眼瞼下垂(読み)がんけんかすい(その他表記)Blepharoptosis

六訂版 家庭医学大全科 「眼瞼下垂」の解説

眼瞼下垂
がんけんかすい
Blepharoptosis
(眼の病気)

どんな病気か

 まぶたが上がりにくい(眼が十分開きにくい)状態です。

原因は何か

 まぶたを上げるのは、眼瞼挙筋(がんけんきょきん)という筋肉です。その筋肉を動かすのは動眼(どうがん)神経という神経です。この筋肉または神経の異常で眼瞼下垂が起こります。

 これら以外で眼が開きにくい状態を偽眼瞼下垂(ぎがんけんかすい)といい、まぶたの皮膚の弛緩(しかん)(たるみ)、病的な眼球縮小先天性小眼球)・萎縮(いしゅく)眼球癆(がんきゅうろう):失明した眼球が小さくなった状態)などで起こります。

症状の現れ方

 先天性のものが最も多く、普通は眼瞼挙筋の形成不全で起こります。片眼性のことが多いものの、両眼性もみられます。遺伝することもしばしばです。

 後天性では、加齢により徐々に起こる眼瞼下垂をよくみます。眼瞼挙筋の筋力の低下によるもので、いわゆる「年をとって眼が細くなる、開きにくくなる」というもののひとつです。

 ある程度以上の下垂があると、物を見る時、あごを上げる姿勢をとります。また、まぶたをより上げようとするため、額にしわが寄ったり、眉毛が上がったりします。

 成人で疲労によって眼瞼下垂が起こる時は、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)という病気が疑われます。そのほか、眼科手術後に起こるもの、脳梗塞(のうこうそく)などのあとに起こるもの、脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)による神経の圧迫で起こるものなどいろいろです。時には、コンタクトレンズの長期装用者に眼瞼下垂が起こることもあります。

 また、眼瞼下垂とともに複視(物が二重に見える)を発症することもあります。これは眼球を動かす筋肉または神経が同時に異常を起こした場合に生じます。

検査と診断

 眼瞼下垂は多くの原因で起こります。先天性でも、複雑な神経の異常で起こる場合もあります。後天性では、何かのきっかけがあったか、複視があるか、疲労と関係があるかなどが診断の手助けとなります。疲労と関係があり、重症筋無力症が疑われる場合は、特殊な薬物(抗コリンエステラーゼ)を検査に用います。

治療の方法

 最も多い先天性眼瞼下垂では手術が主体です。重症の下垂では視力の発達が阻害されることもあり、早期の手術が必要な場合もあります。

 そのほかのものは、症状の程度により手術するかどうか決定します。眼科手術後や脳梗塞後に起きたものは、自然に回復することも多いので数カ月様子をみます。重症筋無力症では薬物療法が主体です。

病気に気づいたらどうする

 原因により治療法や予後が異なるので、専門医を受診してください。とくに急性に起こった場合では、脳動脈瘤が原因のこともあり、早期の脳外科手術が必要となる場合もあります。

森 秀夫

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「眼瞼下垂」の解説

がんけんかすい【眼瞼下垂 Blepharoptosis】

[どんな病気か]
 生まれつきみられる場合(先天性眼瞼下垂(「先天性眼瞼下垂」))と、中高年にみられる場合(後天的な眼瞼下垂)に分けることができます。多くは片側の上まぶた(上眼瞼)が下垂した状態で、まれに両側のことがあります。両方の上まぶたに発生して、とくに疲労がたまると悪くなる場合は、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)が疑われます。この場合は内科の専門医の検査を受ける必要があります。
[診断]
 重症筋無力症が疑われる場合は、テンシロンRという薬を静脈内に注射し、下垂が改善するかどうかを判定する、テンシロンテストを行ないます。
[治療]
 重症筋無力症の場合は薬を内服したり、胸腺(きょうせん)の摘出術を行なったりします。それ以外の先天的、後天的な眼瞼下垂では、手術によって下垂の程度を減らすことが治療の目的になります。左右差が小さい場合や子どもでは、手術後にも顔全体が成長するので、ある程度手術を待ったほうがよいこともあります。しかし、とくに生まれて間もない乳児の眼瞼下垂では、上まぶたの縁が角膜(かくまく)中央部を隠すと強い弱視(じゃくし)をおこすので、できるかぎり早期に手術を受けなければなりません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「眼瞼下垂」の意味・わかりやすい解説

眼瞼下垂
がんけんかすい
blepharoptosis

上眼瞼が下垂して瞼裂が狭くなる状態。上眼瞼挙筋または上瞼板筋の麻痺によって起る。前者は動眼神経麻痺によるもので下垂の程度が強く,後者は交感神経麻痺によるもので軽い。先天的なものが多い。後天的には片側性のものが多く,外傷,梅毒,腫瘍,筋無力症などで起る。治療は,先天性のものには手術を行い,後天性のものには原因療法を行う。筋無力症にはワゴスチグミン注射がよくきくので,診断にも用いられる。

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