行政上の各種の決定に際してとるべき手続、とくに行政処分をする前に被処分者に事案の内容を告知し、聴聞する手続。事前手続ともいう。日本ではもともと行政庁が行政処分をしたのち、それが法規に適合しているかどうかを事後に審査する大陸法系のシステムがとられてきた。これは法治行政を担保するのに有用ではあるが、事後の裁判所による救済には出訴の煩わしさ、救済の遅れ、裁量の統制ができないなどの欠点がある。これに対し、英米法系諸国では、行政が活動するとき、事前に利害関係者に告知・聴聞し、裁判所は事前手続の遵守の側面に重点を置いて統制するシステムを発展させた。大陸法系諸国でも、オーストリアが1925年に、ドイツが1977年に行政手続法を制定し、その他の国でも判例で行政手続法を発展させるなど、英米法系諸国と大陸法系諸国は接近している。
日本では長らく、統一的な行政手続法がなく、個別法に散発的に事前手続を要求する規定があった(運転免許の取消しにつき道路交通法第104条、違反建築物の除却命令につき建築基準法第9条など)のみで、事前手続の規定がない場合(公務員の免職、生活保護の廃止、海岸の占用許可の取消し、補助金の交付・取消しなど)も少なくなかった。学問上は、かねてより統一的な行政手続法の制定が必要であることに意見の一致をみており、1964年(昭和39)の第一次臨時行政調査会は行政手続法草案を作成したが、棚ざらしの状態に置かれていた。第二次臨時行政調査会を経て1983年に行政管理庁(のちの総務庁、現総務省)が行政手続法案の要綱を作成し、1993年(平成5)に立法化された。それは、処分、行政指導および届出にかかわる手続に関して共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的とする。とくに申請に対する処分(許可不許可など)については審査基準、標準処理期間、理由付記などの定めがあり、不利益処分については処分基準設定の努力義務、許可取消しの場合の聴聞、許可停止の場合の弁明手続などが定められている。聴聞に際しては、口頭陳述の機会が与えられ、文書閲覧請求権が与えられる。行政指導は任意的なもので強制できないことが明示された。届出も、記載事項に矛盾がなく必要書類が添付されていれば行政の方が受理拒否をすることは許されない。
判例では1963年の東京地裁判例以来、解釈上も事前手続を要するとするものが散見されるようになったが、諸外国に比べると、日本の判例は法創造的活動に乏しく、一般的には、明文の規定がない以上事前手続を要しないとするものが多い。これが日本で、諸外国と異なり立法化が遅れた主因である。
[阿部泰隆]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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