先天性筋ジストロフィ

内科学 第10版 「先天性筋ジストロフィ」の解説

先天性筋ジストロフィ(筋ジストロフィ)

(5)先天性筋ジストロフィ
 生下時より明らかな重症型の筋ジストロフィを先天性筋ジストロフィ(congenital muscular dystrophy:CMD)とよぶ.ヨーロッパを中心に先天性筋ジストロフィとして報告されてきた疾患(西欧型先天性筋ジストロフィ)は筋力低下が重篤で,運動発達は著しく障害されるものの知能低下は目立たない.一方,日本では知能低下の著明な福山型先天性筋ジストロフィが多く好対照をなしている. 欧米において福山型先天性筋ジストロフィとの異同が問題となる疾患は,Walker-Warburg症候群(WWS)と筋・眼・脳症(muscle-eye-brain(MEB)病)であり,いずれも脳奇形,眼奇形と筋ジストロフィを合併する.
a.福山型先天性筋ジストロフィ(Fukuyama type con­genital muscular dystrophy:FCMD)
概念・原因
 わが国で最も頻度の高い常染色体劣性遺伝疾患である.その遺伝子は1993年戸田らによって発見され,その遺伝子産物がfukutinと命名された.日本独特で諸外国では例外的である.その約80%が30 kbのレトロトランスポゾン挿入のホモであり,残りの大部分もこの変異とほかの変異との複合ヘテロである.
病態生理
 fukutinは,Golgi体膜においてα-dystroglycanの糖鎖形成に関与し,その障害によりα-dystroglycanとラミニン結合ができなくなるため発症する(図15-21-7).
疫学
 日本人の約26000出生に1人の割合で生まれる.男女差はない.日本人の約80人に1人が保因者である.
病理
 生検筋病理は筋ジストロフィ変化を呈するが,壊死・再生線維は多くはない.筋線維は小径化したものが多く,40 μmをこえる線維はない.
 中枢神経系では,後頭葉,側頭葉の皮質に特に著明な小多脳回,脳皮質の層構築異常が特徴的である(大脳層構築異常).
臨床症状
 新生児期から,筋力低下・筋緊張低下があり,筋緊張低下児(flo­ppy infantである).哺乳力,啼泣力が弱いことで気づかれる.重篤な精神運動発達遅滞をきたし,歩行能力を獲得する例はまれで,いざり程度の運動能力で終わることが多い.顔面筋の罹患,咬合不全,巨舌があり,開口していることが多いが,先天性筋強直性ジストロフィの場合とは異なり,額が狭く,頰筋の仮性肥大のため,頰がふっくらしており,特有の顔貌を呈する.約半数の患者に有熱性/無熱性の痙攣発作をみる.また,眼奇形を伴う点にも特徴がある.
検査成績
 中等度から高度の血清CK値上昇をみる.AST,(ALT),アルドラーゼ,LDHもこれに伴って上昇する.
 筋電図は典型的な筋原性変化である.
 頭部MRIでは,小多脳回に相当する変化以外に,大脳白質にT2信号延長域を認める.
診断
 臨床症状,血清CK値の上昇,生検筋病理所見から診断するが,確定診断のためには,fukutin遺伝子の解析が必要である.
鑑別診断
 筋症状,眼奇形,中枢神経症状が共通する疾患に,筋・眼・脳病,Walker-Warburg症候群があり,いずれもα-dystroglycanの糖鎖形成異常症である(α-dystroglycanopathy).遺伝子診断で確定する.
経過・予後
 生後まもなく死亡するような重症例もあるが,20歳代後半まで生存することもある.平均寿命は18歳前後で,死因は呼吸器感染,心不全,痙攣発作重積などである.
b.メロシン欠損による先天性筋ジストロフィ(MDC1A)
概念・原因
 西欧型先天性筋ジストロフィ症例の多くは,筋型ラミニンであるメロシン欠損であり,その多くはメロシンを構成するlaminin α2鎖遺伝子(LAMA 2)の異常である(図15-21-7).日本でのメロシン欠損の頻度はヨーロッパの1/10程度である.
病理
 生検筋病理は福山型先天性筋ジストロフィに似る.
臨床症状
 筋力低下は福山型筋ジストロフィと同程度で重症だが,精神遅滞やてんかん発作など中枢神経症状は例外的である.眼奇形も伴わない.
検査成績
 血清CK値の上昇は中等度から高度であり,筋電図は典型的な筋原性変化である. 頭部MRIでは,福山型先天性筋ジストロフィと異なり形態的異常は認めないが,大脳白質にT2信号延長域を認める.末梢神経伝導速度の低下,SEP,VEPでの潜時の延長を認める.
診断
 福山型先天性筋ジストロフィとの鑑別は,知能障害の有無が判定しにくい乳児期では困難である.生検筋の免疫組織化学染色で,laminin α2鎖の完全欠損により確定する.
経過・予後
 完全欠損は予後不良で,歩行能力は獲得せず,呼吸不全を発症し,多くは呼吸器感染により10歳前後で死亡する.[清水輝夫]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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