内科学 第10版 「大腸良性腫瘍」の解説
大腸良性腫瘍(腸疾患)
大腸良性腫瘍は,組織学的に種々の病変を含んでいる.良性上皮性腫瘍である腺腫以外に,良性非上皮性腫瘍(脂肪腫,血管腫,GISTなど)が含まれる.大腸ポリープなどの腫瘍様病変を加えるとさらに多岐にわたる.ポリープが多発(通常100個以上)するものは,ポリポーシス【⇨8-7】という.
分類
1)上皮性腫瘍:
大腸の上皮性良性腫瘍は腺腫である.
2)非上皮性腫瘍:
GIST(gastrointestinal stromal tumor),脂肪腫,血管腫などの粘膜下腫瘍の形態をとる病変が含まれる.
3)大腸ポリープ:
a)炎症性:良性リンパ濾泡性ポリープ,炎症性ポリープなど.
b)過形成性:過形成性結節,過形成性ポリープなど.
c)過誤腫性:juvenile(若年性)ポリープ,Peutz-Jeghersポリープなど.
d)その他:colonic mucosabmucosal elongated polyp(CMSEP),炎症性線維性ポリープ(inflammatory fibroid polyp:IFP),炎症性筋腺管ポリープ(inflammatory myoglandular polyp:IMG polyp)など.
原因・病因
大多数を占める腺腫は,遺伝子的素因(APC遺伝子の異常)と食生活などの環境因子の影響が大きい.炎症性病変は炎症の進展が,過誤腫性病変は分化の異常が,過形成病変は物理的刺激・加齢・遺伝子的素因が影響している.Peutz-Jeghers症候群ではLKB1/STK11遺伝子の異常が,若年性(juvenile)ポリープではSMAD4(またはDPC4)遺伝子の変異が指摘されている.
頻度・疫学
腺腫は大腸良性腫瘍の大多数を占める.報告者,検索方法などによって異なり,数mmの微小病変を含めると散在性に多数存在することから,正確な頻度は不明である.腺腫の男女比は2:1で男性に多い.
病理・病態生理
1)腺腫:
わが国では,組織学的に①管状腺腫,②腺管絨毛腺腫,③絨毛腺腫,④鋸歯状腺腫(serrated adenoma) の4つに分類する.管状腺腫が大半を占める.一方,2010年発刊のWHO Classification of Tumours of the Digestive System(Bosmanら,2010)の中では,腺腫および関連病変は表8-5-17のように分類記述されている.
癌との関連については,癌が腺腫を発生母地であるとするadenoma-carcinoma sequenceの概念がある.腺腫の癌化は,大きさ・肉眼形態・組織型・異型度・性などが関連する.大きい病変ほど癌化しやすいし,管状腺腫・鋸歯状腺腫<腺管絨毛腺腫<絨毛腺腫の順に癌化率が高くなる.陥凹型病変(図8-5-27A)は隆起型病変(図8-5-27B)と比較して,癌化率が高い.また,女性のほうが男性よりも癌化しやすい.一方,最近では腺腫の癌化よりも,正常の大腸粘膜から発生する(de novo発生)のほうが多いという報告もみられる.隆起型腺腫はK-rasの突然変異を伴うことが多いが,陥凹型腺腫はほとんどの場合K-rasの突然変異を伴わず,その発育進展過程における遺伝子異常が異なっている.腺腫の肉眼形態は早期大腸癌に準じるが,隆起型腺腫と比べて表面型腺腫の大腸癌への発育進展における重要性が注目されている.特に陥凹型腫瘍は悪性度が高く,小さなうちに癌化し浸潤するという特徴がある.最大径10 mm以上の表層拡大型大腸腫瘍を側方発育型腫瘍(LST:laterally spreading tumor)と称するが,これは食道・胃の表層拡大型腫瘍と同様のニックネーミングである.LSTは,顆粒型(G type:図8-5-27C)と非顆粒型(NG type:図8-5-27D)に細分類されるが,非顆粒型は大腸癌のメインルートの1つとして重要である.
2)粘膜下腫瘍:
主病変が粘膜よりも下層に存在し,表面が周囲粘膜と同様の粘膜に覆われた隆起性病変であり,GIST(図8-5-27E),脂肪腫(図8-5-27F),血管性腫瘍(リンパ管腫,海綿状血管腫(図8-5-27G)など),囊腫,カルチノイド(図8-5-27H),顆粒細胞腫,子宮内膜症,粘膜脱症候群(隆起型),炎症性線維性ポリープ(inflammatory fibroid polyp:IFP),キャップポリポーシス(cap polyposis)(図8-5-27I)などがあげられる.GISTとは間葉系腫瘍のうちKIT陽性のものをいう.KIT陰性のものは,神経原生腫瘍(S-100陽性)と筋原性腫瘍(SMA, desmin陽性)に分けられる.脂肪腫は回盲部に,GIST,血管腫,カルチノイド,粘膜脱症候群は直腸に好発する.
3)炎症性病変:
良性リンパ濾泡性ポリープは,大腸粘膜の粘膜筋板上あるいは筋板をはさんで粘膜内と粘膜下に発達するリンパ濾泡の限局性過形成である.多発することが多い.
炎症性ポリープは,一般に亜有茎〜有茎性のポリープで組織学的異型性はなく,正常粘膜がポリープ状に突出隆起した像を呈し偽ポリープ(pseudopolyp)ともよばれる.一般に多発する小潰瘍間の残存粘膜が潰瘍瘢痕化に際して引きつれを起こし腸管内腔側へ突出して形成される.多くは潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に多発する(図8-5-27J).ときに,単発性のこともある.多発性のものは,大腸の腫瘍性ポリポーシスや多発性リンパ濾泡性ポリポーシスなどとの鑑別が必要であるが,内視鏡的に表面性状は光沢のある正常粘膜からなり鑑別は容易である.
4)過形成性病変:
過形成性結節(hyperplastic nodule)(図8-5-27K)は,大腸粘膜の腺管・上皮の過形成からなる病変で一般に異型性はない.多くは5 mm以下の白色調扁平隆起で,直腸に多発することが多い.いわゆる異常陰窩巣(aberrant crypt foci:ACF)としての臨床的意義が話題になっている.
腺上皮の過形成がさらに高度で粘液含有細胞の減少,杯細胞の減少,そして,腺管上皮の腔内への鋸歯状の増生(serrated feature)を示すポリープを狭義の過形成性ポリープ(hyperplastic polyp)とよんでいる.表面の腺管開口部ピットは鋸歯状を呈する.化生性ポリープ(metaplastic polyp)と同意語である.SSA/Pや鋸歯状腺腫(serrated adenoma)との鑑別が必要である.
5)過誤腫性病変:
若年性ポリープ(juvenile polyp)(図8-5-27L)は有茎性のことが多く,表面は平滑で密度の疎なⅡ型ピットパターンを呈し,びらん・発赤を伴うことが多い.出血をきたしやすい.幼小児に好発するため,若年性という名称が与えられているが,成人にみられることもある.癌化はほとんどない.一般に遺伝性はない.組織学的には異型の乏しい非腺腫性上皮の腺管増生からなり,小囊胞〜大囊胞状拡張腺管,浮腫と炎症細胞浸潤を伴う豊富な間質を伴っている.しかし,この広い間質にはPeutz-Jeghersポリープにみられるような粘膜筋板からの樹枝状分岐は認めない.炎症が高度で粘膜筋板からの樹枝状分岐を認めないため自然脱落しやすい.
Peutz-Jeghersポリープ(図8-5-27M)は,Peutz-Jeghers症候群(【⇨8-7】参照)にみられる多発ポリープと組織学的に同様のポリープが皮膚粘膜の色素沈着などの所見を欠き単発で発生するものである.組織学的にはポリープ内部に粘膜筋板筋線維束の樹枝状分岐が著明で,その周囲に腺管および腺上皮の密在する高度の乳頭腺管状増生を認める.粘液産生が著明なことが多く,ポリープ表面に粘液の付着をみることが多い.まれではあるが癌化することもある.
6)その他の病変:
colonic mucosabmucosal elongated polyp(CMSEP)は,1994年に真武らが提唱した比較的新しい疾患概念で,表面が正常粘膜に覆われ粘膜下組織が静脈とリンパ管の拡張を伴う浮腫状の疎性結合組織からなり,筋層のない隆起性病変である.本病変は通常単発で大きく有茎〜亜有茎性のものがほとんどで長いものは長径十数cmに及ぶ(図8-5-27N).何らかの原因によって粘膜が腸内容物や蠕動により引き伸ばされたものであると推察されるが,組織学的にfibromuscular obliterationは認めない.外力によって容易に形を変えしわを作りクッションサインとは異なるやわらかさを有する.いわゆる粘膜垂(mucosal tag)との鑑別は,大きさ,周辺粘膜に多発病変がないこと,炎症の痕跡を伴わないこと,前述の内視鏡所見などから比較的容易である.
inflammatory fibroid polyp(IFP)は,膠原線維の増生を伴う線維芽細胞様紡錘形細胞と小血管の増生,形質細胞・リンパ球などの炎症細胞浸潤を伴う良性病変で粘膜下腫瘍様形態を呈する.好発部位は胃や小腸であるが大腸にもまれに発生する.本疾患は出血や腸重積で発症することが多く,粘膜下腫瘍の鑑別疾患の1つとして知っておくべきである.
inflammatory myoglandular polyp(IMG polyp)は,1992年にNakamuraらが,既存の分類にあてはまらない大腸ポリープの概念として提唱した.この病変の病理組織学的特徴は,粘膜固有層の炎症性肉芽組織,粘膜筋板の樹枝状増生,囊胞状の拡張を伴った腺管の増生であり,内視鏡的特徴は平滑・発赤調で一部白苔を伴った有茎性ポリープである.Peutz-Jeghers ポリープとの鑑別点は腺管と粘膜筋板の配列が正常大腸粘膜と同じである点,粘膜固有層に炎症性変化がない点をあげている.ただし,本疾患概念に異論を唱える病理学者もあり,今後症例の集積を行いさらなる検討が必要であろう.
臨床症状
多くは無症状である.最も多くみられる症状は出血である.大腸は小腸よりも管腔が広いため,蠕動運動の亢進によって惹起される重積による腹痛や閉塞症状は比較的少ないが,病変が大きくなると腸重積も起こしうる.
検査成績
便潜血反応検査が陽性の場合は,積極的に注腸X線検査や大腸内視鏡検査を行うべきである.そして,数,大きさ,表面性状,茎の有無などを確認する.大腸内視鏡検査では,拡大観察によるピットパターン診断が光学的生検として有用である(図8-5-27O:正常ピット,図8-5-27P:隆起型腺腫に特徴的な管状ピット).非上皮性腫瘍と診断したら,血管性腫瘍の可能性もあり安易な生検は禁忌である.非上皮性腫瘍の質的診断には超音波内視鏡検査が必須である.診断組織学的確定診断のためには,大腸内視鏡検査による生検,あるいはポリペクトミー・内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)が必要であるが,術前診断にて内視鏡的切除で完全摘除可能かどうかを正確に判定することが重要である.また,生検ではポリープのごく一部しか組織を採取できないため,病変全体の組織学的診断にはならないことを理解しておく.
治療・予後
径5 mm未満の微小腺腫は,hot biopsyで摘除してもよい.径5 mm以上の病変,症状を有する場合や悪性化の可能性のあるものは,内視鏡的ポリペクトミーあるいはEMRを行う.それによって,病変全体の組織学的検索が可能である.腫瘍の切除は一括切除が大原則であるが,大きな病変で良性腺腫と確診できる病変に対しては,計画的分割切除が容認される.良性で悪性化のポテンシャルのない微小病変は経過観察でよい.炎症性ポリープは癌化の心配はなく治療は不要である.過形成性結節は良性病変であり治療の必要はないが,大きな病変は鋸歯状腺腫との鑑別診断のために内視鏡的切除によるtotal biopsyが望ましい.内視鏡的切除後の予後は良好である.[田中信治]
■文献
Bosman FT, Carneiro F, et al : WHO Classification of Tumours of the Digestive System 4th edit, IARC, Lyon, 2010.
飯田三雄編:図説 消化器病シリーズ8.大腸癌・大腸ポリープ. メジカルビュー社,東京,2001.
武藤徹一郎,多田正大,他編:大腸疾患のX線・内視鏡診断と臨床病理. 医学書院,東京,1999.
長廻 紘,田中信治,他編著:消化管内視鏡テキストⅡ 小腸・大腸.文光堂,東京,2005.
田中信治:大腸ポリープ.今日の治療指針2004年度版(山口 徹, 北原光夫編). 医学書院,東京,pp343-344, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報