日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファクシミリ」の意味・わかりやすい解説
ファクシミリ
ふぁくしみり
facsimile
文字、図形、写真などを電気信号に変換して遠隔地に電送し、相似な記録を得る通信手段、またはその装置。写真電送、写真電信、模写電送、または略してファックスfaxともいう。
[坪井 了]
歴史
ファクシミリそのものの歴史は古く、1843年イギリスのベインAlexander Bain(1810―1877)による発明にさかのぼり、電信に次ぐ古い電気通信手段である。日本では1928年(昭和3)に、丹羽保次郎(にわやすじろう)らによってNE式写真電送装置が開発されている。ファクシミリは当初は、新聞ニュース写真の電送、警察・国鉄などの指令通信、気象図の電送などの特定分野に限られ、一般に普及するには至らなかった。
しかし、1972年(昭和47)の公衆電気通信法の改正、いわゆる回線開放により、電話網を用いたファクシミリ通信が可能となり、一般企業の事務用として急速に普及し始めた。最近では個人商店や一般家庭にまで広範に使用され、1984年には全国の設置台数が70万台を突破した。また、1981年からは、一度に複数の端末に送信できる「同報機能」や、相手が通話中の場合でも自動的に何度か送信を繰り返す「再呼(さいこ)機能」などのサービスが受けられる「ファクシミリ通信網サービス」も開始されている。
[坪井 了]
原理
送信原稿を走査して、電気的な信号に変換しながら画素に分解し、これを電送するとともに、受信側では送信側と同期をとりながら順次組み立て、記録画を得るものである。
走査方法としては、機械的走査方式、電子的走査方式があるが、近年は帯域圧縮技術などの採用による高速走査が可能で、機械的な故障も少ない電子的走査方式が積極的に採用されている。電子的走査は、撮像管などの電子管走査方式と、半導体素子など使用する個体走査方式に大別されるが、近年は個体走査方式が用いられていることが多い。
受信側で復原された電気信号は、記録のために別の形のエネルギーに変換され、その刺激によって記録媒体上に画像が再現される。エネルギー別に記録方式を分類すると、(1)電気エネルギーを利用する静電記録、放電記録、電解記録、通電感熱記録、(2)光エネルギーを利用する電子写真記録、(3)熱エネルギーを利用する感熱記録、熱転写記録、(4)その他のインクジェット記録などがある。
[坪井 了]
分類
国際電信電話諮問委員会(CCITT)ではファクシミリの電送などについて、世界の標準として次のように分類している。
(1)グループⅠ(G1) 電話回線を用い、送出する信号の帯域を圧縮する手段をもたない両側帯波変調を使用してA4判の原稿を約6分で電送する(6分機)。
(2)グループⅡ(G2) 電話回線を用い、符号化または残留側帯波変調などの帯域圧縮技術を使用してA4判の原稿を約3分で電送する(3分機)。
(3)グループⅢ(G3) 電話回線を用い、ファクシミリ信号の冗長性を抑圧する手段を用いてA4判の原稿を約1分で電送する。変調方式として帯域圧縮技術を使用してもよい(1分機)。
(4)グループⅣ(G4) 主として公衆データ網を用いるデジタルファクシミリで、冗長度抑圧符号化機能を有し、エラーフリー通信が可能である。
[坪井 了]