内科学 第10版 「非機能性下垂体腺腫」の解説
非機能性下垂体腺腫(視床下部・下垂体)
下垂体腺腫(pituitary adenoma)は,臨床的には下垂体前葉ホルモン(GH,プロラクチン,ACTH,TSH,ゴナドトロピン)産生腺腫などの機能性腺腫と非機能性腺腫に分類される(表12-2-16).非機能性下垂体腺腫は前葉ホルモンの過剰による症状・徴候を示さないもので,下垂体腺腫全体の3〜4割を占める.しかしながら下垂体前葉ホルモンの遺伝子の発現や蛋白が認められないnull cell adenomaはむしろ少なく(約20%),多くの非機能性腺腫では,LH,FSHなどの糖蛋白ホルモンのβサブユニットや,それらに共通のαサブユニットの発現が証明される(Chansonら,2005).しかし,ホルモンが産生されていても血液中に分泌されない場合,あるいは分泌されても不活性である場合は,非機能性腺腫との鑑別は困難である.したがって,これらの例は臨床的非機能性腺腫(clinically non-functioning adenoma)とよばれるべきものであり,病理学的には前述のゴナドトロピン分泌腫瘍の一部(silent gonadotroph adenoma)が含まれる (Yamada, 2007).また,ACTHやGHを産生していながら,分泌機構の障害のためホルモン過剰症状を示さない例も,臨床的非機能性腺腫と分類されており,それらはそれぞれsilent corticotroph adenoma,silent acromegalyなどとよばれている.
臨床症状
非機能性腺腫は,マクロアデノーマとして発見される場合が多く,80%以上の例がトルコ鞍上部進展を示すため,視力障害,視野障害,頭痛の頻度が高い.また腫瘤により下垂体ホルモンの分泌障害をきたし,部分的下垂体前葉機能低下を示す場合も多い.ゴナドトロピンやGHの分泌不全や下垂体茎の圧迫によるプロラクチン分泌亢進を示す例も少なくなく,この場合女性では月経障害,男性ではインポテンスをきたす.
治療
手術療法が主体であり,約70〜80%で経蝶形骨洞腫瘍摘出術の適応となるが,腫瘍が巨大な場合は開頭手術が行われる.手術により視野障害の改善は認められるが,下垂体ホルモン分泌不全の回復率は必ずしも高くなく,症例によってはさらに機能が低下する.薬物療法では,オクトレオチド,ブロモクリプチン,カベルゴリンなどが試みられているが,有効性には限界がある.[橋本浩三]
■文献
Chanson P, Brochier S: Non-functioning pituitary adenomas. J Endocrinol Invest, 28: 93-99, 2005.
Yamada S, Ohyama K, et al: A study of the correlation between morphological findings and biological activities in clinically nonfunctioning pituitary adenomas. Neurosurgery, 61: 580-584, 2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報