電子納税(読み)でんしのうぜい(英語表記)electronic tax filing

日本大百科全書(ニッポニカ) 「電子納税」の意味・わかりやすい解説

電子納税
でんしのうぜい
electronic tax filing

インターネットや金融機関のATM(現金自動預金支払機)などで電子的に税金申告・納付手続をすること。「電子申告・納税」ともよばれる。家庭やオフィス内からパソコンやスマートフォンなどの端末を使って税金の申告・納税ができるため、税務署に赴く必要がない。税務署の事務作業を軽減できるほか、政府にとっては、納税の利便性を高めることで滞納を減らす効果も期待できる。一方、マイナンバーカード(個人番号カード)を取得するか、税務署でID(認証番号)・パスワードの発行を受ける必要があり、操作に慣れていない人にとって電子納税は簡単ではないとの指摘がある。電子的にデータをやりとりするため、個人情報などの流出改竄(かいざん)のおそれもある。

 海外では、アメリカで1986年から個人所得税の電子納税が始まり、2011年に連邦税の納税は電子納税のみとなった。イギリス、フランス、ドイツなど主要国も1990年代に個人所得税や法人税などの電子納税を始め、イタリアのように電子納税を義務化した国もある。世界銀行の調査(2019年時点)では、世界106か国・地域が電子申告を導入済みである。日本では2004年(平成16)に、国税の電子申告・納税システム(e-Taxイータックス)が導入され、2005年には地方税版システム(eLTAX、エルタックス)が始まった。国税は源泉所得税、申告所得税、法人税、消費税、地方消費税、贈与税酒税印紙税などの納税が可能。2020年(令和2)から大企業(資本金1億円超など)の法人税や消費税の電子申告が義務化され、住宅ローン控除や生命保険控除の年末調整手続も電子化された。しかし2020年度の個人所得税を例にとると、日本の電子申告の利用率は64.3%と、アメリカ(94.3%、2020年度)、イギリス(90.4%、2019年度)、イタリア(100%、同)、韓国(98.3%、同)などに比べ遅れている。北欧では、個人番号に基づき、税務当局が企業や金融機関から納税者情報を入手して申告書を作成し、納税者は間違いだけを訂正する記入済み申告制度が活用されている。日本の国税庁は、マイナンバーカードで行政機関や企業のサービスを利用するマイナポータルと、イータックスを連携することで、電子版の記入済み申告制度の構築を目ざしている。

[矢野 武 2022年9月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android