腫瘍崩壊症候群

内科学 第10版 「腫瘍崩壊症候群」の解説

腫瘍崩壊症候群(造血器腫瘍治療とその補助療法)

(5)腫瘍崩壊症候群(tumor lys­is syndrome:TLS)(Coiffierら,2008)
 TLSは癌の緊急事態の1つで,腫瘍が化学療法や放射線照射により急速に崩壊する際に発生する(図14-7-8).崩壊した腫瘍細胞は,細胞内に多量に存在する電解質(カリウム,リン),核酸を一挙に血中に流出させる.核酸はプリン代謝を受け,最終的にはキサンチン酸化酵素により尿酸となって尿中に排泄される.大量のプリン体負荷は高尿酸血症をきたし,間質性腎障害,尿酸結晶による尿細管障害から,急性腎不全に至る.リンは血液中のカルシウムと結合し,リン酸カルシウムとして組織に沈着するとともに低カルシウム血症をきたす.腎障害にカリウム負荷が起こると,高カリウム血症から致死的な心室性不整脈を発症する.TLSはまれな合併症ではなく,急性白血病で17%,悪性リンパ腫で4~8%と報告されている.したがって,TLS発症の危険性が高い腫瘍では,予防対策が重要である.抗癌治療を開始する前から水分負荷(経口輸液)による利尿,キサンチン酸化酵素阻害薬であるアロプリノールの服用を行う.さらに発症リスクのきわめて高い例では,尿酸を直接代謝する尿酸オキシダーゼ薬(ラスブリカーゼ)を使用する.[田村和夫]
■文献
Coiffier B, Altman A, et al: Guidelines for the management of pediatric and adult tumor lysis syndrome: an evidence-based review. J Clin Oncol, 26: 2767-2778, 2008.
日本癌治療学会編:制吐薬適正使用ガイドライン,第1版,金原出版,東京,
2010.日本臨床腫瘍学会編:発熱性好中球減少症(FN診療ガイドライン南江堂,東京,2012.

腫瘍崩壊症候群(悪性腫瘍と腎障害)

(4)腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome)
 腫瘍崩壊症候群は多量の癌細胞の崩壊により高尿酸血症,高リン血症,高カリウム血症,低カルシウム血症が引き起こされ急性腎不全に至る症候群である.一般にBurkittリンパ腫など増殖能の高いリンパ腫や白血球数の多い白血病,頻度は少ないが化学療法により急速な細胞崩壊が引き起こされた固形癌でも認められる.癌細胞の崩壊により放出された代謝産物が流血中に入り腎障害をきたすとされているが,脱水やもともとあった腎障害が関係している.腫瘍崩壊症候群の予防には積極的な補液と利尿,尿酸の排泄促進が重要である.急性腎不全に対しては透析療法が必要である.[山辺英彰]
■文献
Cohen EP ed: Cancer and the Kidney. Oxford University Press, 2011.Glassock RJ: Other glomerular disorders and antiphospholipid syndrome. In: Comprehensive Clinical Nephrology (Floege J, Johnson RJ, et al ed), pp335-343, Elsevier, St.Louis, 2010.
新田孝作:腎障害をきたす全身性疾患―最近の進歩 悪性腫瘍と腎障害.日内会誌,100: 1330-1335, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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