化学辞典 第2版 「金属ポルフィリン錯体」の解説
金属ポルフィリン錯体
キンゾクポルフィリンサクタイ
metalloporphyrin, metal porphyrin
ポルフィンおよびその誘導体ポルフィリンを配位子とする,有色の金属錯体の総称.ポルフィリンは大環状平面分子で,図に示すように,中心にある4個のN原子で金属原子と結合する2-の配位子である.4個のN原子は等価で,図に示す十六員環18π電子系をなす.代表的なポルフィリンは,5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリン(TPP2-)と,2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチルポルフィリン(OEP2-)がある.ほとんどすべての金属原子で金属ポルフィリン錯体が知られている.一般には平面形であるが,第五,第六配位座にほかの分子(軸配位子という)が配位した四角すい,または八面体錯体も多く存在する.FeⅢ,MnⅢなど比較的高い酸化数の金属イオンをもつ錯体から,CoⅠ,FeⅠ,RhⅠなどの低い酸化状態の錯体まで存在する.さらに酸化状態が高い錯体には,ポルフィリンπ電子系から電子がとれた金属錯体や,低い酸化状態の錯体では,π電子系に電子が入った金属錯体も存在する.400~420 nm 付近にソーレー帯とよばれる非常に強い吸収帯と,650 nm 付近にQ帯とよばれる吸収帯がある.これらの吸収帯は,ポルフィリンのHOMO(a1u,a2u)とLUMO(eg)の4軌道でほぼ記述できる.分子軌道を図に示す.TPPとOEP金属錯体では,HOMOの分子軌道のエネルギーが逆転しており,TPP型のものは a2u 軌道,OEP型では a1u 軌道が高くなっている.ポルフィリン金属錯体は生体中で重要な役割を担っており,酸素運搬,酸素貯蔵,電子伝達系のヘモグロビン,ミオグロビン,チトクロム中の鉄ポルフィリン錯体,またカタラーゼやペルオキシダーゼのcompoundⅠでは,ポルフィリンπ電子系から電子がとれた鉄ポルフィリン錯体がよく知られている.金属ポルフィリン錯体は,酵素中の遷移金属原子の役割を明らかにするためのモデル化合物として研究に用いられている.また,クロロフィルはポルフィリン環の17,18位が還元されたクロリン(chlorin)誘導体の Mg2+ 錯体であり,光合成で重要なはたらきをしている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報