中国上代の思想家。またはその著書の名。人物としての関尹子の名は、『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』や『荘子(そうし)』に静寂を尚(たっと)んだ人物としてみえるが、その経歴は明らかでない。ただ『史記』「老子伝」によると、関令(かんれい)尹喜(いんき)(関所役人の尹喜)なる人物がおり、老子は、彼の要請によりその書を著して授けたという。そして、この関令尹喜がすなわち関尹子であるとされることから、関尹子とは老子の一番弟子であり、『老子』を伝授された人物として伝えられるようになった。
書物としての『関尹子』は、その名に仮託して後世につくられたもの。1世紀につくられた書籍目録である『漢書(かんじょ)』「芸文志(げいもんし)」にその名のみえることから、前漢代にあったことは確かであるが、現行本『関尹子』1巻は、仏教、道教の思想を含むものであって、唐末五代(10世紀)以後の偽作であるといわれる。なお道教では関令尹喜のことを文始真人(ぶんししんじん)とよぶことから、本書は『文始真経』とも称する。
[楠山春樹 2015年12月14日]
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