化学式CdS。黄色結晶。結晶は2形があり,高温形はウルツ鉱型六方晶系,低温形はセン亜鉛鉱型立方晶系である。硫黄蒸気中で700~800℃に加熱すると立方晶が六方晶に変化する。過塩素酸を少量含む過塩素酸カドミウム温水溶液に硫化水素を通ずると立方晶が沈殿する。塩化カドミウム溶液からは不純物を含む六方晶が得られる。六方晶の結晶はa=4.1348Å,c=6.7490Å,Z=2で,Cd-S原子間距離は2.52Åである。比重4.82。不活性気体中で加熱すると約1000℃で昇華を始める。10気圧アルゴン中の融点1475℃。100gの水に対する溶解度1.3×10⁻4g(18℃)で,難溶である。立方晶はa=5.818Å,Z=4。比重4.50で六方晶よりやや小さい。天然には硫カドミウム鉱として産するが,これは六方晶系である。希塩酸には溶けないが,濃塩酸,また熱希硝酸,熱希硫酸には溶ける。硫化亜鉛と混合加熱したものはカドミウムイェローといい,顔料として古くから広く利用され,印刷インキ,ガラス,繊維,紙,ゴム等の着色,陶磁器の釉(うわぐすり),花火等の用途がある。セレン化カドミウムCdSe,硫酸バリウムBaSO4と混合加熱したものはカドミウムレッドといい,これも顔料に利用される。いずれも以前はプラスチック食器の着色にも使われたことがあったが,毒性があるため使用が禁止された。そのほか蛍光体,リン光体,半導体としても使われる。
執筆者:水町 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
カドミウムの硫化物。天然には硫カドミウム鉱として産する。硫酸カドミウム水溶液に硫化水素を通じて沈殿させるか、酸化カドミウムと硫黄(いおう)の混合物を加熱すると得られる。黄色結晶性粉末。沈殿によってつくられた低温型は閃(せん)亜鉛鉱型構造、結合間隔Cd-S 2.52オングストローム、硫黄気流中で700~800℃に灼熱(しゃくねつ)した高温型は六方晶系のウルツ鉱型構造、結合間隔Cd-S 2.52オングストローム。水にほとんど不溶。熱希硝酸、熱硫酸に可溶、アンモニア水に難溶。黄色顔料としてカドミウムエローの名で広く絵の具に用いられる。そのほかガラス、繊維、紙、ゴム、印刷インキなどの着色料として用いられる。
[中原勝儼]
CdS(144.48).天然には,硫カドミウム鉱として産出する.炭酸カドミウムあるいは酸化カドミウムと硫黄との融解反応か,カドミウム塩の水溶液に硫化水素を通すと得られる.融解反応で得られたものは橙色の六方晶系ウルツ鉱型構造.密度4.82 g cm-3.窒素気流中980 ℃ で昇華する.融点1750 ℃(1000 atm).水溶液から沈殿するものは鮮黄色の立方晶系せん亜鉛鉱型構造.密度4.58 g cm-3.沈殿型を硫黄気流中で熱すると六方晶系になる.水にほとんど不溶,希酸,硫化アンモニウム,硫化アルカリに不溶,熱希硝酸,熱硫酸に可溶.黄色の顔料(カドミウム黄),絵の具やペイントの着色成分,蛍光材料,露光計,電子写真感光剤,光触媒などに用いられる.有毒.[CAS 1306-23-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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