一般に,電気抵抗が 10-13 Ω cm より小さい有機化合物をいう.1950年代のはじめに,赤松秀雄と井口洋夫が一連の縮合多環芳香族化合物についての電気伝導性の研究をはじめたが,たとえばビオラントレンが 10-7 Ω-1 cm-1 の電気伝導率を示すことを発見して以来,これらの化合物に与えた名称である.ついでペリレンとヨウ素との電荷移動錯体が約 10-1 Ω-1 cm-1 の良好な電気伝導率を示すことを見つけ,この種の有機半導体の研究が活発に行われるようになった.1964年には,W.A. Littleが高温超伝導体に関する論文を発表し,そのなかで共役系の二重結合が長く連なった主鎖に分極性の色素を側鎖としてもつ化合物を提案し,このような化合物が合成できたら室温でも超伝導現象が現れるかもしれないことを示唆した.この提唱は,最近,一次元伝導体などとよばれている電荷を導く部分が連鎖状の構造をもつ化合物に対する研究に強い刺激となった.1960年にデュポン(DuPont)社で開発された7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタン(TCNQ)は,共役系をもつ平面上の化合物で,ほかの原子あるいは分子と結合して直鎖状構造をもつ塩を形成し,これらの塩は良好な電気伝導性を示す.たとえば,TCNQとテトラチアフルバレン(TTF)との1:1の電荷移動錯体の単結晶は,TCNQとTTFの分子がそれぞれ積み重なった直鎖状のカラムを形成し,このカラムにそった電気伝導率は室温で 103 Ω-1 cm-1 であり,さらに60 K 付近で急上昇し,銅の室温での電気伝導率に匹敵するようになる.最初,この電気伝導率の急上昇は超伝導ではないかと考えられたが,現在では否定されている.最近では,ポリアセチレンやポリ-p-フェニレンのような長い共役系を有する化合物も,ハロゲン,AsF5などのアクセプターを添加することにより,103 Ω-1 cm-1 程度までの伝導性を有するp型の,またアルカリ金属などのドナーを添加することによりn型の半導体から金属的電気伝導体となることが知られ,高分子半導体の研究も活発に行われている([別用語参照]p型半導体,n型半導体).一方,ポリ(N-ビニルカルバゾール)のようなポリマーは,暗所では完全な絶縁体であるが,光(とくに紫外線)を照射することにより大きな光伝導性を示す.このような光伝導性を示す有機化合物も多く知られ,電子複写などに実用されているものもある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
本来電気的に絶縁体である有機化合物固体中で,π電子の移動および電荷移動に基づいて半導体的電気特性を示す物質。炭素原子を主体として構成する有機化合物の電子状態は,その炭素の電子構造で支配される。炭素は,価電子がsp3混成軌道と,sp2混成軌道をとる場合がある(混成軌道)。sp2混成軌道で組み立てられている化合物の代表は,ベンゼン環をもつ芳香族化合物や黒鉛である。これらの化合物は分子内を比較的自由に動ける電子であるπ電子をもつ。π電子の存在が芳香族化合物の着色や特異的な磁性を示す原因である。これらπ電子の電子雲はベンゼン環の間に垂直方向に広がっており,隣接分子との間でその電子雲の重なりがある。1950年,3.4~3.6Åの平面分子間距離をもつビオラントロンなどの芳香族化合物が,その電子雲の重複に基づいて有機固体に電気伝導性が付与されることが見いだされた。54年,これを有機半導体と名づけた。その後,半導体特性に基づく,光伝導性や有機固体中の電子の移動度の測定などの物性測定の累積,試料の高純度化などにより電気伝導機構も解析され,有機半導体の分野が確立した。また,π電子の存在は共役二重結合に対しても当然期待される。共役二重結合を主体とするポリエン系の有機固体の電気伝導現象の研究は,ポリアセチレン(共役二重結合が数百から数万結合した鎖状高分子)を得たことによって,高分子の半導性物性の研究が一段と加速した。また,有機半導体の創成当初から研究対象となっているフタロシアニンは,その電気伝導性を利用して電極への応用が研究されている。有機化合物に電気伝導性を付与する手段として,電荷移動による有機固体内の動きやすい電子の出現がある。その電気伝導特性も半導体的なものが多いが,電気伝導度が一般の有機半導体に比べて著しく高いので,とくに有機導体として区別している。
執筆者:井口 洋夫
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…本来有機分子は,その美しい色(染料),よい香り(香料),そして生理活性(医薬品)など,分子1個1個の示す特性がその研究の対象であった。ところでナイロンやエボナイトなど分子が集合してできる有機固体の力学的性質の利用に加えて,電気的性質に着目した有機半導体および有機導体の研究が開始されたのは1940年代の終りである。これらは光や力学,磁性等の特性を生かした機能性有機固体の研究に展開し,たとえば耐熱性高分子や金属に代わる炭素繊維を用いた複合材料など応用面での著しい発展がみられた。…
… 現在,半導体といわれるものの種類は非常に多いが,単体としてはシリコンSi,ゲルマニウムGeなど,化合物ではガリウムヒ素GaAsとかインジウムリンInPなど3価と5価の元素からなるいわゆるIII‐V金属間化合物が重要である。このほか,硫化カドミウムCdSなどのII‐VI化合物を含めて各種の酸化物,硫化物とか,さらにはアントラセンなどの有機半導体もあげられる。これらは結晶の状態で扱われることが多いが,70年ころから非晶質の半導体(アモルファス半導体)も注目されている。…
※「有機半導体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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