日本大百科全書(ニッポニカ) 「薬物代謝酵素」の意味・わかりやすい解説
薬物代謝酵素
やくぶつたいしゃこうそ
生体に取り込まれた薬物が害を及ぼさない形で代謝、排泄(はいせつ)されるように働く酵素。体内のほとんどの臓器に存在し、なかでも肝臓に多く存在している。薬は脂溶性であるものが多く、そのままでは体外へ排泄されにくい。薬物代謝酵素は水に溶けやすい物質となるように薬の形を変え、体外へ排泄させやすくさせる役割を担う。これらのうちでほとんどの薬物代謝にかかわる酵素がチトクロムP450cytochrome P450で、シトクロムP450ともよばれる。また、CYP(シップ)あるいはP450とも略称される。CYPには多くの種類があり、亜型により代謝を受ける薬物が異なる。亜型の一つであるCYP3A4を介する薬物代謝がもっとも多くを占めている。CYPはおもに薬物を酸化させることによって水溶性の高い物質に変換しており、一般にこのような物質の構造自体を変換する代謝過程のことを第Ⅰ相反応とよぶ。
健康食品ブームにより、CYPなどの酵素を活性化させて薬物代謝を促進する食品が多く流通するようになり、これにより、薬物の効果が阻害されるケースが多く報告されて社会問題となっている。とくにダイエット食品や総合ビタミン剤などにより、医薬品が薬効を示す以前に成分が分解されてしまう傾向が認められたため、厚生労働省は注意を促している。
[編集部 2016年7月19日]