翻訳|facsimile
文字,図形,写真などの二次元画像を光電変換系により電気的信号に変換し,これを通信回線を通して遠隔地に送信し,受信側において記録変換系により電気信号から原画像を再生し,永久的に残る形の記録画像として原画像のコピーを得る方式を総称してファクシミリという。ファクシミリの語源はラテン語のfac simileで,英語のmake(it)similar(同形の物を再生する)に対応し,略してファックスfaxともいう。ファクシミリのうち白黒2値画像を取り扱うものを模写電送,または模写電信document facsimile,中間調を含む画像を取り扱うものを写真電送,または写真電信photograph facsimileといっている。ファクシミリは1843年イギリスのベーンAlexander Bainによって発明された。S.F.B.モースの電信機の発明に遅れること5年,A.G.ベルの電話機の発明に先立つこと33年である。日本では1928年に丹羽保次郎,小林正次らにより,外国とは独自のNE式写真電送装置が開発され,昭和天皇御大典の写真が京都から東京まで電送されたのがファクシミリの始まりとなっている。ファクシミリは当初,新聞ニュース写真の電送,警察・国鉄(現JR)などの指令通信,NTTの電報集配信業務,気象図の電送などの特定分野で使用されていた。初期の装置は操作が複雑で価格も高く,また伝送速度が遅く通信料金も高くついたため普及が遅れた。しかし72年に,それまで規制のあった電話網利用のファクシミリが自由に使えるようになり,ファクシミリ技術が急激に進展し利用分野も増え,一般事務用・家庭用として,急速に普及率が高まっている。
ファクシミリ通信方式の原理を基本構成図(図1)で概説する。(1)まず,二次元画像を一次元情報に変換するため,原画像を碁盤の目のような多数の微細な区画(画素という)に分解する。これを送信走査といい,機械的または電子的走査機構が用いられる。代表的な機械的走査である円筒走査方式では,円筒にまきつけられた送信原稿を,円筒の回転と光学台の移動により走査する。電子的走査方式には,電子管による走査,ICイメージセンサーとレンズを用いる走査,密着形イメージセンサーを用いる走査などがある(図2)。ICイメージセンサーは微小光電変換素子を1列に配置したもので,レンズ系により原画像の画素と各素子を1対1に対応させて主走査を行い,一方,送信原稿の移動により副走査を行っている。密着形イメージセンサーによる走査方式は,原稿サイズと同一の大きさを有する光電変換素子を用い,光ファイバーなどの導光系を通して各画素と光電変換素子を1対1に対応させて主走査を行う方式で,レンズ系を必要としないため小型になるという利点を有している。(2)次に光源,光学系,光電変換素子よりなる光電変換系を通して,各画素の濃淡情報を電気的信号(画信号)に変換する。画信号は初期のファクシミリではアナログ信号として表現されていたが,現在は画素あたり1~nビットの白黒または多値ディジタル情報(カラー画像の場合は3nビット)として表現されている。光源としては,白熱電球,管状蛍光灯,発光ダイオードなどが用いられる。光学系にはレンズ,プリズム,ミラー,光ファイバーなどが用いられる。光電変換素子には,光電管-光電子倍増管,フォトダイオード,フォトトランジスターなどがある。(3)画信号はMH・MRまたはMMR方式により冗長度を削減したのち,電話網を経由して通信する場合はモデムによりアナログ信号に変換して伝送し,公衆データ通信網あるいはISDNを通して通信する場合は,DSU(網終端装置)によりディジタル信号の速度を網のクロック速度に合わせてから伝送する。(4)画信号は通信回線を通して伝送され,受信側では変調あるいは符号化と逆の操作である復調あるいは復号化の操作を経て,元の信号が復元される。(5)復元された電気信号は,記録のために別の形のエネルギーに変換され,これにより画像が再生される。2値画像の記録には,熱記録ヘッドの発熱により感熱記録紙を発色させる感熱記録方式,静電荷を記録紙上に与え,これにトナーを含んだ微粉末を付着させて記録画像を得る静電記録方式,霧状にしたインクを記録紙に吹きつけるインクジェット記録方式(インクの種類を増やすことによりカラー記録も可能)などがある。2値記録を用いて中間調画像を復元する方式には,画像の濃淡を大小の点で記録する網点方式,ディザマトリックスを用いマトリックス内の黒画素の数を変化させて濃淡を示すディザ方式などがある。写真の記録には露光量に応じて感光材料が黒化する銀塩記録が用いられる。(6)受信された信号から画素を組み立てて,送信側と同じ二次元画像を再生する操作を受信走査と称し,送信側と同じく機械的または電子的手段が用いられる。静電記録の場合は1列に配列した針状電極を記録電極とし,これに駆動回路を接続して主走査を行い,記録紙の移動により副走査を行っている。感熱記録では,発熱抵抗体を1列に並べた感熱ヘッドに駆動回路を接続し主走査を行っている。(7)受信側で送信画像と同一の画像コピーを得るためには,送信走査と受信走査の速度と位相をあわせる必要がある。このことを同期という。商用交流電源を利用する電源同期,送信側から画信号と同時に同期信号を伝送する伝送同期,および送信,受信の両側に独立の発振器をおき,両発振器の周波数をよくあわせて使用する独立同期の3方式が用いられている。
執筆者:南 敏
ファクシミリはテレックスに比べて,漢字を多用する日本に適した通信手段として,早くからその潜在需要が指摘されながら,新聞社や警察などの特殊用途での利用にとどまり,〈眠れる巨人〉といわれてきた。これは前述のとおり1972年の公衆電気通信法の改正法施行による通信回線の開放(電話回線に送受話器以外の端末機の接続が認められたこと)と,ファクシミリ端末機の性能向上・低廉化によって,急速な普及をみせ,90年代後半には,事業所の約8割がファクシミリを利用し,家庭でのファクシミリ利用率も年々高まった。
→通信
執筆者:上田 弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
文字、図形、写真などを電気信号に変換して遠隔地に電送し、相似な記録を得る通信手段、またはその装置。写真電送、写真電信、模写電送、または略してファックスfaxともいう。
[坪井 了]
ファクシミリそのものの歴史は古く、1843年イギリスのベインAlexander Bain(1810―1877)による発明にさかのぼり、電信に次ぐ古い電気通信手段である。日本では1928年(昭和3)に、丹羽保次郎(にわやすじろう)らによってNE式写真電送装置が開発されている。ファクシミリは当初は、新聞ニュース写真の電送、警察・国鉄などの指令通信、気象図の電送などの特定分野に限られ、一般に普及するには至らなかった。
しかし、1972年(昭和47)の公衆電気通信法の改正、いわゆる回線開放により、電話網を用いたファクシミリ通信が可能となり、一般企業の事務用として急速に普及し始めた。最近では個人商店や一般家庭にまで広範に使用され、1984年には全国の設置台数が70万台を突破した。また、1981年からは、一度に複数の端末に送信できる「同報機能」や、相手が通話中の場合でも自動的に何度か送信を繰り返す「再呼(さいこ)機能」などのサービスが受けられる「ファクシミリ通信網サービス」も開始されている。
[坪井 了]
送信原稿を走査して、電気的な信号に変換しながら画素に分解し、これを電送するとともに、受信側では送信側と同期をとりながら順次組み立て、記録画を得るものである。
走査方法としては、機械的走査方式、電子的走査方式があるが、近年は帯域圧縮技術などの採用による高速走査が可能で、機械的な故障も少ない電子的走査方式が積極的に採用されている。電子的走査は、撮像管などの電子管走査方式と、半導体素子など使用する個体走査方式に大別されるが、近年は個体走査方式が用いられていることが多い。
受信側で復原された電気信号は、記録のために別の形のエネルギーに変換され、その刺激によって記録媒体上に画像が再現される。エネルギー別に記録方式を分類すると、(1)電気エネルギーを利用する静電記録、放電記録、電解記録、通電感熱記録、(2)光エネルギーを利用する電子写真記録、(3)熱エネルギーを利用する感熱記録、熱転写記録、(4)その他のインクジェット記録などがある。
[坪井 了]
国際電信電話諮問委員会(CCITT)ではファクシミリの電送などについて、世界の標準として次のように分類している。
(1)グループⅠ(G1) 電話回線を用い、送出する信号の帯域を圧縮する手段をもたない両側帯波変調を使用してA4判の原稿を約6分で電送する(6分機)。
(2)グループⅡ(G2) 電話回線を用い、符号化または残留側帯波変調などの帯域圧縮技術を使用してA4判の原稿を約3分で電送する(3分機)。
(3)グループⅢ(G3) 電話回線を用い、ファクシミリ信号の冗長性を抑圧する手段を用いてA4判の原稿を約1分で電送する。変調方式として帯域圧縮技術を使用してもよい(1分機)。
(4)グループⅣ(G4) 主として公衆データ網を用いるデジタルファクシミリで、冗長度抑圧符号化機能を有し、エラーフリー通信が可能である。
[坪井 了]
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…固体撮像デバイスでは,平面上に受光部と信号呼出し部からなる多数の画素を規則正しく並べ,受光部で光を電気信号に変換し,それを信号呼出し部で出力端に取り出している。ファクシミリでは,フォトダイオードを用いたMOS形イメージセンサー,光電変換と走査の機能を一体化したCCDセンサーなど固体撮像デバイスが用いられている。 面像信号変換装置は,画像情報を通信路を通して伝送するのにつごうのよい形の信号に変換して送信する装置である。…
…事務機械は,一般的に,文書(ドキュメント)作成,複写印刷,伝達,保管検索の四つの基本機能を単独または複合的に備えている。おもな事務機械には,複写機(コピー機),ページプリンター,ファクシミリ,日本語ワードプロセッサー(ワープロ),電卓,レジスターなどがある。また,パーソナル・コンピューター(パソコン)も,事務機械としてオフィスに導入されることが多い。…
※「ファクシミリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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