中国をはじめ,朝鮮,日本における仏教の高僧たちの伝記集。最初に編纂されたのは,中国の南朝梁の慧皎(けいこう)撰《高僧伝》14巻で,中国への仏教の伝来当初から6世紀初の梁の武帝のころまでの高僧たちの列伝とも称すべき序録1巻と本文13巻の書物である。同時代の僧佑の《出三蔵記集》や宝唱の《名僧伝》などに資料を仰いで撰述し,519年(天監18)に完成したという。のちの高僧伝と区別して《梁高僧伝》とも呼ぶ。とくに〈名僧〉といわずに〈高僧〉と称したのは,名声あっても徳行なき僧は採らずとの立場を貫いたからで,全体を訳経,義解,神異,習禅,明律,遺身,誦経,興福,経師,唱導の10科に分類し,本伝に257人,附見200余人という僧侶たちの伝記を収めていて,中国初期仏教史研究に不可欠の史書である。本書で採られた10科の分類は,多少の相違はあるが,その後にできた高僧伝の手本となった。普通に〈高僧伝〉というときは本書を指すことが多い。
これをうけつぐのが唐の道宣撰《続高僧伝》30巻,宋の賛寧撰《宋高僧伝》30巻,明の如惺撰《大明高僧伝》8巻で,これら4書を総称して〈四朝高僧伝〉という。《続高僧伝》は,《唐高僧伝》と呼ばれることもあり,南朝の梁から唐初の貞観年間(627-649)にかけての高僧たちの伝記集である。そして《宋高僧伝》は,宋代に編修された高僧伝という意味であって,宋代の高僧たちの伝記ではなく,大部分は唐代の高僧たちの伝記集なのである。同じように《大明高僧伝》は,南宋,元,明の高僧たちの伝記であり,半ばは南宋人によって占められている。民国の喩謙らが撰した《新続高僧伝四集》65巻は,この《大明高僧伝》のほとんど大部分を併合編入したうえで,宋代から元,明,清をへて民国にいたる僧侶たちの伝記を網羅していて,便利であるが,編集はかなり杜撰なので,取扱いには用心せねばならない。
つぎに高麗・覚訓撰《海東高僧伝》2巻は,仏教を朝鮮に流通させた諸高僧の伝であり,日本にのみ伝存された朝鮮佚書の一つでもある。日本については,聖徳太子伝を巻首におくとともに道昭より天海にいたる僧伝たる性潡撰《東国高僧伝》10巻のほか,より完備したものとして師蛮撰《本朝高僧伝》75巻とそれにつづく道契撰《続日本高僧伝》11巻が,いずれも《大日本仏教全書》に収められている。なお唐の義浄撰《大唐西域求法高僧伝》1巻は,中国より求法のためにインドに赴いた60余人の僧侶たちの伝記であり,高僧伝とは称さないが,比丘尼の事跡を収録した梁の宝唱撰《比丘尼伝》なども,一種の高僧伝とみてよかろう。《高僧伝》をはじめとする中国における僧伝48種の総合索引として,日本の尭恕(1640-95)撰《僧伝排韻》106巻は,各僧侶の条下に,その略伝を出し,さらにその伝を収録した書名と巻数を示していて,信頼でき,とくに《大日本仏教全書》所収本は,巻末に五十音索引を付録しているので,韻に通じない者にも便利である。
執筆者:礪波 護
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中国、朝鮮、日本などで行われた仏教の高僧たちの伝記集をいう。中国では、仏教が伝入してから約500年後、儒教倫理を中心とした漢民族社会に仏教が定着した梁(りょう)代に、宝唱撰(ほうしょうせん)『名僧伝』30巻(散逸。その抄出が鎌倉期古写本として東大寺図書館に蔵)、ついで慧皎(えこう)撰『高僧伝』が著された。後者は、訳経、義解、神異、習禅、明(めい)律、亡身、誦経(じゅきょう)、興福、経師、唱導の10科に分類されており、序録ともあわせた14巻に、本伝のある者257人のほか附見の者243人の高僧の伝記が集録されている。519年(天監18)に成った本書は、世間的にその名は高くはないが、徳高く、後世に伝うべき行実のある僧を高僧として取り上げており、現存最古の中国高僧伝である。ついで唐の道宣(どうせん)の『続高僧伝』30巻、宋(そう)の賛寧(さんねい)の『宋高僧伝』30巻、如惺(じょせい)の『明(みん)高僧伝』8巻が成立。それらは現存しており、江戸時代に『四朝(しちょう)高僧伝』として和刻本が刊行された。さらに清(しん)朝では徐昌治(じょしょうじ)の『高僧摘要』4巻、中華民国では道階・喩謙(ゆけん)らの『新続高僧伝四集』65巻があり、中国近世仏教史研究の貴重な資料となっている。これらの高僧伝は主として護法的、霊験譚(れいげんたん)的な要素も多く、また編者の住んだ地域的な制約もあって、かならずしも当代を代表する全高僧を網羅したわけではないが、社会史的な考察のもとにこれらを読むことによって、中国社会においては夷狄(いてき)の宗教でありながら漢民族のなかに融合した仏教の実態を知ることができる。
朝鮮には高麗(こうらい)の覚訓(かくくん)撰『海東高僧伝』2巻があり、中国から高麗に仏教が伝えられて以後300年間に活動した高僧の伝記集である。中国、朝鮮では、禅宗の発展に伴って、禅僧だけの行実を中心とした伝燈(でんとう)録の類が多く撰述された。
日本では宗派仏教の盛行にしたがって、各宗に高僧伝が編まれているが、仏教を通じて代表的な高僧伝としては、師蛮(しばん)(1626―1710)が1702年(元禄15)に撰集した『本朝高僧伝』75巻がある。法本、浄慧(じょうえ)、浄禅など、10科に分けて1700人近い高僧が伝えられており、日本仏教史研究に不可欠の好資料である。
[牧田諦亮]
『山内晋卿著「高僧傳の研究」(『支那佛教史之研究』第1章・1921・仏教大学出版部)』▽『牧田諦亮他編『中国高僧伝索引』全7冊(1972~78・平楽寺書店)』
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…しかし,この時代の絵巻制作が量的に飛躍的な拡大をとげたのは,鎌倉新仏教の諸宗派をはじめとし,旧仏教側もまた絵巻を布教の手段として積極的に利用したことによる。なかでもおのおのの開祖や祖師の奇瑞に満ちた生涯や言行を描いた高僧伝は,この時代の風潮を反映し,人間性豊かな傑作が多い。《一遍上人絵伝》をはじめ《法然上人絵伝》《慕帰絵》《親鸞上人絵伝》《融通念仏縁起》などが新仏教を代表し,旧仏教側では《華厳縁起》《東征絵伝》《法相宗秘事絵詞》《弘法大師絵伝》などがある。…
※「高僧伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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