アメリカの作家、カポーティの長編小説。1948年刊。少年ジョエルは、見覚えのない父を尋ねて、「されこうべやかた」と人のよぶ、南部の古い屋敷へたどり着く。「未来のすべては過去に存在する」この廃園では、死が現世の命より力をもち、物は「ひびの入った色眼鏡(めがね)」を通してしか映らず、性は正常な交配を知らない。少年の目覚めようとする自我の底を、正体定かでない幻想がよぎる。南部の湿潤な自然と、黒人奴隷制度の歴史をもつ閉ざされた地域社会が、世の営みをこの世ならぬものにする。物語は直喩(ちょくゆ)と隠喩、繊細なことばにちりばめられている。
[稲澤秀夫]
『河野一郎訳『遠い声、遠い部屋』(1971・新潮社)』
…ニューオーリンズに生まれ,幼時から創作に意欲を燃やしていたが,17歳のときニューヨークに出てから本格的に書きはじめ,19歳のとき短編《ミリアム》を発表して一部の注目を集めた。その後,小説《遠い声,遠い部屋》(1948)によって,南部の早熟な天才作家出現と全米に喧伝された。南部の強烈な日ざしとその裏にひそむ退廃を背景に,現実と幻想の交錯するゴシック的な境界を遍歴する少年の物語が,入念な筆で仕上げられていて,文壇に清新な衝撃を与えたのである。…
※「遠い声、遠い部屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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