精選版 日本国語大辞典 「視床下部」の意味・読み・例文・類語
ししょう‐かぶ シシャウ‥【視床下部】
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間脳に属し、第三脳室の両外側壁の下部を占める領域をいう。第三脳室の底床は左右の視床下部がつながった部分にあたり、漏斗(ろうと)状をしているため「漏斗」とよぶ。この漏斗の先端には下垂体(脳下垂体)が付着している。第三脳室の外側壁に前後に走る視床下溝(かこう)とよぶ溝(みぞ)があり、この溝から下方を視床下部とよんでいるが、視床下部の内容はそれより上方まで広がっている。視床下部の境は、前方は漏斗の直前にある視(神経)交叉(こうさ)がこれにあたり、後方は漏斗の後方にある1対の丸く隆起した乳頭体がこれにあたる。外側の境は、視神経が交叉後、後方に走る視神経束、すなわち視索(しさく)によってつくられる。視(神経)交叉の前上方に続く部分は第三脳室の前壁で、終板とよばれる。終板の上方は前交連の直前で終わる。漏斗部分から後方の乳頭体までの間にはやや膨らんだ部分、灰白(かいはく)隆起がある。下垂体後半部の後葉という部分は、視床下部から連続している部分で神経性組織である。下垂体前半部は発生の初期に口腔(こうくう)壁の一部が内分泌組織として発達して前葉となり、後葉と結合したものであり、腺(せん)組織である。
[嶋井和世]
視床下部は自律神経系の最高中枢とされ、体の自律機能、内臓機能あるいは内分泌機能などの統御中枢として、脳脊髄(のうせきずい)のなかでは生命維持にかかわるきわめて重要な部分である。さらには、われわれの感情行動や情動行動にも深い関係をもっている。視床下部では狭い範囲の全領域にいくつかの細胞集団(神経核という)が散らばっている。これらの細胞集団がそれぞれ、複雑な自律機能にどのように対応しているのかは重要な問題である。かつては個々の細胞集団が、それぞれ自律作用をもっていると考えられてきた。たとえば体温調節、水分代謝、あるいは糖や脂肪の代謝などは特定の神経核にその機能中枢があるとする考え方である。しかし、その後の数多くの実験的証明や臨床的観察から、視床下部、およびそれと直接接している領域は自律機能の総合的な支配中枢とみなすのが合理的と考えられている。なお、自律神経系の交感性と副交感性の二つの活動の主要区分についても、部分的にかなり明確な局所的構成が証明されつつある。視床下部の前部には副交感性の活動調節部分があり、後部には交感性の活動調節部分が存在するといわれるほか、学者によっては第三脳室外側壁から外側方に向かって副交感性、交感性、副交感性という3帯に分かれた活動調節部が配列していると説明している。また、ある特定の神経核では特異的な働きが証明されているものもある。
第三脳室の両外側壁の上方で壁直下に存在する室傍核(しつぼうかく)はオキシトシンおよびバソプレッシンというホルモンを産生し、オキシトシンは子宮壁の平滑筋と、乳腺の分泌管を囲む筋上皮細胞を収縮させる働きがある。バソプレッシンは抗利尿ホルモンとして水分平衡の保持に役だっている。視索上核は両側の視索のすぐ上方に存在する神経細胞集団で、バソプレッシンのみを産生すると考えられている。これら両核の神経細胞からおこる神経突起(軸索)は下垂体後葉まで達して視床下部下垂体路という神経路を構成している。両核の神経細胞内で産生されたオキシトシンやバソプレッシンは、ノイロフィシンという運搬用タンパクと結合し、コロイド小滴としてこの神経路の軸索内を流れて後葉まで達し、その軸索末端に至ると、ここから下垂体後葉の血液中に放出される。この現象を神経分泌作用とよんでいるが、このコロイド小滴は染色が可能であるため、これらホルモンの増減による働きのぐあいを、顕微鏡下で調べることができる。
視床下部から下垂体前葉へ行く神経線維はまだ証明されていない。しかし、下垂体前葉で産生される性腺刺激ホルモン、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、あるいは成長ホルモンなどを分泌促進させる遊離因子をつくる部位が視床下部にあることが研究され、視床下部で産生されたこうした遊離因子は下垂体内脈管系を経て液性に下垂体前葉に働きかけることが知られている。そのほか、視床下部における腫瘍(しゅよう)や病的障害によって性的発育が変えられること、脳底に近い一定部位の損傷によって肥満症が発症すること、隆起域のある部位の損傷によって過食症をおこすことなどが明らかにされている。また、乳頭体は内部に大小の神経細胞が含まれており、嗅覚(きゅうかく)に関係のある自律神経機能をもつと考えられている。
視床下部の領域はきわめて狭いが、このように特定の神経細胞集団の働きを知ることによってその機能がしだいに明らかにされつつある。しかし、なお不明な点も多い。視床下部内を走る神経線維は錯綜(さくそう)しており、その多くは広がっていて若干の神経線維束以外は追跡しにくいということが、視床下部の構造やその働きの解明を困難にしている。
[嶋井和世]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…動物が水中から陸上の生活に移るのと並行して,複雑な情報の処理が必要となり,視床が他の部分より大きく発達する。視床は種々の情報を受けて,それらを互いに関係づけ,終脳,視床下部などに伝えることが実験的に証明されている。鳥類と爬虫類の円形核は光,楕円核あるいは結合核は音の情報伝達に関与する。…
…満腹感の発生に関与する内部環境情報としては,血中各物質の濃度が空腹時とは逆方向に変化することや食物消化時の特殊力源作用による体温上昇,胃壁の伸展による幽門部付近の動き受容器の刺激などがある。
【食欲および満腹感発生に関する研究史】
摂食調節の基礎となる食欲および満腹感の発生については,大きく分けて胃や腸などで起こるとする末梢説と,脳,とくに視床下部で起こるとする中枢説がある。実際には,両説を総合した説が最も妥当であるが,1950年以降の多くの研究結果から中枢説がより重視されている。…
…このようなニューロンの知覚性軸索の末梢端は,自律神経系の遠心性要素とともに終末網を形成しながら,生体の内部環境モニターとしての役割を果たしている。シナプス神経系ニューロン【山内 昭雄】
[自律神経系の中枢]
自律神経系の最高中枢は間脳の視床下部にあるが,そこにおける自律性機能の中枢のあり方については諸説がみられた。視床下部の前部が副交感神経系で,後部が交感神経系であるという意見や,視床下部には交感神経系の中枢だけが存在し,副交感神経系は視床下部より前方にあるという説などがあった。…
… 上丘の前端で中脳を切断したネコを1年以上生かしておくと,脳幹と完全に切り離された大脳に睡眠と覚醒に相当する脳波パターンの交代がみられるようになる。他方,視床下部のみを破壊すると昏睡状態になり,睡眠と覚醒の交代がみられなくなる。したがって,大脳のなかの視床下部に睡眠覚醒の基本的なリズムが形成されると考えられている。…
…汗は体表面に約230万個あるエクリン汗腺から分泌されるもので,1時間に1l以上,1日では10l以上も分泌する能力をもっている。汗腺は交感神経支配で,その活動は脳の視床下部によって制御されている。温度刺激は内分泌系にも作用する。…
…抽出された特徴の情報は,次に連合野で総合されて外界の事物に関する知覚の表象を生ずる。快・不快の情動は視床下部において発現する。摂食,飲水,性行動など個体や種の維持に必要な本能行動を起こす中枢も視床下部にある。…
※「視床下部」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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