内科学 第10版 「赤芽球癆」の解説
赤芽球癆(造血不全)
定義
赤芽球癆は赤芽球やその前駆細胞が傷害されることにより,網赤血球の減少を伴う貧血をきたす病態である.通常,白血球数と血小板数は正常に保たれる.
分類・病因
先天性と後天性があり,後天性慢性赤芽球癆は基礎疾患の有無によって特発性と続発性に分類する.その病因を表14-9-7
に示した.赤芽球癆の9%に胸腺腫が合併する.
疫学・統計
赤芽球癆はまれな疾患で,年間罹病率は人口100万人に対し0.3人と推定される.男女差はないと考えられている.
臨床症状
成人の場合,赤芽球癆と診断した時点ですでに重症の貧血であることが多い.自覚症状は貧血に伴う全身倦怠感,動悸,めまいなどである.続発性の場合,基礎疾患に対応した身体所見と症状がみられる.
検査成績
末梢血中の赤血球数とヘモグロビン量が減少するとともに,網赤血球の著減が特徴である.通常は白血球数と血小板数は正常である.骨髄所見では赤芽球系のみの減少を認め,通常5%以下となる.ヒトパルボウイルスB19感染症では,骨髄に巨大赤芽球が認められる.
診断
末梢血で正球性正色素性貧血と網状赤血球の著減,骨髄で赤芽球の著減を認め,貧血の原因が赤血球の産生低下であれば赤芽球癆と診断できる.
治療・経過・予後
支持療法として赤血球輸血を行う.頻回の輸血による鉄過剰症が危惧される場合には鉄キレート剤の投与を考慮する.
1)急性赤芽球癆の治療:
赤芽球癆の確定診断が得られたらすべての薬剤を中止する.中止が困難な場合はほかの作用機序の異なる薬剤へ変更を試みる.パルボウイルスB19感染症は,対症的に経過を観察する.薬剤性や感染性の場合は通常,1~3週間以内に改善傾向が認められる.また,特発性赤芽球癆と診断された症例の10~15%が全経過のなかで自然寛解することから,赤芽球癆と診断した場合,薬剤の中止とともに1カ月間は可及的に免疫抑制療法などの積極的治療を控えて経過を観察するのが望ましい.その間に続発性赤芽球癆の鑑別診断を行う.
2)慢性赤芽球癆の治療:
胸腺腫合併赤芽球癆において,赤芽球癆に対する胸腺摘出の効果は明らかでない.したがって,胸腺摘出の手術適応は胸腺腫そのものの治療方針に基づいて判断する.胸腺腫合併赤芽球癆のシクロスポリンに対する反応はきわめてよく,通常2週間以内で輸血不要となる.特発性赤芽球癆や,原疾患の治療を行っても無効の続発性赤芽球癆に対しては免疫抑制薬の使用を考慮する.単独投与での有効率はシクロスポリン(CsA)が最も高い(75~87%).ついで副腎皮質ステロイド(30~56%),シクロホスファミド(CY)(7~20%)である.副腎皮質ステロイドで治療した場合,80%が24カ月以内に再発する.シクロスポリン登場以前に治療された特発性赤芽球癆の生存期間中央値は14年,続発性は4年である.シクロスポリンで治療した場合の再発率は36%で,50%無再発期間が約7年と推定され副腎皮質ステロイドより長期の寛解を維持できる可能性が示唆されている.シクロスポリン有効群と副腎皮質ステロイド有効群の全生存率に差は認められていない.[澤田賢一]
■文献
Dessypris EN, Lipton JM: Red cell aplasia. In: Wintrobe’s Clinical Hematology, 12th ed (Greer JP, et al eds), pp1196-1211, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, London, 2009.
Sawada K, Fujishima N, et al: Acquired pure red cell aplasia: updated review of treatment. Br J Haematol, 142: 505-514, 2008.
澤田賢一,高後 裕,他:赤芽球癆,診療の参照ガイド(平成22年度改訂版).特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド 平成22年度改訂版(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班 特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド,小澤敬也(研究代表者)編),pp33-55, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報