金正恩(読み)きむじょんうん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金正恩」の意味・わかりやすい解説

金正恩
きむじょんうん
(1984― )

北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)の三代目の最高指導者。1月8日、父・金正日(キムジョンイル)の三男として誕生。母は高勇姫(コヨンヒ)(高容姫とも)。ただし、生年については2019年10月時点で、北朝鮮は公表しておらず諸説ある。兄に金正哲(キムジョンチョル)、妹に金与正(キムヨジョン)、異母兄に金正男(キムジョンナム)。夫人李雪主(リソルチュ)。金正恩との面会を繰り返したアメリカ人元バスケットボール選手のデニス・ロッドマンDennis Rodman(1961― )によれば、ジュエという名の女児がいる。北朝鮮国内では「敬愛する元帥様」などと称される。

 1996年夏から2001年初めまで、スイス・ベルンの公立小中学校などで学んだ。バスケットボールと漫画を好んだという。スイスからの帰国後は、金日成(キムイルソン)軍事総合大学を卒業し、軍関係の経歴を積んだとされる。2010年9月朝鮮人民軍大将となり、この人事で初めて公式報道に登場した。同月に朝鮮労働党中央委員とともに、新設ポストの党中央軍事委員会副委員長に就任し、金正日の後継者であることが明確となった。2011年12月の金正日死去で権力を継承。直後から「最高領導者」と呼称され、同月軍最高司令官、2012年4月党代表者会で新設の党第一書記に推戴(すいたい)され、同時に党中央委員会政治局常務委員、政治局員、中央軍事委員会委員長に就任している。同月の最高人民会議で新設された国防委員会第一委員長にも就き、自身を「最高首位に高く推戴する」よう憲法を改正した。7月朝鮮民主主義人民共和国元帥称号。2016年5月第7回党大会で新設の党委員長、6月最高人民会議で国防委員会第一委員長にかわって新設された国務委員会委員長に就任した。立法機関である最高人民会議では第12期、第13期代議員を務めたが、第14期には立候補せず、2019年9月の憲法改正によって国務委員会委員長は代議員にならないことが明文化された。2021年2月から北朝鮮メディアは、国務委員長をChairmanではなく、Presidentと翻訳して表記するようになった。

 2012年から「金日成・金正日主義」を掲げるほか、2016年から「自強力」というスローガンも重視する。「自強力」とは「自分のもの、自分の力が一番であるという信念を固くさせ、事大主義と民族虚無主義、輸入病のような不純な思想、不純なものを完全に根こそぎにするもっとも威力ある武器」だとされる。

 2016年から2017年にかけて核実験、ミサイル実験を繰り返したが、2017年11月に「国家核武力の完成」を宣言して以降は外交攻勢に転換。2018年3月に最高指導者として初の外遊先、中国を訪問してから、6月には史上初の米朝首脳会談を実現させるなど、外交攻勢を展開した。

[礒﨑敦仁 2021年4月16日]

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百科事典マイペディア 「金正恩」の意味・わかりやすい解説

金正恩【きんしょうおん】

朝鮮民主主義人民共和国最高指導者で,金日成の三男。母は高英姫。スイスのベルン国際学校で学んだといわれるが,ローザンヌ大学で学んだという説もある。2010年9月,朝鮮人民軍大将に任命,朝鮮労働者党代表者会議で中央委員,同中央委員会総会で党中央軍事委員会副委員長に選出された。2011年12月,金正日の死去にともない,内外に後継の最高指導者であることが示され,続いて朝鮮人民軍最高司令官ともされた。2012年4月,朝鮮労働党第一書記,第3代中央郡司委員会委員長に就任,権力世襲のプロセスが完了したと見られる。しかし,権力継承の直後の4月13日,国際的批判のなかで強行した長距離弾道ミサイルの発射に失敗,権威を内外に示すために核実験を行うのではないかと懸念された。2012年12月,長距離弾道ミサイルを発射,ミサイルに配備された物体が人工衛星軌道に乗り,発射は成功した。さらに2013年2月,4度目の核実験を行った。この核実験で強化原爆の開発,核弾頭の小型化に成功したとされている。この成功を北朝鮮メディアは,国内に向けて若き指導者の偉業と讃えた。北朝鮮は米韓軍事演習に強く反発しており,3月には,国連・中国との間で調印した朝鮮戦争休戦協定の全面白紙化を宣言,さらに,ミサイル発射の構えをとり続け,米国・韓国との緊張関係をエスカレートさせようとした。北朝鮮はこうした一連の強硬策を金正恩指導体制の成功として位置づけ,最終的に,米国に北朝鮮を核保有国として認知させようとしているとされる。韓国の朴槿恵大統領が習近平国家主席との間で両国間の経済協力と文化交流を深め政治と安保面での協力の幅を広げている動きのなか,2013年12月突如,政権ナンバー2で後見人と目されていた金正恩の義理の叔父である張成沢・国防委員会副委員長の粛清を発表。真相は不明だが金正恩独裁体制を強化する意図であることは確かで,側近も含め軍・党幹部の世代交代が促進されている。
→関連項目金正日張成沢

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知恵蔵 「金正恩」の解説

金正恩

朝鮮労働党中央委員会委員で、金正日(キム・ジョンイル)朝鮮労働党中央委員会総書記の3男であり、権力の後継者であるとされる人物。公式に後継指名されたわけではない(2011年1月時点)が、朝鮮人民軍大将や党中央軍事委員会副委員長に就任したこと、国内での各種の宣伝や報道などから、後継者となることが確実視されている。
1983年に在日朝鮮人であった高英姫夫人との間に生まれたとされる。2010年9月には、朝鮮労働党代表者会で党中央委員に選出された同氏の映像や集合写真などが配信された。また、10月の朝鮮労働党創建65周年を記念する軍事パレードでは、金正日総書記と共に、パレードを観閲する同氏の様子が北朝鮮国内でテレビ中継され、諸外国のメディアも配信した。建国者である祖父の金日成(キム・イルソン)主席をほうふつとさせる風姿が注目された。12月には、金日成、金正日、金正恩の三代が並んだバッジが朝鮮人民軍将校に配布されたとも伝えられる。
「やつれている将軍様の姿」などと報道され(労働新聞2009年4月12日付)、金正日総書記の健康不安が高まるなか、後継候補として急浮上した。国内メディアでは、「不世出の領導者を迎えたわが民族の幸運」として、同氏の幼少からの天才性を称揚するとともに、核を保有するに至ったのも、同氏が海外留学のおりに米国及び帝国主義列強が起こした戦争を目の当たりにし、「核を持った者には核で対抗しなければならない」と決意を固めたためとしている。他に、軍、党と保安処、保安機関など国内で強大な権限を持っている部門の幹部を対象に、大々的な不正調査を主導しているとの情報も伝えられている。
「革命偉業を代を継いで完成」するという朝鮮民主主義人民共和国ではあるが、憲法上も労働党規約でも「世襲」の規定は存在しない。これらの動きは、経済政策で「軽工業の拍車と人民生活の向上」を掲げて、目に見える成果を示すとともに、幹部の規律を引き締めて後継体制を安定させ、その正統性を裏付けるための布石と解釈されている。

(金谷俊秀  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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