せ‐ぎょう ‥ギャウ【施行】
〘名〙 (「せ」は「施」の、「ぎょう」は「行」の
呉音)
① 仏語。
布施(ふせ)の行。ほどこし行なうこと。
僧侶や
乞食などに物をほどこし与えること。
※霊異記(810‐824)下「聟の椽、自ら布施を捧げて、
衆僧に献ず。是
(ここ)に
海中捨てられし僧、手を申
(のば)して施行を受く」
※仮名草子・尤双紙(1632)下「ひく物のしなじな〈略〉仏のまへには、施行(セギャウ)を引」
※源平
盛衰記(14C前)一三「国々の
源氏等に施行
(セギャウ)せらる。其の状に云く」
[
補注]「施行」は呉音読みのほかに、
漢音読みの「しこう」、呉漢混読の「せこう」、漢呉混読の「しぎょう」も用いられる。現代では「しこう」が普通であるが、
法律などが制定されたのち、その
効力を
現実に発生させる意の法律用語では「せこう」が
慣用される。
し‐ぎょう ‥ギャウ【施行】
〘名〙 (「し」は「施」の漢音、「ぎょう」は「行」の呉音)
①
実行すること。
命令を
実施すること。命令を伝達すること。命令を伝達して実行させること。せぎょう。しこう。
※続日本紀‐神亀五年(728)二月丙子「苅二夷姧党一。除二滅賊悪一。冝二国司莫一レ令レ有レ衆。仍以二二月十二日一依レ常施行」
※
樵談治要(1480)「
法令のさだむるところ理に当りておこなはるる事を施行せざるを
違勅の人といひて一段の罪科あるなり」
[補注]
幕府等の命令を実行する意での「施行」については、「しぎょう」とよむべきである、また「しぎょう」「せぎょう」のどちらでもよい、という二説がある。
し‐こう ‥カウ【施行】
〘名〙 (「し」は「施」の、「こう」は「行」の漢音)
① ほどこし行なうこと。
政策などを実行すること。せぎょう。しぎょう。
※
太平記(14C後)二五「今年大嘗会を可被行とて、
武家へ院宣を被成下。武家是を施行
(シカウ)して、国々へ大嘗会米を宛課
(あておお)せて」 〔
史記‐張釈之伝〕
※西洋事情(1866‐70)〈
福沢諭吉〉初「
合衆国の法律を施行し
叛賊を圧伏し敵国の侵襲を防ぐため郷兵を募ること」
[補注]法律用語としては「せこう(施行)」と読む慣用もある。
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デジタル大辞泉
「施行」の意味・読み・例文・類語
せ‐ぎょう〔‐ギヤウ〕【施行】
[名](スル)
1 僧侶や貧しい人に物を施し与えること。布施の行。「寒施行」「施行米」
2 命令を伝達して実行させること。また、その命令書。しぎょう。
「国々の源氏等に―せらる」〈盛衰記・一三〉
3 ⇒しこう(施行)1
せ‐こう〔‐カウ〕【施行】
[名](スル)「しこう(施行)2」に同じ。「新条例が施行される」
[補説]法律関係では、「執行」と区別して「せこう」と読む慣用がある。
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施行
しこう
法令の効力を現に発動させることをいう。法律については、公布の日から起算して20日を経過した日を施行期日とするのが原則であるが(法の適用に関する通則法2条本文)、これと異なる期日を各法律の本則または附則で定めるのが一般的である(同法2条但書)。公布の日を施行期日とすること(即日施行)もあるが、法律を国民に周知する必要から、公布とは異なる日を指定することが多い。命令および裁判所規則等には施行期日に関する一般規定がなく、必ずその命令等のなかで施行期日を定めなければならない。「せこう」ともいう。
[髙木敬一]
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普及版 字通
「施行」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
せぎょう【施行】
仏教の布施(ふせ)の行の一つ。施主が帰依(きえ)する僧に施物をささげること,あるいは富者や強者が貧者や弱者を救わんとする慈悲の行為として,貴族や武家や豪商農や寺院などが貧しい漂泊の僧侶や生活困窮者に対していろいろの施物を施すことをいい,ともに施主はその功徳(くどく)によって仏果を得んとしたものである。上記いずれの施行も,仏教伝来以来,しだいに社会に定着した。 古代国家仏教の時代,仏教の民間への布教は,官寺に止住した官僧ではなく,私度僧(しどそう)や山林修行者や沙弥(しやみ)と呼ばれた民間仏教者によって行われたが,彼らの生存と活躍を支えたのも帰依者からの施行の供物だった。
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施行【しこう】
法令の効力を現実に生じさせること。法律は公布の日から満20日を経て施行されるのが原則であるが,近時の法令ではその法令自体で施行期日を定め,また公布と同時に施行する場合も多い。
→関連項目法律
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施行
しこう
法令が現実に効力を発し,実施される状態にすること。法律は公布の日より起算して満 20日を経て施行されるのが原則であるが (法例1条1項) ,最近の法令ではその法令自体のなかで施行時期を定めることが多く,公布の日から施行される場合も少くない。
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世界大百科事典内の施行の言及
【給食】より
…給食の語自体は第2次大戦後一般的に使われるようになったものだが,実質的には古くから存在したはずである。飢饉のさいの施行(せぎよう)や災害時の炊出しもその一形態であろうし,平時のものでは平安期から宮中の大饗(たいきよう)などのさい下級職員たちに給付された屯食(とんじき)なども,給食の一種と考えることができよう。いずれにせよ,切り詰められた時間や予算内での大量調理によるものだけに,料理内容は低下しがちである。…
【被差別部落】より
…後者のうちで最も多数を占めたのは,おそらくは〈非人〉と称された人々であったと推察される。その内実は種々雑多であって,大寺社に人身的に隷属して〈キヨメ〉(清めの意で,寺社域・道路の汚穢(おわい)を清めたり,葬送行事にかかわる下役を勤めたりする)の雑役に駆使されたり,雑芸で口を糊したりしたものから,物乞いでかろうじて生きた〈乞食〉の集団をなしたものまでをも指しており,これには〈癩者〉(ハンセン病患者)をはじめとする貧窮孤独の病人や身体障害者も含まれ,仏教思想による〈慈善救済〉,具体的には,いわゆる〈施行(せぎよう)〉(施し)の対象となっていたものである。彼ら〈非人〉の多くは,京都(京)の清水坂(きよみずざか)や奈良(南京・南都)の奈良坂など都市の周縁部に位置する交通の要衝や,荘園内に設定された〈散所(さんじよ)〉という地域を根拠地として,〈非人長吏(ちようり)〉や〈散所長者〉による統率・管理のもとで集落生活を営んでいた。…
※「施行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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