日本大百科全書(ニッポニカ) 「銀行同盟」の意味・わかりやすい解説
銀行同盟
ぎんこうどうめい
Banking Union
ヨーロッパ連合(EU)における金融危機の深刻化に対処するために設立された機構。ヨーロッパの銀行に対する監督規制体制の強化や破綻(はたん)処理の明確化を通じて、危機の克服と予防を目ざす。銀行同盟は、ESM(ヨーロッパ安定メカニズム)と並ぶ、銀行危機解決の切り札とされ、2012年12月のヨーロッパ理事会(欧州理事会)で創設が合意された。
[星野 郁 2018年11月19日]
設立の経緯
2011年末、金融・経済危機ならびにソブリン危機の深刻化に伴い、ヨーロッパの銀行システムは流動性危機により破綻の瀬戸際にたたされることになった。ヨーロッパ中央銀行(ECB)の大規模な金融支援によりかろうじて破綻は回避されたものの、2012年春には不動産バブルの崩壊によるスペインの銀行危機がもちあがり、同時にソブリン危機の悪化を伴った。銀行の救済には、大規模な公的資金の投入が必要とされたが、財政収支を悪化させてソブリン危機をより深刻にしかねないうえ、自国国債を大量に保有している銀行は、ソブリン危機の深刻化に伴い、国債価格の下落によるバランスシートの毀損(きそん)を通じて打撃を受けるという悪循環が生ずる状況となった。アイルランドやその他のユーロ圏諸国でも同様の事態が発生し、金融システムの緊密な相互依存により、ある国の危機が容易に他の国々に伝播(でんぱ)することが明白となった。
銀行同盟は、EUレベルで一元的な銀行監督・規制、破綻処理制度を構築することによってこの悪循環を断ち切り、EUの金融システム全体の安定化を図ろうとするものであった。希望すれば非ユーロ圏諸国の参加も認められている。
[星野 郁 2018年11月19日]
銀行同盟の三つの柱
銀行同盟は、SSM(Single Supervisory Mechanism、単一監督メカニズム)、SRM(Single Resolution Mechanism、単一破綻処理メカニズム)、EDIS(European Deposit Insurance Scheme、ヨーロッパ預金保険スキーム)の三つの柱からなる。
(1)銀行監督・規制をつかさどるSSMは、当初は6000にも上るEUの銀行すべてを対象とすべきとされたが、最終的には大手約130行の監督・規制にとどめられた。
(2)破綻処理を扱うSRMに関しては、各国の拠出により総額550億ユーロの破綻処理基金が積み立てられ、SRB(Single Resolution Board、単一破綻処理委員会)がECBの勧告に基づいて処理の決定を行うものの、同基金の利用は最後の手段とされている。BRRD(Bank Recovery and Resolution Directive、銀行再生・破綻処理指令。2016年1月より施行)により、破綻の際にはまず銀行の経営者、株主、大口債権者に負担を負わせるベイルインBail-in原則が導入された。もっとも、2017年に顕在化したイタリアの銀行危機に際しては、イタリア政府によって大規模な公的資金の注入による大手銀行の救済が行われた。
(3)銀行が破綻した際に顧客の預金をEUレベルで10万ユーロまで保証するスキームであるEDISに関しては、他国の銀行破綻の負担を嫌ったドイツの反対により、実現のめどは立っていない。しかしEUは、EDISの創設により銀行同盟の完成を目ざすと同時に、新たに資本市場同盟を加えて、金融同盟Financial Unionを構築する試みを進めている。
[星野 郁 2018年11月19日]