金正男(読み)きむじょんなむ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金正男」の意味・わかりやすい解説

金正男
きむじょんなむ
(1971―2017)

金正日(キムジョンイル)の長男金正恩(キムジョンウン)の異母兄。5月10日生まれ。母親は元女優の成恵琳(ソンヘリム)(1937―2002)。ジュネーブのインターナショナルスクール留学、その後モスクワマカオなどで暮らす。2001年5月1日に成田空港で拘束された際には、「Pang Xiong(胖熊)」名義のドミニカ共和国の偽造旅券を所持していた。2009年ごろから西側メディアの取材にもたびたび応じ、後継者問題に対して「父が決めたことだからそれに従う」などと発言。東京新聞編集委員の五味洋治(1958― )が2004年以降のメールのやりとりと長時間のインタビューを収録した書籍を2012年1月に出版し、異母弟の金正恩とは会ったことがない事実などが明らかにされた。

 2017年2月13日、マレーシアのクアラ・ルンプール国際空港において殺害された。VXガスによる殺害容疑でベトナム人女性とインドネシア人女性が逮捕されたが、北朝鮮籍容疑者4名は現場から速やかに立ち去り、北朝鮮に帰国したとみられている。北朝鮮側は事件への関与を全面的に否定し、マレーシア側の捜査姿勢を公然と批判したことなどを受け、マレーシア政府は駐朝大使の召喚、駐マレーシア北朝鮮大使に対するペルソナ・ノン・グラータ指定(国外退去処分)、ビザなし渡航制度の廃止などの措置をとった。一方の北朝鮮政府は、一時拘束された北朝鮮人容疑者の解放などを求め、同国内に滞在中のマレーシア人の出国を許さないという「人質外交」を展開した。一方、金正男の長男である金ハンソル(1995― )は第三国への亡命を果たしたとされる。

[礒﨑敦仁 2020年2月17日]

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知恵蔵mini 「金正男」の解説

金正男

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の故・金正日(キムジョンイル)総書記と2番目の妻・成蕙琳(ソンヘリム)の長男として、1971年5月10日に生まれる。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄にあたる。幼少期をモスクワで過ごし、1980年からスイスなどに2年間留学した。88年に朝鮮コンピューター委員会委員長を務め、95年には朝鮮人民軍の大将の階級に昇進したとされる。一時は金正日の後継者候補と目されたが、2001年に偽造旅券で日本に密入国しようとし摘発されて中国に追放され、09年に三男の正恩が後継者に指名された。07年より中国やマカオに滞在し、10年には、3代世襲に反対する旨の発言を行った。正日の死去直後の11年12月に帰国して以降、北朝鮮への入国は不明。金正恩体制が発足した12年1月に、マカオからシンガポールへ住居を移したことが海外メディアによって報じられた。17年2月13日、マレーシアの首都クアラルンプールの空港で死亡したことが翌14日に報道された。北朝鮮の工作員に毒殺されたとみられている。

(2017-2-16)

金正男

北朝鮮の故・金正日総書記の長男で、金正恩第1書記の異母兄。1971年5月10日生まれ。母親が既婚者であったことから、出生当時は父・正日によって存在を隠されていた。スイスやロシアへの留学歴があり、母国語の他に数カ国後を操るとされる。コンピューターにも精通し、北朝鮮の光ファイバー情報ネットワークの構築などを指導した。正日の後継者候補に挙げられていたが、政治に関心がなく、出生に問題もあることから、2009年、三男の正恩が後継者に指名された。07年より中国・マカオに滞在していたが、この頃、正恩によって暗殺を謀られたとされる。以来、海外メディアの取材に母国の3世代世襲制について批判的な見解を述べていることもあり、北朝鮮の軍部などに敵視されているとも言われる。正日の死去直後の11年12月に帰国して以降、北朝鮮への入国は不明。金正恩体制が発足した12年1月にマカオからシンガポールへ住居を移したことが韓国メディアによって報じられている。

(2012-11-18)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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