ウォツェック(その他表記)Wozzeck

改訂新版 世界大百科事典 「ウォツェック」の意味・わかりやすい解説

ウォツェック
Wozzeck

G.ビュヒナー原作,A.ベルク作曲による20世紀オペラの傑作の一つ。ベルクは1914年にビュヒナーのドラマ《ウォイツェックWoyzeck》の上演に接し,ビュヒナーの原作をもとにみずから台本を作成して作曲を開始し,ベルクの最初のオペラ作品として,1925年12月14日にベルリン国立歌劇場初演された。床屋あがりの無力な兵士ウォツェックは,平凡な妻マリーを愛しているが,男ぶりのよい鼓手長に妻を寝とられてしまい,マリーをナイフで殺害し,みずからも池に入って死んでしまう。全体は〈提示部〉〈展開部〉〈大詰〉と名づけられた3幕15場からなり,第1幕では古典組曲パッサカリア,第2幕では交響曲,第3幕ではインベンションなど,古典的な厳格な形式が用いられている。十二音技法も部分的に使われているが,全体としては無調作風によって作曲され,歌と語りの中間のシュプレヒシュティンメSprechstimmeが,きわめて効果的に使われている。表現主義のオペラの傑作と評価され,P.ブーレーズは,〈《ウォツェック》でオペラというジャンルは死滅した〉と論じている。
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百科事典マイペディア 「ウォツェック」の意味・わかりやすい解説

ウォツェック

ベルクのオペラ。ビュヒナー戯曲《ウォイツェックWoyzeck》をもとに,自身の第1次大戦従軍体験も加えながら台本を書き,1921年完成,1925年エーリヒ・クライバー指揮によりベルリン国立歌劇場で初演。3幕15場。19世紀ドイツを舞台に,単純で小心な兵士ウォツェックが上官にも妻にもしいたげられ,妻を殺し自殺するまでを描く。古典的な形式が用いられているが,全体としては無調の作風により,表現主義オペラの傑作とされる。
→関連項目ワーグナー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウォツェック」の意味・わかりやすい解説

ウォツェック
うぉつぇっく
Wozzeck

アルバン・ベルク作曲のオペラ。3幕。ゲオルク・ビュヒナーの原作『ウォイツェック』(1837、未完)を作曲者自身が再編して台本を作成した。19世紀初頭、軍隊の駐屯するドイツの小さな村を舞台に、小心で無力な理髪師あがりの一兵卒ウォツェックが、周囲からはさげすまれ、情婦にも裏切られ、ついには彼女を殺して自らも命を絶つ悲劇。ベルクは無調手法を用いて、抑圧された人間の暗いドラマをみごとに音楽化し、20世紀を代表するオペラに仕立て上げた。第1幕第1場は組曲、第2場はラプソディー、第3場は行進曲と子守歌、と各場面に異なる形式を配し、厳格緻密(ちみつ)な構造を志向しているにもかかわらず、その表現は叙情的な場面でも劇的な場面でも、強烈な生命力をもっているのである。1917年台本完成、20年作曲完了、25年ベルリンで初演された。日本初演は63年(昭和38)ベルリン・ドイツオペラ。

[三宅幸夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウォツェック」の意味・わかりやすい解説

ウォツェック
Wozzeck

オーストリアの作曲家 A.ベルクによる3幕物のオペラ。 G.ビュヒナーの戯曲『ウォイツェック』に基づき作曲家自身が台本を執筆。 1925年ベルリン初演。貧しい兵士の家庭の崩壊をテーマにした社会主義的問題作。音楽は豊かな表現力と有機的統一をもち,一部に 12音技法が用いられ,現代オペラの古典の地位を占める。

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世界大百科事典(旧版)内のウォツェックの言及

【オペラ】より

…このような理由から,すぐれた戯曲がただちにオペラに適するとは限らず,すぐれたリブレットが,文学的価値が高いとも限らない。とはいえ,メーテルリンクの戯曲によるドビュッシーの《ペレアスとメリザンド》,ワイルドの戯曲によるR.シュトラウスの《サロメ》,G.ビュヒナーの原作によるベルクの《ウォツェック》のように,ごくまれに幸福な結びつきが見られるのも事実である。
[オペラと歌舞伎]
 明治年間にドイツに留学した森鷗外は,故郷への便りの中で,オペラという言葉にかえて〈西洋歌舞伎を見た〉と記したという。…

【ビュヒナー】より

…ドイツを去ったのちの作品として,シュトゥルム・ウント・ドラングの作家J.M.R.レンツの狂気を扱った短編《レンツ》(1836成立,39刊),倦怠と機知と風刺の喜劇《レオーンスとレーナ》(1836),ドイツの社会悲劇において名もない人間を初めて主人公とした《ウォイツェクWoyzeck》(1836成立,79刊,未完。のちA.ベルクのオペラ《ウォツェック》の台本となる)がある。文学史上どの流派にも収まらないビュヒナーは,今日,多くの作家をひきつけているが,死後50年ほどはほとんど無名であった。…

【表現主義】より

…ベルクのみが未完のオペラ《ルル》(1935)に至るまで生涯表現主義的であり続けた。この時期の代表作としてシェーンベルクの《期待》(1909),《ピエロ・リュネール》(1912),ウェーベルンの《弦楽四重奏のための六つのバガテル》(1913),ベルクのオペラ《ウォツェック》(1912‐24)などがある。なお,ストラビンスキーの《春の祭典》(1913)や,スクリャービンの《プロメテ》(1910)なども同様な内容を持っている。…

※「ウォツェック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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