胃癌(読み)いがん(英語表記)stomach cancer

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

胃癌
いがん
stomach cancer

胃壁に生じる癌腫で,浸潤が粘膜下層までにとどまっているものを早期癌,固有筋層から漿膜に達するものを進行癌という。リンパや血液を介してリンパ節,肝臓,膵臓腹膜などに転移しやすい。症状としては痛や異常感,食欲不振,胸焼け,吐き気などがあるが,初期には無症状のことが多いので,自覚症状を頼りにしていては,早期癌は発見できないことが多い。診断にはX線検査胃内視鏡検査細胞診,組織検査などを行う。日本では最近,食生活の欧米化などに伴って大腸癌が激増しているが,それでも胃癌は相変らず発生頻度が高く,男性では全癌の半数以上,女性では子宮癌に次いで第2位を占めているが,外科治療や化学療法などの進歩によって,早期癌の5年生存率は 90%以上,進行癌でも 30~40%と,なおりやすい癌の1つになっている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディアの解説

胃癌【いがん】

日本では各種臓器の癌のうち第1位を占めるが,近年は減少傾向にある。特に50歳以上の男性に多い。幽門部,小彎(わん)に好発し,次いで胃体,噴門に発生する。初期には特有の症状はなく,不定の胃症状を訴える。みぞおちの膨満感,吐き気,圧感,胸やけ,食物の好みの変化(特にタンパク質性食品の嫌悪(けんお)),貧血,体重減少等である。40歳以上で原因不明の体重減少,顕著な疲労のある時は注意が必要。進行すれば,吐血,タール便が出現し,リンパ節,肝臓,腹膜,肺その他に転移する。X線・胃カメラ検査,胃液検査特に癌細胞の発見により確診する。手術,レーザー,高周波バイオプシー,放射線治療および制癌薬で治療する。最近は,早期胃癌(癌の浸潤の深さが胃粘膜下層までに限られるもの)の段階で発見されれば,主として手術により,5年生存率は90%以上になった。これらの意味で定期的胃検診はきわめて有益である。→
→関連項目胃液検査胃潰瘍胃拡張転移(医学)乳癌フィービガー無酸症幽門狭窄

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版の解説

いがん【胃癌 gastric cancer】

胃の粘膜に発生する悪性腫瘍。尾崎紅葉が30歳代の若さで胃癌になったときに,〈セント・ヘレナの古英雄をもたおせし不治の胃癌〉といったように,ナポレオン1世は胃癌で死んだといわれている。ナポレオンの家系には胃癌が多かったようだ。日本では徳川家康の家系に胃癌が多いといわれている。この病気は最近まで治らないものと考えられてきたが,今では,早く発見して適切な治療をすれば,ほとんどが助かる病気の一つに数えられるようになった。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

大辞林 第三版の解説

いがん【胃癌】

胃の上皮から発生する悪性腫瘍。ごく初期には全く症状がないが、次第に胃部の痛み・膨満感、はきけ・食欲不振・胸やけなど不定の胃症状が自覚され、吐く物や大便に血液が混じることがある。

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

精選版 日本国語大辞典の解説

い‐がん ヰ‥【胃癌】

〘名〙 胃に生じる癌腫(がんしゅ)。多発部位は幽門部で、ついで胃体、噴門とつづく。初期には特別の症状はないが、食欲不振、おくび、胃の膨満感など、慢性胃炎と同じ訴えがなされる。次第に嘔吐、貧血、体重減少、悪液質の症状を示す。
※妹と背かゞみ(1886)〈坪内逍遙〉二「更に胃癌(イガン)といふ病にかかりて〈略〉終に黄泉の人となりぬ」
[補注]漢方で「膈(かく)の病」と呼ばれていた病気と考えられる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

内科学 第10版の解説

胃癌(胃・十二指腸疾患)

概念
 胃癌は胃粘膜から発生する上皮性の悪性腫瘍で,胃を上部,中部,下部に三等分すると,中部と下部に発生する場合がほぼ同等で全体の80%を占める.また,術後の胃に発生する癌を残胃の癌とよぶが,最近では早期胃癌術後の残胃の癌が増加しつつある.
疫学
 がん研究振興財団の2009年度集計によると悪性新生物が死亡率の第1位であるが,そのなかで胃癌の年齢調整死亡率は低下傾向にあり,人口10万人当たりの全癌に占める胃癌の割合は男性では15.9%,女性では12.5%であり,1985年の男性27.3%,女性24.3%と比べるとほぼ半減している.しかし,全国の胃癌死亡総数は50017人であり,部位別の癌死亡数では肺癌についで第2位である.さらに,胃癌の罹患数は2005年では117137人と,全部位での癌罹患数 676075人の17.3%と最も多い.年齢階級別の罹患率でみると徐々に低下傾向が認められるが,平均年齢の延長に伴い高齢者においては上昇しており,患者総数としてはむしろ増加している. 年齢別では,60歳代にピークがあり,性別では,罹患数,死亡数ともに男性が女性に比して多いが,20~39歳の若年ではむしろ女性の方が罹患数,死亡数ともに男性を上回っている.胃癌全体の男女比は1.9:1である.
組織発生
 わが国における胃癌の組織発生についての研究の歴史は長く,当初は進行癌が圧倒的に多かったことやドイツ学派の影響もあり,胃癌は潰瘍から発生するとする潰瘍癌説が有力であった.その後,わが国での上部消化管内視鏡の開発,発展,集団検診制度の充実などにより早期胃癌が多く発見され,潰瘍からの胃癌発生はきわめてまれであることが判明した.そして,多くの胃癌症例の病理学的検討を基に,胃癌は慢性萎縮性胃炎,あるいは腸上皮化生性胃炎などの胃炎を背景として発生するという考えが定着した.
 しかしながら胃癌発生の母地といえる胃炎,特に慢性萎縮性胃炎の原因については不明で,老化現象,塩分摂取,発癌物質摂取などさまざまな原因が複合的に作用すると考えられていた.ところが1993年にオーストラリアの病理学者であるWarrenと内科医であるMarshallによりピロリ菌(Helicobacter pylori)が胃の中から発見,同定され,この菌が胃に慢性炎症と腸上皮化生を発生させることが判明し,WHOのワーキンググループからピロリ菌感染は胃発癌の第一義的因子であると結論された.このことを裏付けるために動物による実験が数多く行われ,とくにピロリ菌の感染が容易なスナネズミを用いた発癌実験により,ピロリ菌単独では胃癌は発生しないが,ほかの発癌物質の作用を増強し,発癌を促進する作用を強力に有していることがわが国の研究者によってはじめて明らかにされた.
 したがって,乳幼児期や若年期にピロリ菌に感染することにより胃粘膜に慢性炎症が生じ,長期経過後に慢性萎縮性胃炎,腸上皮化生性胃炎へと進展し,その過程の中から胃癌が発生することになる.しかしながら,慢性胃炎から胃癌になるターニング・ポイント,分化型胃癌,未分化型胃癌の組織発生の分岐点の解明,それらの背景にあるジェネティック(遺伝的),エピジェネティックな変化についてはまだまだ不明であり,さらにピロリ菌の除菌による胃癌の予防については今後の課題となっている.
分類
 日本胃癌学会による胃癌取扱い規約を中心に述べる.なお,2010年に胃癌取扱い規約ならびに胃癌治療ガイドラインは大幅に改訂された.
1)肉眼分類:
胃癌を粘膜面からみて0型から5型までの6つに基本分類する.表在型である0型については,日本内視鏡学会分類(1962年)の早期胃癌の肉眼分類を参考とし,より分かりやすいように改変された(図8-4-19).0型の中ではⅡc型が最も多く70%前後を占め,さらにこれらのうちの70%が潰瘍(瘢痕)を伴っている.次に多いのがⅡa型であり,癌の最も初期像と思われるⅡb型は診断が難しい.1型から4型までは進行胃癌である(図8-4-20).これらのなかでは3型が最も多く,2型,4型,1型と続くが,4型はスキルス胃癌がその大半であり,予後はきわめて悪い(図8-4-21~8-4-30).5型は分類不能のものであり基本的には進行胃癌である.
2)進行度分類:
癌の浸潤の深さ,リンパ節転移,それ以外の部位への転移の3つの因子を組み合わせて分類しているが,これまでと異なりTNM分類を組み入れた新しい分類に改変された(表8-4-5).
 a)深達度:胃壁を粘膜層(M),粘膜下層(SM),筋層(MP)漿膜下層(SS),漿膜(S)に分け,深達度がSに達している場合は,直接他臓器への浸潤のなし(SE),あり(SI)を加えてT1a~T4bに分けている.そしてリンパ節転移や他臓器への転移の有無にかかわらず,粘膜下層までにとどまっている癌を早期胃癌,筋層以深に及んでいる癌を進行癌と定義している.最近では,診断される胃癌の60%以上が早期胃癌であり,M癌とSM癌との比率はほぼ1:1である.
 b)リンパ節転移:胃癌取扱い規約で一番変わったのがリンパ節転移の規定である.胃の領域リンパ節の規定はそのままであるが,転移の程度についてはTNM分類に準拠し転移個数によってN0~N3bに分類した(表8-4-6).なお,TNM分類におけるリンパ節転移の規定は,今回の胃癌取扱い規約の規定とはやや異なっている.
 c)ほかの部位への転移:領域リンパ節転移以外の転移をM1とし,特に肝転移(H),腹膜転移(P),腹腔洗浄細胞診(CY)はそれぞれ3つに分類し,記載することになった.なお,M1であれば,たとえ早期胃癌であってもステージ Ⅳとなる.
3)組織型分類:
胃癌のように多様な組織型があり,それぞれが一定程度の頻度で認められる癌はほかにはない.胃癌取扱い規約では,腺癌を一般型,それ以外の組織型を特殊型としている.一般型は,大きくは5つ,細かく分けると7つに分けられている(表8-4-7).このような多様な癌を大別する目的で,Laurenによるびまん型と腸型の分類,前述の中村による未分化型癌と分化型癌の分類がよく用いられている.最近では,粘液の免疫組織化学染色により胃型,腸型,胃腸混合型の3つに分ける方法も提唱されている.一般的には,癌が発育・進展するにつれて分化型から低分化,未分化型に組織型が変化していく.
発育と進展
 どのような早期胃癌がどのような進行胃癌に発育・進展していくかについては必ずしも明確ではない.一般的には0-Ⅱb型早期胃癌が初発と考えられているが,臨床的に診断可能なのは0-Ⅱa型や0-Ⅱc型のようにある程度形状が変化してからである.組織発生を検討する意味でより小さな癌を診断することは重要であり,大きさ5 mm以下の癌を微小胃癌,1 cm以下のものを小胃癌と呼称している.このような小さな癌の組織型は80%以上が分化型癌であるが,一般の胃癌では約半数が未分化型癌,低分化腺癌であることから,分化型癌と未分化型癌の発育と進展に差がある可能性が考えられている.
 いずれにしても,癌が発育するにつれて片方は0-Ⅱa型のような隆起型へ進展し,さらに発育してⅠ型,あるいは0-Ⅱa+Ⅱc型,そして1型,2型の進行胃癌へ,一部は3型へと進展していくものと考えられている.また,Ⅰ型の一部にはポリープ,特に腺腫から発生した癌が含まれている.一方,0-Ⅱc型のような陥凹型はそのまま深く浸潤していき,3型あるいは4型の進行胃癌へ進展していく.また,多くの0-Ⅱc型は病変内に潰瘍を伴うが,その一部は悪性サイクルとよばれる潰瘍の治癒,再燃を繰り返し,癌としての進展が比較的遅いものがある.したがって,0-Ⅲ型は潰瘍からの癌化を想定して考えられた分類であるが,実際はこの悪性サイクルの一段階を表していることになる.
転移・再発
 胃癌の転移・再発形式には,①リンパ節転移,②肺や肝臓,骨髄への血行性転移,③腹膜への直接転移(腹膜播種)の3つがある.早期胃癌では,根治手術後の再発のほとんどは肝臓,肺への血行性転移であり,組織型では分化型である.進行胃癌では,すべての転移・再発形式をとるが,特に未分化型,低分化腺癌では腹膜播種を起こしやすいことが特徴的であり,その代表がスキルス胃癌である.スキルス胃癌(scirrhous gastric cancer)とは,癌細胞が腺管を形成せずに多量の線維性結合組織の増生を伴ってびまん性に浸潤するもので,臨床的には胃壁の伸展不良をもたらしleather bottle様とよばれるX線像を呈する(図8-4-31).4型胃癌の大部分と3型胃癌の一部が該当する.また,未分化型癌が骨髄に転移するとDIC(播種性血管内凝固症)の所見を呈することがあり,骨髄癌症とよばれ出血傾向を呈し予後不良である.
臨床症状
 胃癌に特有の症状はなく,癌の進展に伴い出血,狭窄症状,食欲低下,体重減少,ときには腹水による腹部膨満を呈する.したがって,早期胃癌の段階では臨床症状から胃癌を疑うことは困難であり,特に胃体中部,上部の場合は進行しても症状が出にくいことが特徴的であり,胃癌のリスクのある中年・高齢者には検診や定期的な検査を受けるよう指導することが重要である.
診断
 存在診断,質的診断,転移診断などを行って治療方針を決定する.
1)存在診断:
X線造影検査あるいは内視鏡検査で診断するが,早期胃癌の診断においては内視鏡検査の方がすぐれている.ただし,多数の内視鏡検査には限界があり,胃癌のハイリスクの絞り込みが課題となっている.最近では,H.pylori(H.p.)感染の有無と胃粘膜の萎縮の程度を表す血中ペプシノーゲン(PG)測定を組み合わせたABC検診による胃癌のリスク評価が行われつつある.すなわち,胃癌のリスクがほとんどないH.p.(−),PG(−)をA群とし,H.p.(+),PG(−)をB群,H.p.(+),PG(+)をC群,H.p.(−),PG(+)をD群とすると,胃癌発生のハザード比はA群を1とした場合,B群で9.8,C群で19.6,D群で120.4となり,それぞれの群に応じた定期的な内視鏡検査の指標とするものである.
 内視鏡検査においては,小さな癌を見逃さないために通常の胃内の観察に加えて画像強調による内視鏡検査を行うことが奨められる.具体的には,青色のインジゴカルミンの胃内散布によるコントラストの強調,あるいは狭帯域光観察(narrow band imaging:NBI)【⇨8-1-3)-(2)】やデジタル機能を利用したFICE(Flexible Spectral Imaging)など,さらには拡大観察を加えて詳細な診断が可能となっている.
2)質的診断:
胃癌の最終診断は生検の病理組織学的診断による.カルチノイドや悪性リンパ腫との鑑別が困難な場合もあり,免疫組織化学的染色や特殊染色を行って診断する.また,胃癌の組織型診断も重要で,それに基づいた治療法の選択が行われる.最近では,生検を取ることなく上記の画像強調観察による組織型診断,すなわち“virtual biopsy(仮想生検)”,“virtual pathology(仮想病理組織診)”の試みがなされている.また,手術や内視鏡的治療を行う場合は癌の存在診断のみならず癌の範囲診断も重要であり,適切な部位から生検を採取する.深達度診断も治療に当たって重要で内視鏡像にて判断するとともに,超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)にて診断する.EUS上では通常の胃壁は5層に描出され,それぞれの層の変化に基づいて深達度診断を行う.【⇨図8-1-11】.また,高度進行胃癌で腹膜播種が疑われる場合は腹腔鏡下に腹腔内洗浄細胞診を行い,治療方針を決定することがある.
3)転移診断:
CT,腹部超音波検査が基本である.周囲臓器への浸潤が疑われる場合はMRI検査を行う.PET検査は胃癌の場合は検出率が低く現状ではあまり有用ではない.腫瘍マーカーとして胃癌に特有のものはないがCEA,CA19-9が基本であり,これにAFPやCA72-4を加えてAFP産生性胃癌や未分化型胃癌の診断補助とする.
鑑別診断
1)胃ポリープ,胃腺腫:
Ⅰ型は過形成性ポリープと,0-Ⅱa型は腺腫との鑑別が問題となる.過形成性ポリープは頂部を中心に発達した毛細血管が明瞭に見え,癌の場合の不明瞭な淡い発赤とは異なる.腺腫の場合は全体に蒼白色調で比較的平滑で隆起も均一であるが,癌の場合は不均一で表面もやや粗造で淡く発赤調を呈する.ポリープや腺腫の一部が癌化していることも少なくないので,生検あるいはポリペクトミーや内視鏡的切除にて最終診断する.
2)胃びらん:
微小な0-Ⅱc型早期胃癌との鑑別が重要である.びらん面における発赤の色合いや陥凹面の星芒状変化が特徴とされるが,診断は困難である.良性の胃びらんは胃炎性変化を表すので多発することが多いため,単発性の胃びらんを見たら癌を疑って生検すべきである.
3)胃潰瘍:
急性期の胃潰瘍と0-Ⅲ型早期胃癌との鑑別,多発胃潰瘍瘢痕と0-Ⅱc+Ⅲ型早期胃癌との鑑別が難しい場合がある.特に急性期では,潰瘍に対する治療を行った後に再度内視鏡検査にて診断すべきである.後者の場合は,集中するひだの性状や陥凹面の形状を観察して診断する.色素散布を行って陥凹する境界が連続性に追えるか否かが鑑別のポイントであるが,やはり最終的には生検による診断を行う.
4)悪性リンパ腫:
MALTリンパ腫と表層拡大型の0-Ⅱc型,0-Ⅱc+Ⅲ早期胃癌,あるいは4型胃癌,スキルス胃癌との鑑別が問題となる.MALTリンパ腫では病変の境界が不鮮明であること,表面に白色調の粘液の付着が多いこと,軽度隆起した面がやわらかい印象でひだの太さに比して胃壁の伸展が良好であること,などが特徴である.また,隆起型の悪性リンパ腫と2型進行胃癌との鑑別に苦慮することがあるが,前者では潰瘍辺縁は比較的平滑で周堤も均一に粘膜下から盛り上がるような印象で,いわゆる耳たぶ様の所見を呈する.
5)粘膜下腫瘍:
0-Ⅰ型早期胃癌,1型進行胃癌との鑑別において,粘膜下腫瘍では表面が周囲粘膜と同様で,押し上げられたひだが架橋(bridging fold)を呈することが特徴的である.
超音波内視鏡検査も鑑別に有用である.
治療
 胃癌の治療の選択にあたっては,日本胃癌学会による「胃癌治療ガイドライン」に沿って行う(図8-4-32)治療法としては,内視鏡的治療,手術,そして抗癌薬による化学療法がある.胃癌に対する放射線治療の効果については現在までのところエビデンスは乏しい.
 原発巣を含めて切除が行われた場合,これまでの根治度にかわりその程度を腫瘍の遺残(R)で表すことになり,R0は治癒切除,R1,R2は非治癒切除となる.内視鏡的治療における根治性の評価はこれとは異なり,適応基準をすべて満たした場合を治癒切除,それ以外は非治癒切除と評価する.
1)早期胃癌に対する治療法:
病巣の切除が基本であるが,その方法として内視鏡的切除と通常の胃切除術とがある.内視鏡的切除の原則はリンパ節転移のない粘膜内癌(M癌)であり,大きさ2 cm以下,分化型で病巣内に潰瘍がないものが適応とされている.その方法としては,EMR(endoscopic mucosal resection)法とESD(endoscopic submucosal dissection)法とがある.ESD法では大きさに関係なく胃粘膜切除が可能であること,また,分化型M癌で大きさ2 cm以上で潰瘍を伴わない場合,あるいは潰瘍を伴うが3 cm以下の場合,さらには2 cm以下の潰瘍を伴わない未分化型であればリンパ節転移がほとんどないため,適応が拡大されている.
 胃切除術の場合は,リンパ節郭清と胃切除範囲を縮小し,手術侵襲の低減と機能温存による術後のQOLの向上を目的とした縮小手術が行われる.最近では,腹腔鏡(補助)下に縮小手術が積極的に行われており,良好な成績を得ている.さらに,リンパ節郭清範囲の縮小を目的にsentinel node navigation 手術(SNNS)が試みられている.病巣周囲の粘膜下層内に放射線でラベルしたRI物質を術前に,あるいは色素を術中に注入し,それをガイドにリンパ流とリンパ節を同定して必要最小限のリンパ節切除を行う方法であり,その妥当性が検討されている.
2)進行胃癌に対する治療法:
手術が基本で2群までのリンパ節郭清と,幽門側胃切除では胃の2/3以上の切除を行う定型手術が行われる.大動脈周囲リンパ節郭清を伴う拡大手術については,RCTの結果,その予防的効果がないことが示されている(Sasakoら, 2008).また,高度進行胃癌で治癒が望めない症例に対しては,出血や狭窄などの切迫症状を改善するための緩和(姑息)手術と,腫瘍量を減らして集学的治療により延命を図る減量手術が行われる.
3)胃癌に対する化学療法:
化学療法としては大きく分けて,根治的手術を目的にリンパ節転移の縮小を目指した術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy),術後の再発予防を目的とした術後補助化学療法(adjuvant chemotherapy),そして手術不能・再発胃癌に対する化学療法の3つがある.抗癌剤としては5-FU系薬剤,シスプラチン(CDDP),イリノテカン(CPT-11),タキサン系薬剤が単独あるいは組み合わせて投与されている.ステージ Ⅱ,Ⅲの根治手術後の補助化学療法の効果について大規模のRCTが行われ,S-1投与による有意な延命効果の上乗せが認められ標準治療となっている(Sakuramotoら, 2007).一方,切除不能,あるいは再発胃癌に対しては,臨床試験の結果S-1+CDDPが第一選択となっている.また,増殖因子の受容体であるHer2陽性胃癌(胃癌の約20%)の再発例に対して,乳癌の場合と同様にその拮抗薬であるトラスツズマブ投与により延命効果があることが最近になって示され,保険適応となった.このように化学療法による延命効果は明らかであるが,癌の奏効率と延命効果とは必ずしも一致しないことが問題であり,どの薬剤,どの組み合わせが効果的であるかについては現在RCTなどにて検討されている.
治療成績
 日本胃癌学会全国登録委員会による2001年度症例の集計報告によると,切除率97%,手術死亡率(術後30日以内死亡)0.6%で,胃切除後のステージ別の累積5年生存率は,Ⅰ:90.3%,Ⅱ:73.1%,Ⅲ:44.5%,Ⅳ:15.8%,全体で69.1%である.
予防
 胃癌の発生に大きな役割を果たしているのがピロリ菌の感染であることは,疫学的および実験的にも示されている.そこで,ピロリ菌の除菌による胃癌発生予防の試みが行われた.その結果,実験的にはピロリ菌感染後早期,すなわち若年での除菌は胃癌発生を抑制したが,感染後一定期間後の除菌は有効ではなかった.臨床的にも中国における治験で,腸上皮化生や胃粘膜の異形成が生じている場合は除菌による胃癌抑制効果がなかったと報告されている(Wong).また,内視鏡的切除後に除菌した場合,その後の胃癌の発生までの時間は遅らせるが,発生そのものを抑制する効果は低いとされている.したがって,若年のピロリ菌感染者の除菌は有効である可能性があるが,中年,老年者では早期発見が胃癌予防の第一義的要因であり,ハイリスク群の拾い出しが課題となる.[上西紀夫]
■文献
がん研究振興財団:がんの統計2009年度版,2011.日本胃癌学会:胃癌取扱い規約(第14版):金原出版,東京,2010.日本胃癌学会:胃癌治療ガイドライン医師用2010年10月改訂(第3版),金原出版,東京,2010.
Sakuramoto S, Sasako M, et al: Adjuvant chemotherapy for gastric cancer with S-1, an oral fluoropyrimidine. N Engl J Med, 357: 1810-1820, 2007.
Sasako M, Sano T, et al: D2 lymphadenectomy alone or with para-aortic nodal dissection for gastric cancer. N Engl J Med, 359: 453-462, 2008.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

世界大百科事典内の胃癌の言及

【胃X線検査】より

…本法はとくに隆起性病変の検査にすぐれた方法である。現在のX線診断は小さな胃潰瘍とか微小早期胃癌のある種のものはX線検査およびX線診断では明りょうに描写されているにもかかわらず,手術によって胃漿膜からは病変部を確認できず,切開して胃壁を露出して初めて病変を確認したり,病理組織標本で確診に結びつく場合が多くなった。これほどに胃X線検査およびX線診断の技術は進歩している。…

【潰瘍】より

胃潰瘍は消化性潰瘍といわれるが,胃酸分泌過多,胃壁を保護する粘液の減少,それにストレスなどの神経要因が加わって,胃酸による粘膜の自己消化が進行し,潰瘍形成に至る。胃潰瘍と鑑別すべきものに,胃癌の潰瘍化がある。これは,胃癌の中心部分が循環障害のために壊死に陥り自潰して潰瘍をつくったものである。…

【癌】より

… 癌は,これら悪性腫瘍の総称名であるが,狭義に癌腫を意味して使われることも多い。胃癌といえば,胃の癌腫=上皮性悪性腫瘍を意味するのがふつうである。 腫瘍細胞は,一般にそれが由来した母細胞の特徴を保持している。…

【手術】より

…またメスが及ばないと断念されていた肝臓癌も,術中超音波診断による切除範囲決定や,レーザーメスの開発で広範囲切除も可能となっている。胃癌の手術に関しては,日本の成績は世界に誇りうるものである。
[救急外科,形成外科の進歩]
 20世紀における2回の世界大戦や幾多の戦乱は,医学の面に限っていえば,ショックや感染症などに対する知見を豊かにし,破傷風や熱傷などに対する救急的外科処置が大いに改善された。…

※「胃癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

在職老齢年金

就業している高齢世代にも一定の年金を支給する制度。2004年の年金改正で、就労を阻害せず、働くことに中立な仕組みにするため、60歳代前半の人には厚生年金(定額部分も含む)の一律2割カットの仕組みを廃止...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

胃癌の関連情報