日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハハコグサ」の意味・わかりやすい解説
ハハコグサ
ははこぐさ / 母子草
[学] Gnaphalium affine D.Don
キク科(APG分類:キク科)の二年草。白色の綿毛が多いので、全草が緑白色にみえる。茎は叢生(そうせい)し、高さ10~40センチメートル。根出葉は小形、花期には落葉する。茎葉は互生し、へら形または倒披針(とうひしん)形で長さ2~6センチメートル。4~6月、茎頂にやや密な散房花序をつける。頭花は中心に両性花、周囲に雌性花があり、いずれも結実する。総包は球鐘形で長さ3ミリメートル、総包片は3列で黄色。冠毛は黄白色で長さ約2ミリメートル。人里の道端や田んぼなどに普通に生え、日本全土、および東アジア、マレーシア、インドに広く分布する。
古くは「御形(おぎょう)」とか「ほうこ」とよばれた。春の七草に数えられるオギョウまたはゴギョウは、本種のことである。若い苗は食用となり、餅草(もちぐさ)にされた。
[小山博滋 2022年3月23日]
文化史
中国では3月3日の節句にハハコグサ(鼠麹草(そきくそう))の草餅(くさもち)を食べる風習は古くからあり、『荊楚歳時記(けいそさいじき)』(6世紀)には、黍麹菜(しょくきくさい)の名で出る。それが日本にも平安時代に伝わったとみえ、『文徳(もんとく)実録』には嘉祥(かしょう)3年(850)、母子草が生えず、草餅がつくれなかったところ、3月に文徳天皇の父仁明(にんみょう)天皇が、また5月に祖母の嵯峨(さが)皇太后が没し、母子草はその予言をしたという流言を記録する。
ハハコグサの語源は、母子(ははこ)の人形(ひとがた)を3月3日に飾り、供えた母子餅(ははこもち)にハハコグサを使ったからと『大言海』は説く。ハハコグサの別名である春の七草の御形(ごぎょう)も、人形(ひとがた)に関係することばとされる。御形の名は鎌倉時代後期の『年中行事秘抄』に初見する。
「花のさく心もしらず春の野にいろいろつめる ははこもちひぞ」 和泉式部(いずみしきぶ)
[湯浅浩史 2022年3月23日]