内科学 第10版 「遺伝性筋疾患」の解説
遺伝性筋疾患(筋疾患の分類)
遺伝性筋疾患を大きく分けると,①慢性進行性の筋力低下/筋萎縮を主徴とする,筋ジストロフィ/遺伝性ミオパチー,②ミオトニアを主徴とするミオトニア症候群,③骨格筋のイオンチャネルの異常によって起こり,ミオトニア,周期性四肢麻痺,悪性高熱などを現すイオンチャネル病,④ミトコンドリアの異常により,筋および中枢神経系などの異常を起こすミトコンドリア病,⑤先天性代謝異常により骨格筋および心筋障害を起こす代謝性ミオパチー,に区分される.
遺伝性筋疾患と,その原因遺伝子,遺伝子産物の対応を表15-21-2,15-21-3に示す.遺伝性筋疾患の研究は1980年代以降爆発的に進展した.
a.筋ジストロフィ/ミオパチー【⇨15-21-3)】
1)進行性筋ジストロフィ:
遺伝性筋疾患を代表するのは筋ジストロフィであり,幼児期以降に発症する進行性筋ジストロフィと,生下時から発症している先天性筋ジストロフィに大別する.
典型的な筋ジストロフィがX染色体劣性遺伝のDuchenne型筋ジストロフィ(Duchenne muscular dystrophy:DMD)である.
DMDの軽症型としてBecker型筋ジストロフィ(Becker muscular dystrophy: BMD)がある.筋ジストロフィは,このDMD/BMDに臨床的・病理学的に類似性をもつ疾患として定義される.その他の筋ジストロフィにはBMD類似の症状を示すものとして,常染色体遺伝の肢帯型筋ジストロフィ(limb-girdle muscular dystrophy:LGMD)があり,特異なものとして,筋力低下/筋萎縮の分布が異なる顔面・肩甲・上腕型筋ジストロフィがある.
2)遠位型ミオパチー:
筋疾患のなかで,おもに青年期以降に下肢遠位筋の筋力低下で発症するものを遠位型ミオパチーとして区別する.わが国では,病理上縁どり空胞(rimmed vacuole)を伴う遠位型ミオパチーと,三好型遠位型筋ジストロフィが多い.ほかにX染色体劣勢のEmery-Dreifuss型筋ジストロフィがある.
3)眼咽頭型筋ジストロフィ(oculopharyngeal muscular dystrophy:OPMD):
眼瞼下垂と,嚥下障害,鼻声を特徴とする特異な緩徐進行性疾患(常染色体優性遺伝)がある.
4)先天性筋ジストロフィ(congenital muscular dystrophy:CMD):
病理学的変化は筋ジストロフィで,生下時より筋力低下などの症状が明らかであるものを先天性筋ジストロフィとよぶ.中枢神経病変(知能障害)を伴うものと伴わないものに大別され,わが国では,高度の精神遅滞を伴う福山型筋ジストロフィが最も多い.この疾患は日本人の常染色体劣性疾患のなかで最も多いものであり,また日本人以外にはほとんどない.
5)良性の先天性(非進行性)ミオパチー:
遺伝性ミオパチーのなかで,良性の先天性(非進行性)ミオパチーとよばれる一群の疾患がある.これらは,筋緊張低下児(floppy infant)として発症し,きわめて進行のゆるやかな,筋力低下/筋萎縮を主要症候とし,筋病理上,速筋線維萎縮と,遅筋線維優位を共通の特徴とする.
主要な疾患は,ネマリンミオパチー,セントラルコア病,ミオチュブラーミオパチー,先天性筋線維タイプ不均等症などで,それぞれ特徴的な筋病理を有する.
b.ミオトニア症候群【⇨15-21-4)】
ミオトニア(筋細胞膜の被刺激性亢進のため,わずかな刺激で容易に筋収縮が起こり,弛緩しにくくなる現象)を主要徴候とする疾患群である.このなかには,筋強直性ジストロフィ,Schwartz-Jampel症候群,先天性ミオトニア,先天性パラミオトニアなどがある.
c.イオンチャネル病【⇨15-21-7)】
筋細胞膜,小胞体膜に存在するイオンチャネルの遺伝子異常の一部が筋疾患の原因となる.症候としては,前述のミオトニア症候群以外に,周期性四肢麻痺および悪性高熱がある.
d.ミトコンドリア病(mitochondrial disease)【⇨15-21-9)】
ミトコンドリア遺伝子の異常は,病型によって,眼瞼下垂,外眼筋麻痺,全身の筋力低下のほかに,精神発達遅滞,ミオクローヌス発作,脳卒中様発作などの中枢神経症状や,その他,心筋症,糖尿病など広範な症候をきたす.
e.先天性代謝異常に伴うミオパチー
糖原病および,カルニチン欠損症,カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)欠損症のような脂質代謝異常がミオパチーを起こす.【⇨15-21-6)】[清水輝夫]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報