改訂新版 世界大百科事典 「蚊やり」の意味・わかりやすい解説
蚊やり (かやり)
夏季,カやブユを追い払うため煙でいぶすこと。この方法は各地で行われ,日本では《万葉集》にその名が見られる。蚊いぶし,蚊くすべ,蚊やり火,蚊火(かび)などとも呼ばれ,一般に木片をいろりや火桶でたいたり,ヨモギなどをいぶして,大型のうちわであおいだりした。江戸時代には,おがくずに硫黄の粉をまぜたものも使われた。このころには蚊帳も一般に普及していたが,庶民にとっては高価なもので,もっぱら紙帳(しちよう)や蚊やりを用いていたといわれる。明治になると除虫菊を粉末にして蚊やり粉が作られた。その後蚊取線香の普及に伴って蚊やりの光景もみられなくなった。蚊やり用具としては〈蚊やり豚〉や〈蚊やりだるま〉〈常香盤〉と呼ばれる大型の香炉などがあった。屋外で働くとき,カやブユを防いだり,猪(しし)の襲来を防ぐ目的でいぶすものは〈かび〉〈かべ〉などと呼ぶ。ヒエぬか,布きれ,わらなどを結束するか,桶,竹筒などに入れて,地上に置いたり,腰から下げたりして用いる。
→蚊取線香
執筆者:北村 賀世子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報