日本大百科全書(ニッポニカ) 「華厳宗祖師絵伝」の意味・わかりやすい解説
華厳宗祖師絵伝
けごんしゅうそしえでん
絵巻。6巻。国宝。京都・高山寺蔵。新羅(しらぎ)国(朝鮮)華厳宗の祖師義湘(ぎしょう)・元暁(がんぎょう)両大師の伝記を描いたもので、『華厳縁起』ともよばれている。義湘・元暁の2人は修行のため唐に向かう途中塚穴(つかあな)に雨宿りして鬼に出会う。元暁は悟るところあって入唐を思いとどまり、義湘は進んで唐土に渡る。唐に入った義湘は、長安で善妙という美女に慕われ、修行を終えて帰国の際その後を追われる。義湘の船がすでに港を出たのを知って善妙は海中に身を投じ、竜となって義湘の船を守り新羅国に送った。一方、新羅に戻った元暁は、その後学徳世に聞こえ、王妃の危篤のとき王命により金剛三昧(さんまい)の3巻の略疏(りゃくそ)をつくって講演し、王妃の病を治したという。鎌倉時代に盛んであった祖師・高僧伝の類の絵巻で、異国の高僧を題材とした珍しい作例である。絵は流暢(りゅうちょう)な筆線を駆使し、賦彩は染料などを使って透明感のある色調が支配的。鎌倉時代(13世紀)の作であるが、筆者は明恵上人(みょうえしょうにん)と親しい関係にあった恵日房成忍(えにちぼうじょうにん)とする説が行われている。
[村重 寧]
『亀田孜編『新修日本絵巻物全集8 華厳縁起』(1976・角川書店)』▽『小松茂美編『日本絵巻大成17 華厳宗祖師絵伝』(1978・中央公論社)』