日本大百科全書(ニッポニカ) 「TPP」の意味・わかりやすい解説
TPP
てぃーぴーぴー
Trans-Pacific Partnership
太平洋周辺の国々を中心に人、物、金、情報、サービスなどの移動をほぼ完全に自由にしようという国際協定。正式名は環太平洋パートナーシップ協定で、TPPはこの略称である。2018年に11か国がTPP(正確にはTPPの自由化原則を踏襲したCPTPP)に署名し、発効した。参加国は2023年末時点で、日本、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、イギリスの12か国。当初、交渉に加わっていたアメリカは大統領トランプ(当時)の意向で離脱し、一方、ヨーロッパ連合(EU)から離脱したイギリスが加盟した。中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナも加盟を申請し、タイ、インドネシア、コロンビア、韓国などが参加を検討中。新規加盟には全加盟国の同意が必要である。TPPは域内総生産(GDP)で世界の約15%を占め、人口約5.8億人の巨大経済圏であり、太平洋からヨーロッパにいたるメガ自由貿易協定(FTA)でもある。
APEC(エーペック)(アジア太平洋経済協力会議)加盟国であるシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリの4か国が2006年に締結したFTAが原型。2009年にアメリカ大統領オバマ(当時)が参加の意向を表明し世界的に注目された。日本は2013年(平成25)から交渉に参加し、2016年に12か国が署名して発足するはずだった。TPPは、関税の段階的引下げ(市場アクセス)、環境の保護、適切な労働基準、投資や金融サービスの自由化、国有企業への優遇の縮小、知的財産権の保護(TRIPS(トリップス)協定)などを規定した30章からなる。しかしアメリカが2017年に離脱したため、TPP原則を踏襲しながらアメリカの要求規定(著作権保護など22項目)を凍結したCPTPPを締結して発足。参加国はアメリカの協定復帰を待つ方針とした。TPPは鉱工業品、農産物など全品目・貿易額の99.9%(日本は95%)の関税が撤廃され、投資や知的財産保護のルールを確立し、外国人労働者の受入れに関する規制も少なくなる。
なお、TPP以外の太平洋周辺の多国間経済協定には、ASEAN(アセアン)諸国と日本、中国など15か国が加わるRCEP(アールセップ)(アメリカは不参加)、アメリカ主導で日本、インドなど14か国によるインド太平洋経済枠組み(IPEF(アイペフ)、中国は不参加)などがある。RCEPはTPPより経済規模は大きいが関税削減率などの自由化度合いは低く、IPEFは関税の撤廃・引下げを交渉対象に含まない。
[矢野 武 2024年1月18日]