改訂新版 世界大百科事典 「複数芸術」の意味・わかりやすい解説
複数芸術 (ふくすうげいじゅつ)
マルティプル・アートmultiple artの訳。マルティプルズmultiplesとも呼ぶ。広義には版画や鋳造彫刻も含まれるが,普通は第2次大戦後に現れた,複数のオリジナルをもつ造形芸術(多くの場合オブジェ)をいう。産業革命後,機械による大量生産が推進される状況の中で,19世紀中ごろには手仕事による一品制作が〈美術fine arts〉の原則とされた。しかし,作品をもっぱら美的鑑賞に供しようとすれば,コストの高騰を招くなど,美術の社会的・実用的機能が否定されることになる。20世紀に入ると,新しいテクノロジーを利用して,このような矛盾を超克しようとする芸術の潮流がおこり,〈複数芸術〉と総称されるに至った。その理念は構成主義やバウハウスのうちにすでに底流していたが,実際に多様な展開をみせたのは1960年代以後である。フランスのバザレリーと〈視覚探究グループ〉,イタリアのムナーリB.Munariと〈グルッポT〉,スイスのゲルストナーK.Gerstner,ドイツのマックH.Mack,イギリスのマーティンK.Martinと構成主義グループ,アメリカのプーンズL.Poons,ジャッドD.Juddなど抽象芸術家が多い。
執筆者:針生 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報