精選版 日本国語大辞典 「草餠」の意味・読み・例文・類語
くさ‐もち【草餠】
- 〘 名詞 〙
- ① 母子草、艾(よもぎ)、高菜(たかな)などの葉を入れてついた餠。三月三日の雛祭に供える習慣がある。草の餠。くさもちい。《 季語・春 》
- [初出の実例]「節日由諸〈略〉 三月三日草餠」(出典:掌中歴(1049‐1139))
- 「花の里心も知らず春の野にはらはら摘めるははこもちひぞ〈和泉式部〉 此の歌、家集云ふ、右義より、野老おこせたりて箱に、くさもち入れて奉りてと云々」(出典:夫木和歌抄(1310頃)二八)
- ② ( 雛祭に①を供えるところから ) 女の子のことをいう。
- [初出の実例]「草餠を産んで妾は胸がやけ」(出典:雑俳・柳多留‐四二(1808))
- ③ 私娼をいう。草餠を売り歩いていたからとも、瘡持(くさもち)の意ともいう。〔隠語輯覧(1915)〕
- [初出の実例]「草餠やだるま茶屋のねえさんでもあるまいし」(出典:一の酉(1935)〈武田麟太郎〉)
草餠の語誌
( 1 )「文徳実録‐嘉祥三年五月壬午」には三月三日に母子草をとって「餻」とするとあり、「十巻本和名抄‐四」に「餻 久佐毛知比 烝米屑為之」とある。春の七草の一つである母子草を用いて「くさもちひ」が作られ、挙例の「夫木‐二八」に見られるように「ははこもちひ」ともいわれたが、中世には「くさもち」の形が一般となった。
( 2 )「日葡辞書」では「くさもち」とは別に「よもぎもち」が挙げられており、中世後期には材料に蓬を用いた「蓬餠」がつくられた。当時、「草餠」と「蓬餠」が同様のものを指していたかどうかは明確ではないが、「随・守貞漫稿‐二三」には、「江戸にては大概くさもち京坂にてはよもぎ餠と云也」とある。
( 3 )ハハコグサとヨモギはともに薬草の仲間であり、そのため草餠は邪気や疫病を追い払う意味で喜ばれた。