ヨモギ(読み)よもぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨモギ」の意味・わかりやすい解説

ヨモギ
よもぎ / 蓬


[学] Artemisia

キク科(APG分類:キク科)ヨモギ属総称。約250種ほどあり、世界に広く分布し、砂漠にも生育する。多くは多年生の草本であるが、小低木もある。葉や果実などが食用や薬用にされるものが多い。花は風媒花で、花が大きくて美しいキクの仲間から、虫のいない乾燥した地域に広がる際に風媒花になったといわれている。春、荒れ地の枯草の中にいち早く緑色の姿をみせるのがヨモギA. indica var. maximowiczii (Nakai) H.HaraA. princeps Pamp.)やニシヨモギA. indica Willd.である。茎はよく分枝し、直立して数十センチメートルになる。葉は互生し、細かく切れ込み、裏面に灰白色の軟毛を密生する。秋、茎上部の小枝に、黄白色の小さい頭花を下向きに多数つける。地下茎はよく発達し、繁殖力が強い。ヨモギは本州から朝鮮半島まで、ニシヨモギはインドから中国、東南アジアを経て西日本まで分布する。

 これらのほか、本属の植物としてよく知られるものに、オトコヨモギカワラヨモギタラゴン、ヒメヨモギ、ヤマヨモギ(別名エゾヨモギ)がある。

[小山博滋・星川清親 2022年5月20日]

食用

ヨモギは濃緑色の葉菜類に似て、ビタミンやカルシウムに富む。春先に一斉に出る若葉を摘み集めて、ゆでてから草餅(くさもち)や草団子に入れ、美しい緑色と香りをめでる。このためモチグサの別名で広く親しまれている。若葉はゆでてあくを抜いてから、ひたし物や汁の実とし、また飯に混ぜてよもぎ飯にする。葉は土瓶で煎(せん)じて塩味をつけて飲用する。これをよもぎ茶とよび、淡緑色で香気が好まれる。

[星川清親 2022年5月20日]

薬用

漢方ではヨモギの葉を艾葉(がいよう)といい、止血、鎮痛、強壮剤として冷えによる子宮出血、月経不順、月経痛、痔(じ)出血などの治療に用いる。また、民間では生(なま)の葉を切り傷打ち身、腹痛、水虫、たむしなどに外用したり内服する。灸(きゅう)に用いる熟艾(もぐさ)は乾燥した茎葉からつくる。茎葉を臼(うす)でよく搗(つ)くと、葉肉と葉脈などが細粉となり、葉裏の長いT字毛がもつれて綿状の塊となる。これを篩(ふるい)にかけて毛だけを分取したものが、もぐさである。主産地は新潟県。ヤマヨモギの葉もヨモギと同様に用いる。中国ではヒメヨモギを用いる。これが真正のもぐさである。

[長沢元夫 2022年5月20日]

文化史

ヨモギ類は特有の臭気があり、それに降魔(ごうま)の力を秘めるとの見方は、洋の東西を問わず古くから行われた。ディオスコリデスは、古代エジプトの女神イシスに仕える神官が、オリーブの枝がわりにヨモギを儀式に使うと述べている(『薬物誌』)。プリニウスも、古代ローマのマギ僧はこれを身につけ、毒や野獣の害から守ったと書いている(『博物誌』)。中世のヨーロッパでは魔術や呪術(じゅじゅつ)に使われ、庶民は夏至の前日に摘んで編み、頭にかぶって病気や厄除(やくよ)けとした。

 中国の『荊楚歳時記(けいそさいじき)』(6世紀)によると、5月5日にヨモギで人形や虎(とら)をつくり、門上に掲げ、毒気を払った。現在も中国の中南部でこの日にヨモギの葉で身を清める風習が残る。これは日本にも伝わり、『万葉集』では大伴家持(おおとものやかもち)が「……ほととぎす来鳴く五月(さつき)の菖蒲草(あやめぐさ)蓬(よもぎ)かづらき酒宴(さかみづき)……」と歌った(巻18)。『枕草子(まくらそうし)』でも、5月の節句に菖蒲(しょうぶ)、蓬を刈り、家の屋根に葺(ふ)き渡すと述べられている。

 アイヌもヨモギを呪術に使い、魔除けの人形をつくった。葉はゆがいて乾燥させて保存し、粟(あわ)などと団子にして食べた。若葉は刻んで粥(かゆ)にかけた(知里真志保(ちりましほ)著『分類アイヌ語辞典』植物篇(へん))。沖縄では野菜として市場に並び、これを入れたフーチーバジューシとよぶ雑炊が好まれる。

[湯浅浩史 2022年5月20日]

文学

『万葉集』には「菖蒲草(あやめぐさ)蓬(よもぎ)かづらき」(巻18)とあるので、その霊力にあやかって蘰(かずら)(髪飾り)にしたことが知られる。平安時代になると、浅茅(あさじ)や葎(むぐら)とともに荒廃した邸宅を象徴する景物となり、「蓬生(よもぎふ)」などという歌語が生じた。『拾遺集(しゅういしゅう)』に「いかでかは訪ね来つらむ蓬生の人も通はぬ我が宿の道」(雑賀(ぞうが))とあり、平安後期以後になると、「蓬の宿」「蓬が末」「蓬が露」「蓬が中」「蓬がもと」など多様な形の語句として用いられるようになる。『源氏物語』には末摘花(すえつむはな)の屋敷の荒廃を描いた「蓬生」の巻があり、『枕草子(まくらのそうし)』には「草は」の段に「いみじうをかし」と記している。艾(もぐさ)としては、『百人一首』の藤原実方(ふじわらのさねかた)の歌「かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを」がよく知られる。季題は春。「餅草(もちくさ)」などもある。

[小町谷照彦 2022年5月20日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨモギ」の意味・わかりやすい解説

ヨモギ
Artemisia princeps; Japanese mugwort

キク科の多年草。別名カズサヨモギ,モチグサともいう。本州以南の日本,朝鮮半島および南西諸島から台湾に分布し,山野に最も普通にみられる植物の一つである。茎は多数分枝して,高さ 50~100cmに達し,地下茎は横にはい,つる枝を出す。葉は互生し,全形は長さ6~12cmの楕円形で2回羽状に裂け,各裂片は長楕円形,鈍頭で全縁である。上面は緑色で,下面は毛を密生し白色を帯びる。夏から秋にかけて,茎の上部に複総状花序状に,淡褐色の小型の頭状花を多数つける。頭花は管状花だけから成り,下向きに咲く。総包片は瓦をふいたように並んでいる。全株に香りがある。若葉を草餅の材料にし,葉の下面の毛から「もぐさ」をつくる。葉は腹痛薬,吐瀉剤として利用される。ヨモギの名はときにヨモギ属全体の総称として使われることもある。ヨモギ属 Artemisiaは北半球の全域と南アメリカ南部に約 400種が知られている。このうち日本には 30種あまり,北アメリカには約 60種を数える。ヨーロッパ原産のニガヨモギ (苦艾)は古くから日本でも栽培され,日本のヨモギに近い種の A. vulgarisは,イギリス,アメリカ,カナダで mugwortとしてよく知られ,その苦汁が民間薬の下剤,通経剤に用いられている。イランおよびトルキスタン原産のセメンシナとモンゴル産のミブヨモギ (壬生艾)は回虫駆除薬サントニンの原料として貴重である。またセージブラッシュはアメリカ中部の半乾燥荒原で何千 haもの大群落をつくっているので有名である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報