デジタル大辞泉 「施行」の意味・読み・例文・類語
し‐こう〔‐カウ〕【施行】
1 実際に行うこと。政策・計画などを実行すること。実施。せぎょう。しぎょう。「命令を
2 法令の効力を発生させること。せこう。「新税法を
[類語]実施・行う・実行・実践・行動・
「施行」は呉音読みのほかに、漢音読みの「しこう」、呉漢混読の「せこう」、漢呉混読の「しぎょう」も用いられる。現代では「しこう」が普通であるが、法律などが制定されたのち、その効力を現実に発生させる意の法律用語では「せこう」が慣用される。
幕府等の命令を実行する意での「施行」については、「しぎょう」とよむべきである、また「しぎょう」「せぎょう」のどちらでもよい、という二説がある。
法律用語としては「せこう(施行)」と読む慣用もある。
仏教の布施(ふせ)の行の一つ。施主が帰依(きえ)する僧に施物をささげること,あるいは富者や強者が貧者や弱者を救わんとする慈悲の行為として,貴族や武家や豪商農や寺院などが貧しい漂泊の僧侶や生活困窮者に対していろいろの施物を施すことをいい,ともに施主はその功徳(くどく)によって仏果を得んとしたものである。上記いずれの施行も,仏教伝来以来,しだいに社会に定着した。
古代国家仏教の時代,仏教の民間への布教は,官寺に止住した官僧ではなく,私度僧(しどそう)や山林修行者や沙弥(しやみ)と呼ばれた民間仏教者によって行われたが,彼らの生存と活躍を支えたのも帰依者からの施行の供物だった。官寺でなく,宗祖の草庵から出発した浄土宗,真宗,日蓮宗,時宗など鎌倉新仏教各宗の教団組織への発展を支えたものも,基本的には,幾世紀にもわたって信者たちが寺や僧へささげた施行としての施物や志納銭(しのうせん)の蓄積だったといえる。慈悲としての施行も平安時代以降盛行し,とくに中央の官寺系大寺や名社,地方の一宮や名刹などの門前,京・鎌倉・奈良の市中,また京都では鴨川の河原などでよく行われた。施行の名目は,寺社の落慶,貴人の生誕や死亡,彼岸会(ひがんえ)や盂蘭盆会(うらぼんえ)や祭礼などの宗教行事,所願の結願(けちがん),飢饉や災害のときなどいろいろであり,また施主も公家,武家,富豪など,ときに応じてさまざまだった。施行の日には病者や乞食や貧窮者や貧僧などが群集して,米,雑穀,餅,粥,銭など種々の施物をうけた。中世の施行の盛行の様子は文芸の題材にもなり,たとえば謡曲《弱法師(よろぼし)》は,河内の豪族左衛門尉通俊が施主となって四天王寺門前で7日間の大施行を行い,施物を受ける乞食の群れのなかにわが子の弱法師(俊徳丸)を見いだしたという,施行の功徳を描いて有名である。
執筆者:藤井 学 また,近世に施行と呼び習わされた事例は物乞い,勧進聖などに飯米や金銭などを与えるといった個別的・日常的行為から,災害時の施行粥,施行米,施行銭など,幕府,領主,富農商らによって行われる公的・組織的救済に至るまで広範囲な社会事象のなかに見いだされる。施行の理念は,施しの功徳によって成仏を願うという仏教思想によるが,これが社会慣行や制度として定着したのは,特定の階級によるイデオロギー支配の結果というより,むしろ,人間社会に普遍的な互恵性の論理に基づくと考えられる。たとえば,近世の三大飢饉の一つである享保の飢饉に際しては,被災地の西日本の幕領だけでも3万7000人以上の人々が施行したと記録されている。とくに無産の貧民が集中する都市では,富裕な町人は多額の施行を行った。なかには,1人で2000両以上もの施行をした大坂の米仲買商もいた。しかし,このような例は,施行を通して感得される施す者と施される者との身分的・社会的格差を超えた合一性はもはや失われ,施す者と施される者との施行に対する意識が分離し始めていたことを示している。つまり為政者や富者は,災害時の施行をもっぱら窮民の暴民化を防ぐ手段と考えたのである。近世中後期の災害時,とりわけ天明・天保の飢饉時には施行はますます一般化し,また同時に施す者と施される者との乖離(かいり)も深まった。このような施行の零落を押しとどめようとしたのは,施行を稀有な自己解放と記憶する施される側の者であった。災害時に行われるべき救済が遅延したり,行われなかったりした場合に,施行を求める一揆や打毀が民衆の間に自然発生的に湧き起こる倫理的基盤がここにある。道中の施行を期待して抜参りした善男善女が示すお蔭参りにおける狂乱には,施される者が施行に求めたものは単なる経済的救済だけではなかったことが端的に示されていよう。
執筆者:北原 糸子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
法令の効力を現に発動させることをいう。法律については、公布の日から起算して20日を経過した日を施行期日とするのが原則であるが(法の適用に関する通則法2条本文)、これと異なる期日を各法律の本則または附則で定めるのが一般的である(同法2条但書)。公布の日を施行期日とすること(即日施行)もあるが、法律を国民に周知する必要から、公布とは異なる日を指定することが多い。命令および裁判所規則等には施行期日に関する一般規定がなく、必ずその命令等のなかで施行期日を定めなければならない。「せこう」ともいう。
[髙木敬一]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…給食の語自体は第2次大戦後一般的に使われるようになったものだが,実質的には古くから存在したはずである。飢饉のさいの施行(せぎよう)や災害時の炊出しもその一形態であろうし,平時のものでは平安期から宮中の大饗(たいきよう)などのさい下級職員たちに給付された屯食(とんじき)なども,給食の一種と考えることができよう。いずれにせよ,切り詰められた時間や予算内での大量調理によるものだけに,料理内容は低下しがちである。…
…後者のうちで最も多数を占めたのは,おそらくは〈非人〉と称された人々であったと推察される。その内実は種々雑多であって,大寺社に人身的に隷属して〈キヨメ〉(清めの意で,寺社域・道路の汚穢(おわい)を清めたり,葬送行事にかかわる下役を勤めたりする)の雑役に駆使されたり,雑芸で口を糊したりしたものから,物乞いでかろうじて生きた〈乞食〉の集団をなしたものまでをも指しており,これには〈癩者〉(ハンセン病患者)をはじめとする貧窮孤独の病人や身体障害者も含まれ,仏教思想による〈慈善救済〉,具体的には,いわゆる〈施行(せぎよう)〉(施し)の対象となっていたものである。彼ら〈非人〉の多くは,京都(京)の清水坂(きよみずざか)や奈良(南京・南都)の奈良坂など都市の周縁部に位置する交通の要衝や,荘園内に設定された〈散所(さんじよ)〉という地域を根拠地として,〈非人長吏(ちようり)〉や〈散所長者〉による統率・管理のもとで集落生活を営んでいた。…
※「施行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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