日本大百科全書(ニッポニカ) 「茶扇」の意味・わかりやすい解説
茶扇
ちゃおうぎ
茶の湯の会で使用される扇子(せんす)のこと。茶席の扇は涼をとるための用として使われるのではなく、主として結界(けっかい)の役目を果たすもので、公家(くげ)の持つ笏(しゃく)と同義だと考えられていた。『草人木(そうじんぼく)』(1626年版行)という書に「茶席へ扇を持つこと、茶湯に不限(かぎらず)常ニ用之(これをもちう)、公家の笏を持如(もつごと)く扇ハ持つ道具也(なり)」とあり、同じく「座中にて扇を思ふまゝに開き扇(あお)ぐべからず」とあるとおりである。原初的な形姿は檜扇(ひおうぎ)であろうが、草庵(そうあん)茶成立期の村田珠光(じゅこう)、武野紹鴎(たけのじょうおう)の茶扇は伝来していない。江戸時代後期になって編集された『茶家好扇図録』には、足利義政(あしかがよしまさ)をはじめ、北向道陳(きたむきどうちん)、津田宗達(そうたつ)・宗及(そうきゅう)、織田信長、豊臣(とよとみ)秀吉、千利休(せんのりきゅう)、細川幽斎(ゆうさい)・三斎、千宗旦(そうたん)、金森宗和(かなもりそうわ)、片桐石舟(かたぎりせきしゅう)などの30人に、裏千家11世玄々斎宗室の好扇子の図が記載されているが、その真偽を判断することはできない。ただ、現代ではだいたい男性用と女性用とが用意され、男性が21センチメートルほどの大型から18センチメートルほどの小型のものを使用し、女性は15センチほどの小型の扇子を使用するのが普通である。それは、茶席にあって挨拶(あいさつ)をするときや、床の拝見をするときに自分の膝前(ひざまえ)に置いて結界の役割をし、終わって定座につくと自分の後ろに置くのが決まりである。
[筒井紘一]