酸素欠乏の略,または通称。空気中の酸素量が,換気不良の場所で,酸素を吸収する物質の存在により,または他のガスによって置換されることにより,通常の状態(容積比で約20.8%,乾き空気では約20.93%)以下になることをいう。換気不良の場所での酸欠状態は,物の燃焼,動植物の呼吸などのほか,有機物の酸化・分解,硫化鉄を含む鉄の存在,空気に触れたことのない水,たとえば岩漿水(がんしようすい)の存在,等によって発生する。野菜や穀物の貯蔵庫(室(むろ))は植物の呼吸により,下水道マンホールや古井戸,旧坑などでは有機物の酸化・分解や,カビの発生,トンネル工事や鉱山の新坑掘進では,周囲の土壌および岩石中に含まれる鉄や有機物,あるいは湧出する岩漿水により,酸素の吸収が行われることが多い。加圧状態で空気が送り込まれているケーソン工事現場での酸欠は,周囲地層中に含まれる酸素吸収物質によって酸素を吸収された空気が,減圧,または常圧にもどされたときに作業場へ逆噴出してくるため,といわれている。また,地下深所の掘削作業場などにおける湧水には,高圧溶解状態の二酸化炭素等を含んだものがあり,これから発生したガスのため,酸素濃度が相対的に減少することに伴う酸欠がある。いずれにしても人間は酸素濃度が14%(容積比)以下になると呼吸回数が増し,10%では呼吸困難,7~5%で窒息死に至る。しかし酸化・分解に伴う酸素消費とこれの見返りとしての二酸化炭素やメタンの生成した状態での窒息死を,生成ガスによる中毒死とすることは当を得ない。
なお,労働安全衛生法に基づく酸素欠乏症防止規則では,空気中の酸素濃度が18%未満の状態を酸素欠乏と定め,酸素欠乏危険作業に当たっての換気,空気呼吸器等の使用を義務づけている。
執筆者:岩崎 孝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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