改訂新版 世界大百科事典 「ウェーデキント」の意味・わかりやすい解説
ウェーデキント
Frank Wedekind
生没年:1864-1918
ドイツの劇作家。自然主義の隆盛期である1890年代に,これとは対極的な一連の作品をもって登場。抑圧的な市民社会にあって高校生の男女がゆがめられた性に対する考えから破滅していくさまを描いた《春のめざめFrühlings Erwachen》(1891),社会の制約を無視して奔放に生きる女ルルーを共通の主人公とした連作《地霊》(1895),《パンドラの箱》(1904)等がそれである。そこでは生と性に対する抑圧が取り扱われ,このテーマを通じて硬直化した市民社会とその疑わしいモラルが批判されている。その作品は一見リアリスティックな世界を扱ってはいるものの,そこにはアレゴリーや象徴が介在しており,それら全体が世界をグロテスクなものとして描き出している。この反自然主義的・反市民的な劇構成は,後の表現主義や現代演劇を先取りしたものとも言える。このような作品として,ほかに《カイト侯爵》(1899)がある。ウェーデキントの作品は検閲のために出版・上演が容易でなく,《春のめざめ》は1906年にようやく上演されている。またウェーデキント自身も自分の作品に出演しており,さらには〈ジンプリチシムス〉や〈11人の死刑執行人〉等の文芸寄席(キャバレー)で自作のバラードやシャンソンを歌ったりもしている。日本では《春のめざめ》が訳され上演されている。
執筆者:上田 浩二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報