日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本充実の原則」の意味・わかりやすい解説
資本充実の原則
しほんじゅうじつのげんそく
かつての理解では、会社が設立されたとき、または新株発行の際に、資本金の額に相当する財産が確実に会社に拠出されることを要求する原則であった。資本金制度における本質的な原則とされてきた。会社法上、これを趣旨とする規定としては、発行価額全額の払込み(会社法34条1項・2項、63条1項・3項、208条1項・2項、281条1項・2項)、現物出資の規制(同法33条、93条、96条、207条、284条)などがある。しかし、現行の会社法では、最低資本金が撤廃されて低い資本金額でも設立が可能となり、発起人等の引受・払込担保責任や給付未済財産価額填補(てんぽ)責任の規定(旧商法192条、280条ノ13、192条ノ2、280条ノ13ノ2)がなく、発起人や募集株式引受人は出資の履行をしなければ失権して株主になれず(同法36条3項、63条3項)、いわゆる打切り発行が許容されている。したがって、会社法上、資本充実の原則とは、初めに定められた資本金額に見合う会社財産を確保するという意味ではなく、実際に拠出された会社財産の額に見合う額を資本金額とすることを実質的に保障するという意味で理解できるにとどまる。
[戸田修三・福原紀彦]