ゼログラフィーxerography,エレクトロフォトグラフィー,あるいは静電写真ともいう。電子的,かつ静電気現象を利用した乾式の写真方法の総称。絶縁性光導電体層(暗所では高い電気絶縁性,明所では導電性を示す材料)に静電荷を与え,これに光像を照射,光像に対応して静電荷を放電させて静電荷潜像(目に見えない静電荷のパターン)を作り,これに静電荷をもった着色微粉末を静電気力を利用して付着させ現像し可視像を作る。静電潜像を作る方法には光照射によって絶縁性光導電体層上に作像する光学的方式のほかに,絶縁体層上に直接電子的に作像する非光学的方式があるが,一般には光学的方式によるものを単に電子写真と呼ぶ場合が多い。また現像後最終記録担体に画像を得る方法として,現像された着色微粉末を絶縁性光導電体層上に直接定着する直接方式(CPC。coated paper copyの略)と,他の記録担体(例えば普通紙など)に転写,定着する間接方式(PPC。plain paper copyの略)の2方式がある。
弁理士をしていたアメリカのカールソンChester F.Carlson(1906-68)は,転記作業を機械により効率よくできないものかと考えて研究に取り組み,1938年,亜鉛板上に溶融塗布した硫黄層に摩擦帯電で静電荷を与え,これをリュポジューム粉(検電粉の一種)で現像して写真像を得ることに成功,今日の電子写真の基本原理を発明して特許(1940)を得た。その後,この方式はアメリカのゼロックス社によって,硫黄の代りに非晶質セレンを,摩擦帯電の代りにコロナ放電を使用するなど,工程の改善が行われ,50年にゼロックスXEROXの名で商品化された。これは間接方式で普通紙へのコピーが可能である。他方,酸化亜鉛を非晶質セレンの代りに使用するRCA方式(商品名エレクトロファックスElectrofax)が54年アメリカのRCA社で開発され,61年ころより実用化された。これは酸化亜鉛微粉末を樹脂結合剤中に分散,塗布した紙(絶縁性光導電体層)の上に,直接着色微粉末が定着される直接方式である。
一般的な電子写真の工程は,絶縁性光導電体層上に静電荷を与える帯電,光像を照射する露光,できた静電潜像を着色微粉末で顕像化する現像,これを紙などに転写する転写,定着および絶縁性光導電体層表面の残留微粉末を除去する清掃の各工程からなる(図)。帯電工程ではコロナ放電法が広く用いられており,60~90μm程度の金属細線(例えばタングステン線)に4000~7000Vの高電圧を印加して放電させ,生成したイオンを絶縁性光導電体層に付与する。絶縁性光導電体材料としては,当初は非晶質セレンあるいは酸化亜鉛などが使用されていたが,高速化(高感度化)の要請によって,テルルなどの金属元素を含有する非晶質セレン合金,硫化カドミウム,光導電性を示す有機化合物材料,非晶質シリコンなどが使用されるようになってきている。これらはいずれも暗所では1012~1015Ω・cm以上の電気抵抗を有し,明所では2~3桁以上その電気抵抗が低下するので,この性質を利用して静電潜像が作られる。露光は二次元光像をレンズを通して投影する方法がもっともふつうであるが,レーザー光などを一次元走査することによって光像を書き込む方法(レーザー・ゼログラフィー),光の代りにX線像を照射する方法(X線電子写真)なども開発されている。他方,非光学的方式では,帯電・露光工程を踏まずに,多針電極,または変調されたイオン流により直接絶縁体層の上に静電潜像が形成される。
静電潜像は着色微粉末によって現像されるが,現像方法には,2成分現像方式,1成分現像方式,液体現像方式(絶縁性液体中に超微粉末を分散させたもの)などがある。2成分現像方式では,着色微粉末(トナーtoner。着色剤としておもにカーボンブラックが添加された直径8~15μmの樹脂粉末)と,これに摩擦帯電により所望の静電荷を与えるキャリアcarrier(表面を樹脂などで被覆された直径20~500μmの金属球または磁性体球)を混合した現像剤が静電潜像に接触し,トナーのみが付着する(カスケード現像法,磁気ブラシ現像法などがある)。1成分現像方式ではキャリアを用いずに,摩擦帯電,電荷誘導,コロナ放電法などによりトナーに電荷を与え現像する(1成分磁気ブラシ法,オープンチャンバー法などがある)。
現像されたトナーは,普通紙の背面からコロナ放電を適用することにより紙に転写されるが,特別な手段を用いれば紙以外の材料にも転写が可能である。転写されたトナーは,熱,圧力,有機溶剤蒸気などにより固定着される。
電子的かつ乾式プロセスである電子写真の特徴として,処理速度が速い,特殊薬品を使用しないため汚染がない,得られる画像が鮮明,耐久性に富み,普通紙のほか種々の記録体に画像を形成でき,さらにトナーのくふうによっては鮮明なカラー画像も得られるなどがあげられる。
これらの特徴および種々の変形方式が可能であることから,電子写真の応用は広範囲にわたる。主たる応用範囲として,文書複写および製版,X線電子写真,電子計算機などの出力記録装置の三つの方向が有望であり,さまざまなものが実用化されてきている。文書などの複写を行う複写機は現在もっとも広く利用されており,とくに高速複写機は1分間に120枚の複写が可能なものが出現し,社内印刷分野の一部として利用されている。中間調の再現は従来の銀塩写真に比べて十分ではないが,現像方法などの改良によりかなり改善されてきている。なお,カラー複写機も商品化されている。この分野での拡大応用例として,図面などの大型複写機,マイクロフィルムなどから拡大複製する機械や,オフセット印刷用マスターの作製装置なども実用化されている。また,酸化亜鉛を母体とした微粉末を鋼板上に散布し,帯電,露光を行い,静電付着力の差を利用して不要微粉末をエアジェットなどで除去し,鋼板上にマークする罫書法が,造船などの大型鋼板の型どりに利用されている。X線電子写真(ラジオゼログラフィー)は,従来銀塩写真を利用していたX線による写真を電子写真によって行うもので,1945年ころより研究されてきた。乳癌の検出のための胸部撮影用,歯科用,骨折などの外科用など医療用X線電子写真,金属材料の探傷など非破壊検査など工業用X線電子写真などがあるが,一般に銀塩写真に比べ低感度で,特殊用途に限定されているのが現状である。レーザー光の走査により静電潜像を形成するレーザーゼログラフィーは,普通紙ファクシミリ,電子計算機などの高速記録装置へも応用されており,さらにビジネスコンピューター,ワードプロセッサーなどの出力記録装置として中・低速プリンターの実用化も進んでいる。また画像を電子的に読み取り,レーザー・ゼログラフィック・プリンターと結合させたインテリジェント・コピヤーの実用化が進んでいる。これは電子的に画像の拡大・縮小,合成,編集などができるものである。これらの結合は,社内印刷などの編集を電子化し,レーザー・プリンターで大量に印刷するシステムの実用化を促進させつつある。このように,ディジタル技術,通信技術などとの複合化によってOA化が進展する中で,電子写真技術はそれらの出力記録装置として,単なる複写機技術から大きく脱皮しつつある。
執筆者:牧野 克夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電子写真は光導電現象と静電気を利用した画像形成法である。エレクトロフォトグラフィー、ゼログラフィーxerographyあるいは電子写真法の発明者の名前をつけてカールソン法ともよぶ。複写機(コピー機)およびコンピュータ出力端末としてのページプリンターや普通紙ファクシミリ、さらに必要なときに必要な部数を印刷するオンデマンド印刷用電子写真印刷機などに広く利用されている。
[北村孝司]
1938年にアメリカのカールソンChester Floyd Carlson(1906―1968)が光導電現象と静電気を用いた電子写真法を発明した。1950年に手動の電子写真複写機が実用化され、1959年に初めて自動の事務用電子写真複写機が発売された。
電子写真の画像形成プロセスは、コロナ帯電、画像露光、トナー現像、転写、定着およびクリーニングの各ステップから構成されている。
(1)コロナ帯電 コロナ帯電器により感光体表面に均一に電荷を与える。
(2)画像露光 原稿を蛍光灯などの光で照明し、その反射光を感光体に照射する。原稿からの反射光が感光体に照射されると光導電現象により電荷が生成し感光体内を移動して表面の帯電電荷が消失する。このようにして、原稿の白い部分つまり画像部以外のところは帯電がなくなり、画像部のみが帯電している電荷像ができる。
(3)トナー現像 トナーとよぶ着色された微粒子が感光体上の電荷像に接近するとクーロン引力(静電引力)によりトナーが引き寄せられ感光体表面に付着する。感光体表面の電荷が存在するところだけにトナーが付着し、目で見ることができるようになる。
(4)転写 感光体上にできたトナー像を普通紙に移動させる。普通紙をトナー像の上に重ね、紙の裏面からコロナ帯電を行うとトナーは紙表面に転写される。
(5)定着 感光体表面から引き離された紙は定着ローラにて加熱される。定着ローラは高温に加熱されており、トナーに含まれる樹脂が溶融して紙上に固定される。
(6)クリーニング 感光体の表面に残ったトナーが取り除かれる。
各工程が感光体ドラムの円周上に配置されており、感光体ドラムが1回転することにより、あるいは直径の小さな感光体ドラムの場合では数回転することにより1枚のコピーができあがる。なお、トナーには一般には粉体トナーが使用されるが、液体トナーを用いる機器もある。
[北村孝司]
電子写真は複写機のほかにコンピュータで作成した文書や画像のハードコピーをつくる電子写真プリンターに使用されている。プリンターではコンピュータからの電気信号により半導体レーザーあるいは発光ダイオードの光を変化させ、その光を感光体に照射する。その後、トナー現像および紙への転写が行われハードコピーを得ることができる。
[北村孝司]
コピーは単色が主であるがフルカラー化も行われている。カラー電子写真はカラー印刷と同様に、画像を赤(レッド)、緑(グリーン)、青(ブルー)の三原色に色分解したのち画像処理および信号変換を行い、赤色潜像をシアン、緑色潜像をマゼンタ、青色潜像をイエローのトナーで可視画像化する。さらに3色のトナーにブラックのトナーを加えて4色のトナー像を重ね合わせてフルカラーコピーをつくる。
[北村孝司]
電子写真は画像品質が高く、出力スピードが早いという特徴を有する。画像の精細度は解像度で示され、慣用的であるが1インチ当りに形成するドット数(単位はdpi=dot per inch)で表す。現在の電子写真プリンターでは、600dpiが標準的であり、ドット1個の大きさは目で確認できないほど小さい。また、文字や画像のエッジはスムージング処理により解像度が高められ、画像品質の向上が図られている。
[北村孝司]
『電子写真学会編『電子写真技術の基礎と応用』(1986・コロナ社)』▽『電子写真学会編『続電子写真技術の基礎と応用』(1996・コロナ社)』▽『日本写真学会・日本画像学会合同出版委員会編『ファインイメージングとハードコピー』(1999・コロナ社)』▽『高橋恭介・北村孝司監修『ディジタルハードコピー技術と材料――最新の電子写真技術とその材料』(1999・シーエムシー)』▽『面谷信監修『トナーおよびトナー材料の最新技術』(2000・シーエムシー)』▽『日本画像学会編、平倉浩治・川本広行監修『電子写真――プロセスとシミュレーション』(2008・東京電機大学出版局)』
感光材料に与えた光パターンによって電気的潜像をつくり,これを可視化する記録法.感光材料としては,光伝導体(無定形セレン,酸化亜鉛,硫化カドミウム,有機半導体など)を用いる.多くの方式があるが,絶縁性光半導体と静電現象を巧みに組み合わせた静電電子写真のカールソン法が代表的なものである.この方式は,感光材料と像形成材料が異なる粉像転写法(間接法)であって,工程の概略は以下のようである.
(1)暗所中でコロナ放電により感光体表面を一様に帯電させる.
(2)露光によって光照射部の電荷を放電させ,静電潜像を形成させる.
(3)静電潜像上に逆極性に帯電したトナー(着色粉体)を選択的に付着させて可視像化する.
(4)普通紙を感光体に重ね,紙裏面側からトナーと逆極性のコロナ放電を与え,トナー粉体を紙面上に移した後に紙を感光体からはく離する(粉像転写).
(5)転写紙上のトナー像を熱,圧力で固着(定着)させる.
(6)残留するトナーを取り除く.
(7)最後に残留電荷を光やコロナ放電で消去し,次の記録の準備をする.
感光体としては,電極基板上に光伝導性絶縁層を設けたものが用いられ,構造的には単層型,積層型,樹脂分散型がある.この方式は乾式で操作性にすぐれ,3色のトナーを重ね合わせてカラー像を得ることもでき,複写,レーザープリンターなど,広範囲に利用されている.トナー転写を行わず,支持体上に設けられた感光体上に像を直接定着する方式もあり,トナーの疎水性を利用した印刷用の写真製版などに用いられる.このほかにも,持続性内部分極用を用いるPIP(persistent internal polarization)電子写真,持続性伝導性像を用いる電解電子写真,粒子移動電子写真など,多岐にわたる方式がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このような写真においてはレンズを備えたカメラは必ずしも適さず,直接的な記録も行われる。また感光材料については広く一般に使われるハロゲン化銀乳剤を塗布したフィルムのほか,複写に用いるジアゾ感光紙(ジアゾタイプ),電子写真の光伝導性材料あるいは写真製版に用いる感光性樹脂もある。これらの材料を含めて画像形成過程を考えると,現像の過程が種々多様であり,得られる画像の形,色も種々あることがわかる。…
※「電子写真」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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