものであり、胃潰瘍との鑑別診断が重要な病変である。しかし、このことは、胃潰瘍から癌が発生するということではなく、多くは胃潰瘍と胃癌がほぼ同じ部位に併存したものである。型やa型のように陥凹を伴わない早期癌では自覚症状のない場合が多く、積極的な健康診断を通して発見されることが多い。[三輪 剛・五十嵐宗喜]
進行胃癌
進行癌は1型から4型まで分類される。この分類はいわゆるボールマン分類に準じている。1型は、胃の内腔(ないくう)に隆起した腫瘤を形成し、周囲とはっきり区分される癌である。2型は、周囲が堤防状に隆起していて、中にクレーターとよばれる潰瘍形成がみられる癌である。1型と2型は限局型ともいわれ、癌の浸潤範囲が比較的明瞭で手術による切除は比較的容易であるが、肝への転移をおこしやすい。3型は、癌性潰瘍を伴い、周堤をつくるが、その周囲に癌が浸潤して非癌部分の粘膜との境界が不鮮明である。4型は、限局した潰瘍形成も周堤もなく、びまん性に癌浸潤が波及し胃壁の肥厚硬化を特徴として癌病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なものである。3型と4型は癌浸潤と非癌部分の粘膜との境界が明らかでなく浸潤型ともよばれている。[三輪 剛・五十嵐宗喜]

症状

初期にはほとんど無症状である。ある程度の大きさになって初めて現れる症状は千差万別で、しかも軽いことが特徴である。全身的な影響がみられるまでは、胃癌特有の症状はなく、多くは胃炎、胃潰瘍との区別が困難である。
 もっとも多い症状は、心窩(しんか)部(みぞおち)になんらかの痛みを訴えることである。ついで食後の胃部膨満感である。吐き気や嘔吐(おうと)は幽門部癌ではよくみられるが、進行癌では部位に関係なく生ずる。とくに4型で、何か月も前から腹部膨満感と吐き気があったという例が少なくない。食欲不振や体重減少はよくみられる症状である。貧血、吐血や下血も比較的多い症状である。
 初発症状が転移に起因することがあり、腹水による腹満感、肝転移や肝門部リンパ節転移が原因となって黄疸(おうだん)が出現したり、脳転移による神経症状、肺転移による咳嗽(がいそう)(咳(せき))、喀血(かっけつ)、骨転移による関節痛や骨痛、腹腔内転移による腸閉塞(へいそく)など多種多様な症状が出現することもあるが、これらは末期症状である。[三輪 剛・五十嵐宗喜]

診断

大別して集検(スクリーニング)と通常の外来検査の方法がある。
 集検(集団検診)では、多くは40歳以上の人を対象に検査を行うX線間接撮影検査で、なんらかの異常所見の認められた者、あるいは血清ペプシノーゲン検査によって、胃癌のハイリスク・グループ(その病気になりやすい危険因子をもつ人)を拾い出し、精密検査を行う。精密検査は、X線検査と胃内視鏡検査である。胃内をくまなく観察し、癌が疑われる病変をすべてチェックする。この内視鏡を通して疑わしい病変から組織片を採取(生検という)し、顕微鏡的に癌組織の有無を検索して診断を確定する。
 外来検査では、多くは愁訴(しゅうそ)(自覚症状)をもった人が対象となる。X線検査と内視鏡検査を併用するのが原則で、両検査の長所と短所を相補って確実な診断を下す。したがって、しかるべき医療機関で受診すれば、ほぼ間違いなく正確な診断を得ることができる。ただし、4型の一部のものは診断がきわめて困難なことがあるので、ときに見落としがおこることもある。1年に1回の検査を励行していれば、胃癌の早期発見は可能である。
 表面平坦(へいたん)型のb型早期癌の診断はかならずしも容易とはいえない。色素内視鏡という特殊な検査法を用いて診断する。さいわいb型早期癌は、癌がまだ粘膜層に限局している場合が多く、経過観察中に色調の変化、小さな出血点やびらんなどが出現することがあり、それをきっかけに生検により診断することができる。したがって、専門医の勧める検査を拒否しないこともだいじなことである。最近、DNAチップを使って胃癌の悪性度を判定する診断法が開発された。癌病巣にある癌進行度と関係する遺伝子は、正常組織に比べてどの程度変化しているかをチップで調べて評価し、それによって、より効果的な治療を行おうというものであり、現在もさらなる研究が進められている。[三輪 剛・五十嵐宗喜]

治療

早期発見・早期手術が基本である。以下、内科的治療、外科的治療について解説する。[三輪 剛・五十嵐宗喜]
胃癌の内科的治療
胃癌の内科的治療は、なんらかの理由により手術ができない場合、または根治手術が不可能であった場合、再発した場合などに行われる。化学療法、放射線療法、内視鏡的療法、全身療法などがある。
(1)化学療法 種々の抗癌剤を併用して経口的に、経静脈的に、局所動脈的に、腹腔内に、または坐薬(ざやく)として投与する。抗癌剤にはアルキル化剤、代謝拮抗(きっこう)剤、抗生物質、そのほか白金原子を含む無機化合物であるシスプラチンなどがあり、それぞれに薬の効き方や有効時期が異なるので、多剤併用が多く用いられる。また薬剤のなかには、一定の血中濃度を長期間保ったほうがよく効くものと、高濃度で短期間用いるべきものとがあり、それらをいろいろ組み合わせて使用法が決められる。現在は、経口抗癌剤に種々のパートナーとなる他の薬剤の組み合わせが主流となっている。症状の寛解(自覚症状の軽減状態)や生存期間の延長には有効なことも少なくないが、根治はむずかしい。
(2)放射線療法 リニアック(線状加速器)によるX線やテレコバルト(大量コバルト遠隔照射装置)によるγ(ガンマ)線を局所に照射する方法であるが、ある種の抗癌剤との併用が多い。
(3)免疫療法 免疫能を賦活(ふかつ)してやることによって全身的な免疫抵抗力をつけることと、癌細胞に対する免疫殺細胞力を高めるための目的で、免疫賦活剤を投与する方法である。この治療法はほかの治療法と併用して初めて効果を現すといわれる。賦活剤として生物反応修復物質、腫瘍壊死(えし)因子、インターロイキン2(癌細胞を殺したり免疫力を高めるT細胞を増殖させる因子)、モノクローナル抗体(単クローン抗体)などが用いられる。
(4)遺伝子療法 癌細胞を殺し、免疫力を高めるタンパク質をつくる遺伝子、あるいは癌抑制遺伝子を癌細胞に組み込むものなどがあり、近い将来登場してくるであろう。
(5)全身療法 栄養補給のために行う輸液をはじめ、貧血に対する輸血、その他の対症療法が行われる。[三輪 剛・五十嵐宗喜]
胃癌の外科的治療法
胃癌は胃の粘膜のなかで発生し、癌細胞の増殖に伴い粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、漿膜と胃の深部へ浸潤発育していく。この胃癌の浸潤の深さの程度を深達度とよぶ。胃癌の浸潤が粘膜下層までに留まっているものを早期胃癌とし、浸潤が固有筋層以深に至ったものを進行胃癌とよぶ。胃は分泌された胃酸と食物を混ぜ合わせ、すりつぶす機能を果たすため、筋層が発達し血流が多く、血管網が発達している。血管にはリンパ管が伴走しており、胃癌の浸潤が進み、こうした脈管へ癌が入り込むと血行性やリンパ行性に転移をきたす。
 リンパ節への転移率は、癌が粘膜に限局していれば0%、粘膜下層までであれば15%(胃の周囲、癌の近傍のリンパ節への転移に留まることが多い)、筋層では40~50%、漿膜下層では60%以上、と深達度が進むにつれ、リンパ節への転移も広がる。外科的手術を行う場合に、粘膜下層までの癌であれば、きれいに胃癌病巣を切除できる可能性が高く、治療成績も良いことから早期癌と定義されている。
 癌は、個人のDNAに異常が起こり発症する病気なので、その成長速度や制癌剤の感受性などに個人差がみられ、一律ではない。学問的に比較検討するために、肉眼形態(医師が肉眼で見た所見、形態)、組織学的な形態などの違いで分類される。[榊原 宣・榊原 敬]
深達度と転移の分類
早期癌は、肉眼形態0型として、0-型(腫瘤状の隆起が認められるもの)、0-型(隆起や陥凹に乏しい平坦型)、0-a(平坦ながらも浅い隆起を伴うもの)、0-b型(完全な平坦型)、0-c型(平坦ながらも浅い陥凹を伴うもの)、0-型(明らかな陥凹が見られるもの、癌は陥凹底にはなく、陥凹の辺縁に存在する)に区分されるが、早期癌の70%は0-c型、0-c+型が占める。早期癌の深達度は粘膜、粘膜下層までなので、T1と規定される。ここ20年余りの間に胃癌における早期癌の比率が増え、胃癌の70~85%が早期癌である。
 進行癌の深達度は、T2(筋層・漿膜下層への深達)、T3(漿膜へ露出)、T4(胃の隣接臓器へ浸潤)と規定される。ほかに胃癌の進行度を規定する因子として、リンパ節転移などがある。リンパ節への転移がない場合はN0、転移がある場合は進行度によりN1、N2、N3と称する。肝臓への転移がない場合はH0、転移がある場合はH1、腹膜播種の転移なしはP0、転移ありはP1、腹水細胞診で転移なしはCY0、転移ありはCY1、遠隔転移の転移なしはM0、転移ありはM1、というように分類される。
 これらの組み合わせにより、病期を表わすステージStageの区分がなされる。具体的には、StageA、StageB、Stage、StageA、StageB、Stageと判定される。T1N0(早期癌でリンパ節転移なし)であればStageA であり、T1~T4とN0~N2に応じてStageB、Stage、StageA、StageBと区分される。さらに胃癌が進行し、N3、T4N2、H1、P1、CY1、M1のいずれか以上に該当すればStageである。T3症例などでは、P0(肉眼的に腹膜播種なし)でも比較的短期間に癌性腹膜炎に進行することがあり、腹水洗浄細胞診で遊離癌細胞が認められれば(CY1)、Stageと規定されている。[榊原 宣・榊原 敬]
内視鏡治療
内視鏡治療は、StageA(T1N0)のうち以下の条件に合うものが対象となる。m癌(粘膜内にとどまっている状態の癌)のうち、癌の大きさが2センチメートル以下で、病変内に潰瘍がない分化型癌が内視鏡下粘膜切除術(EMR)の適応である。
 近年では、内視鏡下に粘膜を切離する器具(ITナイフ、フックナイフ、フレックスナイフなど)の創意工夫により、粘膜を大きく一括切除ができる内視鏡下粘膜剥離(はくり)術(ESD)が行われるようになった。ESDは内視鏡治療の可能性を拡大する新しい手技(しゅぎ)であり、病変内に潰瘍がない分化型m癌であれば大きさをほとんど気にせず内視鏡治療が行える。さらに、EMRの適応とはならない分化型m癌(病変内に潰瘍がある場合)や小さな未分化型m癌などへの内視鏡治療の適応拡大が図られている。
 ただし、日本胃癌学会による胃癌ガイドラインにおいて、日常診療と臨床研究とは区別されており、実際のESDの適応基準は施設ごとに異なり、まだ治療効果の評価が確立されていない面もある。ESDは、手技的にも難易度が高く時間がかかり、出血、穿孔(せんこう)のリスクも高いが、そのメリットは大きく、保険診療がすでに認められている。なお、ペースメーカー植込み後の場合、EMRは行えてもESDは施行できないといった制約もある。
 内視鏡治療で再発がみられた場合、内視鏡下の再切除(EMRで根治可能であればEMRが第一選択)やレーザー治療(YAG、PDT:基本的にEMRやESDでの根治治療が困難で、リンパ節転移がないと判断されるものが対象)、外科的治療などが状況に合わせて選択される。レーザー治療では、病理診断ができないという欠点があり、とくにPDTでは薬剤過敏、ポルフィリン症が禁忌となっている。[榊原 宣・榊原 敬]
外科的治療
StageAで内視鏡治療の適応からはずれるもの、StageBで癌の大きさが2センチメートル以下のものは、縮小手術が選択される。StageBで癌の大きさが2.1センチメートル以上、Stage、StageA、StageBでT4ではないものが定型手術、StageA、StageBかつT4であれば拡大手術(合併切除)が基本となる。Stageのうち、T4N2、N3であれば拡大手術が行われることがあるが、H1、P1、CY1、M1のいずれかがあれば、根治手術はむずかしい。
(1)幽門側胃切除術
 系統的なリンパ節の廓清(かくせい)(取り去ること)とともに、幽門(胃の出口)を含め胃の3分の2以上~4分の3程度を切除する標準術式である。術後15%に胃切後胆石や胆嚢(たんのう)炎が生じるリスクがあり、胆嚢摘出術を併施する場合がある。従来は開腹手術が行われてきたが、近年ではStageA・B症例を主体に腹腔鏡下手術の拡大が図られている。
(2)胃全摘術
 おもに進行胃癌に対して、系統的なリンパ節の郭清とともに胃の全部を切除する。胃の上部の早期癌に対しても、十分なリンパ節の郭清が求められる場合に選択される。癌の進行度によって脾臓や膵臓の体尾部をひとかたまりにして切除することがある。幽門側胃切除術と同様に胆嚢摘出術を併施する場合がある。腹腔鏡下手術も行われるようになった。
(3)その他の機能温存手術
 胃切除後症候群を軽減するため、胃癌の根治性を保ちつつ機能温存を図る縮小手術の工夫が凝らされている。胃の上部の癌に対する噴門側胃切除術(十分なリンパ節の郭清は困難で、リンパ節転移のリスクがない早期癌が対象)、胃の中部~下部の癌に対する幽門温存胃切除術、などが行われている。
(4)バイパス手術
 胃癌が進行し消化管の通過障害をきたした場合、バイパス手術が行われることがある。すでに癌の腹膜播種があり癌性腹膜炎へ進行していると、バイパス手術の適応はなく、かなり限られた症例でしか行われていない。
(5)開腹手術と腹腔鏡下手術
 開腹手術の方が直接術者の手に触れるため、糸の縫合や止血操作を手際よく行うことができる。胆嚢以外の臓器を一緒に切除する場合には開腹で手術を行う。腹腔鏡下手術は腹壁の傷が小さく、術後の回復が早いことが利点である。カメラを使うため、深い部位でも視野が良いという利点もあるが、腹腔内の癒着が強い場合、出血が多い場合などでは視野が不良となり、開腹手術への移行が必要となる。
 腹腔鏡下手術では、通常炭酸ガスを腹腔へ充填(じゅうてん)するため、横隔膜の拳上(けんじょう)(横隔膜が正常な位置より上になること)や静脈の圧排(あっぱい)、静脈還流障害が起こり、呼吸機能の低下・循環動態の不安定などの症例では不向きである。ほかに、静脈内血栓による肺塞栓(そくせん)のリスクがあり、予防対策が必要である。
 2008年現在、胃癌治療ガイドラインによる腹腔鏡下手術の適応は、StageA・B症例である。腹腔鏡下手術も比較的早期のStageであれば開腹手術と比較して遜色ない成績が報告され、臨床研究では適応の拡大が図られている。しかし、リンパ節転移のN1症例においては確実なD2郭清(リンパ節転移2群の郭清)が必要とされ、腹腔鏡下手術における手術難易度は高く、この手技を確実にこなせる外科医は現時点では限られている。さらに、術後合併症の発生率もまだ高く、現状では腹腔鏡下手術は限られた症例に行うべき外科的治療である。[榊原 宣・榊原 敬]
外科的治療と化学療法
外科的手術を施行したStageA・Bは、化学療法の適応がある(StageA・Bであれば化学療法の必要性はない)。また切除不能やStageなどのかなり進行した胃癌に対し、化学療法を行い腫瘍縮小効果が得られてから外科的手術にもち込む場合(術前化学療法)もある。
 これまでさまざまな化学療法の取り組みが行われてきたが、2008年の時点でもっとも標準的な化学療法は、S-1+CDDP併用療法である。S-1単独で投与されることもある。このほか、5FU、UFT、CPT-11、ドセタキセルdocetaxelなどの薬剤が用いられる。化学療法は、基本的には細胞を殺す薬の投与であり、正常細胞より癌細胞にダメージを与える工夫がされている。しかし、体力的に余裕がなければ、逆に身体の正常細胞が癌細胞よりも先にへばってしまうリスクがあるので、高齢者には使いづらい面がある。
 分子標的薬とよばれる新しい薬の開発が進められている。とくに癌細胞のなかでも増殖力の旺盛な癌幹細胞を効率的にたたく新薬の登場が待たれる。[榊原 宣・榊原 敬]
外科的治療と放射線療法
これまで日本では、腺癌に対し放射線療法は無効とするデータが出されてきたが、欧米では手術成績が悪いこともあり放射線療法を生かす研究が行われてきた。化学療法のS-1やCDDPを投与すると放射線感受性が高められることが明らかにされ、化学療法と放射線療法の併用が有効であると、海外で報告されている。それを受け、一部の施設で化学療法と放射線療法の併用の取り組みが日本国内でも始められた。[榊原 宣・榊原 敬]

予後

胃癌に対しては、さまざまな治療法があるが、予後は進行度などによって異なる。胃癌の病期(Stage)別の5年生存率について、全国がんセンター協議会の集計(1997~2000年初診)では、5年相対生存率がStageでは99.1%、Stageでは72.6%、Stageでは45.9%、Stageでは7.2%、全症例(での生存率)では71.8%、手術症例(での生存率)では76.0%と公表されている。とくにStageからStageBでは治療成績に施設間格差が存在することも事実であり、外科的手術、化学療法などを組み合わせた集学的治療をいかに上手に行うかが重要である。[榊原 宣・榊原 敬]
『崎田隆夫編『内科Mook8 胃癌』(1979・金原出版) ▽太田邦夫他編『癌の科学1~5』(1980・南江堂) ▽日本胃癌学会編『胃癌取扱い規約』第13版(1999・金原出版) ▽日本胃癌学会編『胃がん治療ガイドラインの解説』(2004・金原出版) ▽中島聡総他著『今日の胃癌治療の現況』(1999・日本胃癌学会) ▽新津洋司郎他編『臨床家のためのがん遺伝子/がん抑制遺伝子』(1999・南江堂) ▽小川道雄編『消化器外科最新の進歩』(2001・へるす出版) ▽『外科治療 2007年10月号 特集「胃癌治療の新しい動向」』(2007・永井書店) ▽『消化器外科 2008年1月号 特集「EMR,ESDの適応と手技」』(2008・へるす出版) ▽『消化器外科 2008年4月臨時増刊号 特集「胃癌のすべて」』(2008・へるす出版) ▽『日本臨床No.939 2008年7月増刊号 特集「胃癌」』(2008・日本臨床社) ▽後藤田卓志著『早期胃がんに対する内視鏡切除の適応』「日本消化器病学会雑誌 第105巻 第7号」 (2008・日本消化器学会) ▽宇山一朗著『早期胃癌に対する腹腔鏡下胃切除の適応』「日本消化器病学会雑誌 第105巻 第7号」 (2008・日本消化器学会) ▽榊原宣著『胃がん』(岩波新書) ▽榊原宣著『胃がんと大腸がん』新版(岩波新書)』

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世界大百科事典内の胃癌の言及

【胃X線検査】より

…本法はとくに隆起性病変の検査にすぐれた方法である。現在のX線診断は小さな胃潰瘍とか微小早期胃癌のある種のものはX線検査およびX線診断では明りょうに描写されているにもかかわらず,手術によって胃漿膜からは病変部を確認できず,切開して胃壁を露出して初めて病変を確認したり,病理組織標本で確診に結びつく場合が多くなった。これほどに胃X線検査およびX線診断の技術は進歩している。…

【潰瘍】より

胃潰瘍は消化性潰瘍といわれるが,胃酸分泌過多,胃壁を保護する粘液の減少,それにストレスなどの神経要因が加わって,胃酸による粘膜の自己消化が進行し,潰瘍形成に至る。胃潰瘍と鑑別すべきものに,胃癌の潰瘍化がある。これは,胃癌の中心部分が循環障害のために壊死に陥り自潰して潰瘍をつくったものである。…

【癌】より

… 癌は,これら悪性腫瘍の総称名であるが,狭義に癌腫を意味して使われることも多い。胃癌といえば,胃の癌腫=上皮性悪性腫瘍を意味するのがふつうである。 腫瘍細胞は,一般にそれが由来した母細胞の特徴を保持している。…

【手術】より

…またメスが及ばないと断念されていた肝臓癌も,術中超音波診断による切除範囲決定や,レーザーメスの開発で広範囲切除も可能となっている。胃癌の手術に関しては,日本の成績は世界に誇りうるものである。
[救急外科,形成外科の進歩]
 20世紀における2回の世界大戦や幾多の戦乱は,医学の面に限っていえば,ショックや感染症などに対する知見を豊かにし,破傷風や熱傷などに対する救急的外科処置が大いに改善された。…

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