日本大百科全書(ニッポニカ) 「表現主義音楽」の意味・わかりやすい解説
表現主義音楽
ひょうげんしゅぎおんがく
おもに新ウィーン楽派を中心に、20世紀初頭から第二次世界大戦前夜まで展開されたドイツ・オーストリア文化圏における一音楽運動。絵画の分野でおこった表現主義運動が、シェーンベルク、ウェーベルン、ベルクらの作曲家たちの手により音楽に波及した。彼らはフランスの印象主義の絵画と音楽に対抗して、1910年代から20年代にかけてこの音楽運動を繰り広げた。先鋭な音程進行、極端な高音域や低音域の使用、自由な拍節やリズム、極端な強弱の交替、不協和音の頻出などをその特徴とする。とくに、カンディンスキー、ココシュカという表現主義の画家と親しかったシェーンベルクが重要で、彼の「無調時代」とよばれる1908~16年を中心に『浄(きよ)められた夜』(1899)、『月に憑(つ)かれたピエロ』(1912)、『「架空庭園の書」による15の歌曲』(1908~09)などに表現主義的色彩が濃い。弟子のベルクの二つのオペラ『ウォツェック』(1917~21)と『ルル』(1929~35、未完)は、それぞれビュヒナー、ウェーデキントの戯曲を原作にし、表現主義的傾向の絶頂を極めた作品である。
[細川周平]