国民にICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)が利用できる環境を整備し、各省庁間の事務および対国民との各種手続にICTを用いることにより、費用および人員削減、効率化、国民の利便性の向上および満足度を高めることを目ざすもの。電子自治体とあわせて電子行政ともよばれ、行財政改革の重要課題の一つとして位置づけられている。
電子政府は、おおよそ国民の利便性向上を目ざした行政サービスの提供と、行政事務の効率化を目ざした行政内部事務の電子化との二つで構成される。前者としてオンライン上を通じて国税の申告が行える電子納税、オンライン上で入札をすることにより透明性および公平性が確保される電子入札、知りたい情報を得るためのホームページの充実、国民が政策に関して意見を述べるためのパブリックコメント、地震をはじめとする災害に対応するための緊急通信ネットワークの構築などがあげられる。また、後者としては、霞が関WAN(ワン)(WAN=Wide Area Network。各省庁間と自治体を結ぶネットワークシステム)と政府認証基盤(GPKI=Government Public Key Infrastructure。オンライン上でのやりとりの際に正当性を確保するセキュリティシステム)がある。 に示すように、霞が関WANは各省庁間のネットワークシステム、総合行政ネットワーク(LGWAN(エルジーワン)=Local Government Wide Area Network)は各自治体レベルのネットワークシステムである。これらにより、情報共有、データベースの一元化、事務の効率化、電子メール等を通じたやりとりによるコミュニケーションの円滑化が図られるなどのメリットがあげられる。なお、霞が関WANをリニューアルしさらに効率化および最適化を目ざした新霞が関WANも構築されている。
電子政府の構築が必要とされた背景は、(1)従来の縦割り行政により相次いで弊害が生じていること、(2)技術革新時代にそぐわないものとなっていること、(3)政府機関が何をやっているか説明責任を果たすと同時に透明性の確保が求められるようになったこと、(4)行政機関のみでは対応できず民間の活力に頼らざるをえない状況下にあること、(5)ますます深刻化する財政赤字で人員および経費削減が求められるようになったこと、(6)国民の生活が多種多様化し、政策へ国民のニーズを反映することが求められるようになったこと、の6点があげられる。
電子政府構築の流れは、以下の通りである。
1999年(平成11)12月の「ミレニアム・プロジェクト」において「電子政府の実現」に具体的に取り組むこととされ、目標として「2003年度までに、民間から政府、政府から民間への行政手続をインターネットを利用しペーパーレスで行える電子政府の基盤を構築する」ことが掲げられた。
続いて2001年1月に「e-Japan戦略」が策定された。この戦略によると、「5年以内に世界最先端のIT国家となる」ことを目標として四つが重点施策としてあげられ、その一つに「電子政府の実現」があげられている。さらに「2003年までに、行政(国・地方公共団体)内部の電子化、官民接点のオンライン化、行政情報のインターネット公開・利用促進、地方公共団体の取組み支援等を推進し、電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現し、幅広い国民・事業者のIT化を促す」こととしている。
また、2003年7月、政府の各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議(CIO=Chief Information Officer)が電子政府の構築について具体的施策を示したものとして「電子政府構築計画」を作成した。この計画によると、「電子政府の構築は、行政分野へのIT(情報通信技術)の活用とこれに併せた業務や制度の見直しにより、国民の利便性の向上と行政運営の簡素化、効率化、信頼性及び透明性の向上を図ることを目的とするもの」であるとされている。そして、2005年度末までを計画対象期間とし、利用者本位の行政サービスの提供や予算効率の高い簡素な政府の実現の2点を目ざすものとした。また、このとき初めて電子政府構築を推進する推進体制の一つとして「CIO補佐官」が定義された。
さらに、2006年1月に「IT新改革戦略」が発表された。この戦略によると、「e-Japan戦略」の5年間にインフラ(基盤)整備においても利用者のレベルにおいても世界最高水準となり、最先端のマーケットと技術環境を有する世界最先端のIT国家となったとされている。その一方で、ITの利活用における国民満足度の向上などが課題としてあるとされている。ITの「新たな価値を生み出す力」や「課題解決力」で構造改革を推進し、理念として構造改革による飛躍、利用者・生活者重視、国際貢献・国際競争力強化の3点があげられている。そして、今後のIT施策の重点の一つに、世界一便利で効率的な電子行政としてオンライン申請率50%達成があげられている。
2006年8月、政府のCIO連絡会議は「電子政府推進計画」を策定した。これは、2010年度までを期間とし、同年1月の「IT新改革戦略」をより具体化したものである。そして、国に対する申請・届出等手続のオンライン利用率を50%以上とすること、システム運用経費の削減や業務処理時間の削減等最適化の早期実現とさらなる効果の向上、政府全体としてさらなる最適化を推進、情報システムの高度化と安全性・信頼性を確保することの4点を目標として掲げた。この計画の特徴としてPDCA(計画Plan、実施Do、評価Check、改善Action)サイクルが具体的に明記されている点があげられる。
早稲田大学電子政府・自治体研究所の調査によると、日本の電子政府の現状は、これまでの電子政府の取組みの経緯および成果から、2007年度の電子政府ランキングでは世界で第4位であった。これは、電子政府の先進国として位置づけることができる。とくに日本のブロードバンドは世界最速、最低料金であり、インフラの整備は世界最高水準である。また、行政の効率化のための基幹システムの最適化、統合ネットワークサービスの構築についても世界最高水準である。
しかし、一方でIT経営戦略でのCIOをはじめとするリーダーシップの育成、セキュリティの問題、ICTを導入すべき優先順位の境界線が十分でないため、むだな投資が発生していること、国民の利便性への配慮が薄いと同時に職員自身が使いにくいものとなっていることなどが課題としてあげられる。
[小尾敏夫]
『白井均・城野敬子・石井恭子著『電子政府――ITが政府を革新する』(2000・東洋経済新報社)』▽『富士総合研究所著『「電子政府」のことがよくわかる――IT革命で中央・地方公務員の仕事や人々の暮らしはどう変わる?』(2001・中経出版)』▽『NEC電子行政推進プロジェクト編『電子政府・電子自治体入門――行政職員のためのIT活用法』(2001・ぎょうせい)』▽『白井均・城野敬子・石井恭子・永田祐一著『電子政府最前線――こうすればできる便利な社会』(2002・東洋経済新報社)』▽『小尾敏夫監修、早稲田大学大学院CIO・ITコース、早稲田大学電子政府・自治体研究所編『CIO――IT経営戦略の最高情報統括責任者 行政CIO、企業CIOの新展開、新領域、国際比較』(2005・電気通信協会、オーム社発売)』▽『総務省編『情報通信白書』各年版(ぎょうせい)』
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
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