道家(読み)どうか

精選版 日本国語大辞典 「道家」の意味・読み・例文・類語

どう‐か ダウ‥【道家】

〘名〙
中国戦国時代に興った諸子百家の一つ。老子、列子、荘子など、無為自然信条とする一派の称。宇宙間に存する理法を道と名づけ、人もそれにならって無為自然を旨とすることにより、結果としての大成を期待できるとし、あるいは心の安らぎを得るとする。儒家とともに後世まで伝えられて、中国・日本の思想文学芸術その他あらゆる分野に大きな影響を与えた。
日蓮遺文開目抄(1272)「漢土に仏法いまだわたらざっし時の儒家・道家は」 〔史記‐陳丞相世家〕
広義宗教としての道教をも含めていう。
③ 道家・道教を奉ずる人。

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デジタル大辞泉 「道家」の意味・読み・例文・類語

どう‐か〔ダウ‐〕【道家】

中国、諸子百家の一。老子荘子の説を奉じた学者総称万物生成原理である道の思想を基礎に、無為自然による処世を説いた。
道教を奉ずる人。道士

どう‐け〔ダウ‐〕【道家】

どうか(道家)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「道家」の意味・わかりやすい解説

道家
どうか

中国古代におこった思想的学派の名称。諸子百家の一派。戦国時代(前5~前3世紀)に成長したあと、儒家と対立して二大思潮を形成した。老子(ろうし)から関尹子(かんいんし)、列子(れっし)と伝えられ、荘子(そうし)が集大成したとされ、それぞれの名のついた書物が伝わっているが、事実はそうした学派的な師承があったかどうか、むしろ疑わしい。散発的に前後しておこった諸思想を、その傾向の類似性に注目して、あとからひとまとめにして名づけた名称とみるべきで、『史記』にみえるのが最初である。

 その思想の第一の特色は特殊な「道(どう)」の思想の強調であって、学派の名称の由来もそこにある。その「道」とは、現象を支える根源的な形而上(けいじじょう)的性格を帯びた絶対的実在、ないし理法というべきもので、儒家の思想などでは強調されなかった自然界と人間界とを貫く根源である。それは万物を生み出し、万物の多様な姿を貫いて、それをそうあらしめているが、その作用は自(おの)ずからなもの(無為自然)で、微妙で計りがたい。人間の感覚ではとらえられないところから「無」といい、唯一の根源であるところから「一」ともいわれる。ただ道家の主眼は、こうした「道」の思想を基礎にして、現実の実践的な課題を解くことにあった。それは、差別観や対立抗争が激しく、変動してやまない現実のなかで、それをいかに成功的に生き抜くか、またそれに乱されない安らかさを得るか、という処世的な人生問題である。ここで、人は「道」のあり方を模範とすることになる。ことさらな人間的なしわざを捨てて無為自然になり、絶対の「道」に拠(よ)り従って、へりくだった柔弱な態度で世に処していくのがよい、とされる。現実の差別の姿は、「道」の立場からみれば一時的、相対的なもので頼むに足りず、そこがわかればいっさいの執着から解放された安らかな境地が得られる、ともいう。

 儒家が現実世界の秩序を重んじ、礼楽的な調和的社会の建設を理想としたのに対し、道家ではそれを人為的なものとして否定し、人間と自然とを貫く統一的な理法性に注目して、その自ずからな秩序に従うことを目ざした。したがって儒家に比べてより観念的で、個人的、精神主義的な色彩も強い。漢代以後、儒家思想が政治的、公的な面をリードするのに対し、道家は私的、内面的な思想生活を支えるものとなり、宗教や芸術とも深くかかわるものとなった。後漢(ごかん)からの道教(どうきょう)は、道家の人々を祖神と仰ぎ、また道家の思想を教義に取り込んだものである。

[金谷 治]

『『津田左右吉全集13 道家の思想と其の展開』(1964・岩波書店)』『『講座東洋思想3 中国思想Ⅱ 道家と道教』(1967・東京大学出版会)』

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普及版 字通 「道家」の読み・字形・画数・意味

【道家】どう(だう)か

老荘・黄老の学。〔漢書、芸文志〕は、蓋し官に出づ。~以て自ら守り、以て自ら持す。此れ人に君たる南面のなり。堯の克(よ)く讓り、易の(けんけん)に合ふ。

字通「道」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「道家」の意味・わかりやすい解説

道家【どうか】

黄帝老子を開祖と仰ぎ,荘子列子らが継承してきたとされる古代中国の学派。諸子百家の一つ。戦国末に興り,漢初以後〈黄老の学〉として発展した。政治・処世の術として無為自然を説き,〈道〉〈無〉による万物の生成・運動・存在を主張した。後漢末には民間宗教と結合して道教を生み,儒教とともに中国宗教思想の二大潮流を形成することになる。老荘思想として,仏教の受容にあずかり,文学・芸術に浸透し,朱子学や陽明学にも影響を与えた。
→関連項目淮南子

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「道家」の解説

道家(どうか)

諸子百家の一つ。老子を祖とし,その無為自然の説を祖述発展させた列子(れっし),荘子(そうし),関尹子(かんいんし)らのいわゆる37家の流れを汲むものの学をいう。多くは中国固有の民族思想に根ざしており,天性に従い,自然を尊び無為にして外物に侵されぬことを主とすれば,天下はおのずから治まると説いた。法家の思想もこれによる。漢初には黄老(こうろう)の学といい,さらに神仙説,陰陽五行説と合して漢末以後に諸種の迷信が派生し,それらが統合されて道教が生まれた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「道家」の意味・わかりやすい解説

道家
どうか
Dao-jia; Taoist

老子,荘子を代表とする諸子百家の一つ。『漢書』芸文志には道家者流 37家を載せる。儒家や墨家における人為性を排し,宇宙の根源的存在としての「道」にのっとった無為自然の清浄な行いを重視する思想。老子は,これを小国寡民的原始社会への復帰という形で,一種の政治的提言として主張したが,荘子においては,それは現実の相対世界を超越した絶対自由の境地として,きわめて個人主義的かつ逃避的な性格をもつものとなっている。漢の初期には,秦の苛政の反動からこの思想は一時非常に尊ばれた。のち,道家思想は神仙の術と結びついて道教を成立させ,また六朝以後は,知識人の観念的逃避の理論 (慰めの哲学) としても強い影響力をもった。

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世界大百科事典 第2版 「道家」の意味・わかりやすい解説

どうか【道家 Dào jiā】

旧中国の学問分類における一派。戦国末から漢代に《黄帝経(こうていけい)》と《老子》をともに重んずる黄老(こうろう)思想が盛行し,ここに道家的諸傾向を〈道家〉として概括する学問的整理が生まれた(漢初)。世界の根源的実体たる道を立てるので道家と呼ぶ。この呼称は,司馬談(司馬遷の父)が用い(前2世紀半ば。《史記》太史公自序の六家要指(りくかようしゆ)),《漢書》芸文志(前漢末の劉歆(りゆうきん)の《七略》に基づく)によって公認された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「道家」の解説

道家
どうか

人為を排して無為自然を説いた諸子百家 (しよしひやつか) の1つ
人為とはおもに儒家の説く仁・礼をさし,人為の外にある天の道(天命)に帰せと説く徹底した宿命論であり,社会改革をすてた保身の思想でもある。老子を祖とし,荘子・列子らがこれに属する。

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世界大百科事典内の道家の言及

【鏡】より

…范祖禹の《唐鑑》,司馬光の《資治通鑑》などがその代表であり,日本の《大鏡》《水鏡》以下の〈かがみもの〉の歴史書もそうした中国の観念をうけた命名である。 鏡に象徴的な意味,あるいは神秘的な意味を見ようとするのは,諸子百家の中でもとくに道家系の人々であった。鏡の外物をあるがままに映す能力に,みずからを白紙の状態において,来る者は拒まず去る者は追わない,道家的な真人の無為のあり方の象徴を見ようとするのである。…

【春秋戦国時代】より

…この道を根本とする考えをさらに発展させ,大小,善悪,賢愚,生死などすべての差別は,同じ道のあらわれ方のちがいにすぎず,差別にとらわれずに自由に生活を楽しむべきであると説いたのが荘子である。老子や荘子の考えは,道を根本として構成されるので,道家とよぶ。このほか論理学を説く名家,陰陽論を説く陰陽家,上述の蘇秦・張儀のごとく外交術を説く縦横家,農業技術や農民思想を説く農家など多くの流派の思想家が活躍し,互いに影響しあい,中国史上最も自由に思想が説かれた時代であり,これらを諸子百家と総称するが,後世に大きな影響を与えたのは儒家と道家であり,法家は思想として表面にあらわれなかったが,儒家の徳をたてまえとする政治を支える技術としてつねに利用された。…

【中国】より


[儒教の政治思想]
 儒教の大きな特色はその政治主義である。それは儒教と並ぶ思潮である道家(老荘)の主張ときわめて明白な対照をなす。道家においては,国家天下を治めることは,人間最高の課題,道のエッセンスをもってすべき事業,ではない。…

※「道家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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