翻訳|capital
個人企業では,純資産額(=資産総額-負債総額)のすべてが〈資本金〉として処理される。それは,事業主自身が投下している資本(資金)を意味し,過去の利益の蓄積分も含んでいる。したがって,個人企業の資本金額は事業主の意思と事業の成否とによってつねに変動する。これに対して,株式会社は株主の有限責任が保証された企業であるから,その資本金は,株主の有限責任の限度を基本的には明示する資本として法律(日本では商法)によって厳格に規定されており,この意味で法定資本legal capitalもしくは確定資本stated capitalとも呼ばれている。それは,株式資本金と組入資本金との二つから構成される。
株式資本金とは,原則として株主が拠出した資本の総額(〈発行済株式ノ発行価額ノ総額〉(商法284条ノ2-1項))であって,株主の有限責任の限度を表すものである(企業それ自体の資金管理の観点を強調していえば,株主という資金源泉の一つから調達された資金にほかならない)。しかしながら,株主の拠出資本のすべてが資本金とされるとは限らない。たとえば,1株1000円で時価発行されるときは,1株当り500円(2分の1)までは資本金に組み入れず,資本金に準ずる資本として位置づけられる資本準備金(株式払込剰余金)とすることができるからである(商法284条ノ2-2項,同288条ノ2-1項1号)。この場合,資本金は1株当り500円しか増加しないけれども,企業の資金調達の観点からいえば,1株当り1000円の資金が調達されたことには変りがない。つぎに,組入資本金とは,資本準備金または利益準備金を資本金に組み入れても,株式を発行せずにすました場合の資本金である(商法293条ノ3-1項,2項)。この場合,資本金は増加するけれども,その分だけ法定準備金が減少するので,企業の資金調達の観点からいえば,実質的な変化は生じていない,つまり新たな資金が調達されたわけではない,ということに注意しなければならない。資本金が増加する場合としては,いま一つ,株式配当の場合がある(商法293条ノ2)。それは利益配当の一形態であって,株式資本金は増加するけれども,その分だけ処分可能利益が減少するので,この場合も,組入資本金の増加の場合と同様に,資金の流れはまったく生じない。ただ,金銭による利益の配当の場合と比べると,資金の流出が節約されただけ,企業にとって有利であったといいうるにすぎない。しかし,株主の立場からみれば,株式配当は利益の配当として受け取るはずの金銭を新たに拠出したことを意味しており,その分だけ,株主の有限責任の限度が拡大したことになる。
以上に述べた資本金の増加,すなわち増資の場合に対比して,資本金の減少,すなわち減資の場合は,株主の有限責任の限度が縮小することとなるので,商法は主として債権者保護の観点から減資を厳しく規制している(商法375条ないし380条)。減資の手続がとられるのは,通例としては,損失が累積し,欠損金(純資産額が資本金,資本準備金,および利益準備金の合計額を下回る額)が巨額になって,利益準備金と資本準備金とのいずれをもってしても塡補(てんぽ)しえず,減資を最後の手段としている場合である。減資によって差益が生じても,それは資本準備金(減資差益)として積み立てなければならない(商法288条ノ2-1項4号)。
→資本
執筆者:杉本 典之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
企業の貸借対照表の資本金勘定に計上された金額。個人企業であれば、資本金勘定は営業主が(追加)元入れした場合、決算で純利益を計上した場合に増加し、営業主が引き出した場合、決算で純損失を計上した場合に減少する。これに対して、株式会社の資本金は会社法の規制を受ける。株式会社の株主は有限責任であり、出資額を超えて責任を負うことがない。そのメリットを株主が享受することの代償として、法が会計に関与するのである。
会社法は、設立または株式の発行に際して株主となるものが、当該株式会社に対して払込みまたは給付をした財産の額を資本金とすることを原則としている。ただし、払込みまたは給付にかかる額の2分の1を超えない額は資本金としないことができ、この資本金としないこととした額は資本準備金として計上しなければならない(会社法445条)。
合併、吸収分割、新設分割、株式交換または株式移転に際しては、法務省令に定めた額を資本金としなければならない(会社法445条)。具体的には会社計算規則第58条以下で規定されているが、基本的には合併等の契約で決めた額を資本金とすればよい。
会社の設立に際しては、出資される財産の価額またはその最低額を定款に記載しなければならないが(会社法27条)、下限の定めがないので、資本金1円の会社の設立も認められると解される。
会社設立後には、株主総会の決議によって資本金の額を減少し、その他資本剰余金の額を増加させたり(会社法446条)、資本準備金の額を増加させたりすることができる(会社法447条)。その場合、資本金の減少額について下限の定めがないので、資本金をゼロとすることも可能である。なお、資本金の減少には原則として債権者保護手続が必要である。
[万代勝信]
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(小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)
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出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
…したがって,企業会計上の資本概念も,今日では資産,負債の各概念とともに,このような考え方のもとで規定されなければならなくなったわけである。 株式会社が作成する貸借対照表の資本の部には,現行の会計諸則のもとでは,大別して,(1)資本金,(2)資本準備金,(3)利益準備金,(4)剰余金,の四つの項目が記載されるのが通例である。これらのうち,(1)の資本金は原則として株主が拠出した株式資本金から構成され,(2)の資本準備金も株主が拠出した株式払込剰余金を主要な構成要素としているので,これら二つの項目は合わせて株主の拠出資本とみても大過ない。…
※「資本金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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