下垂体腺腫(読み)カスイタイセンシュ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「下垂体腺腫」の意味・わかりやすい解説

下垂体腺腫
かすいたいせんしゅ

頭蓋(とうがい)内に発生する脳腫瘍(しゅよう)の一種。原発性で、脳下垂体前葉に発生する腺腫であり、ほぼすべてが良性腫瘍とされる。2009年(平成21)の脳腫瘍全国集計調査報告では原発性脳腫瘍の18.2%を占め、3番目に発生頻度が高い。成人(とくに女性)、高齢者に多く発症するが小児にみられることもある。特定ホルモンを産生する機能性腺腫(分泌性腺腫)と、まったく産生しない非機能性腺腫(非分泌性腺腫)とに大きく分けられ、後者の発生頻度が高い。機能性下垂体腺腫では、特定のホルモンの過剰分泌に特有の症状が現れるため、腫瘍が増殖する前に診断が下されることもあるが、非機能性の場合にはホルモン過剰症状はみられず、多くは腫瘍が増殖して下垂体の直上にある視神経を圧迫し視力障害視野狭窄(きょうさく)を起こすことで診断される。年齢別には、小児に機能性、高齢者に非機能性のものが多くみられる。機能性下垂体腺腫の代表的なものに、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ、無月経・乳汁漏出症候群)、成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症巨人症)、副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫(クッシング症候群、ネルソン症候群)があり、まれに甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫(バセドウ病に似た症状)、性腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫(性欲低下)などがみられる。治療手術が基本となるが、開頭術以外に副鼻腔(びくう)から経鼻的に脳下垂体に到達する経蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)的手術なども行われている。

[編集部]

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内科学 第10版 「下垂体腺腫」の解説

下垂体腺腫(脳腫瘍各論)

(3)下垂体腺腫(pituitary adenoma)
 下垂体前葉から発生する良性の腫瘍で,全脳腫瘍の約17%を占める.ホルモン産生腫瘍(60%)とホルモン非産生腫瘍(40%)に分類できるが,前者にはプロラクチン(PRL)産生腫瘍,成長ホルモン(growth hormone:GH)産生腫瘍,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormoneACTH)産生腫瘍などが含まれる.また,腫瘍のサイズにより,トルコ鞍内に限局している最大直径10 mm以内のものをミクロアデノーマ(microadenoma),鞍上部伸展を伴う大きなものをマクロアデノーマ(macroadenoma)とよぶ.
好発年齢・性差
 20~50歳の成人に好発する.ホルモン非産生腫瘍では性差はないが,PRL産生腫瘍,ACTH産生腫瘍は女性に多く,GH産生腫瘍は男性にやや多い.
臨床症状
 ホルモン過剰分泌によるホルモン異常症候群と,腫瘍による局所圧迫症状とがある.女性のPRL産生腫瘍では乳汁分泌と無月経,男性では性欲低下などの症状をみる.GH産生腫瘍では発病の時期が骨端線の閉鎖以前であれば巨人症,以後であれば末端肥大症を,またACTH産生腫瘍ではCushing症候群を呈することになる.ミクロアデノーマは,これらのホルモン異常症候群の存在によってはじめて診断されることになるが,マクロアデノーマでは,視力低下や両耳側半盲で発症する.下垂体腺腫内に急に出血が起こり,突然の激しい頭痛や視力・視野障害,さらに眼球運動障害をきたすことがあるが,これを下垂体卒中(pituitary apoplexy)とよぶ.
診断
 マクロアデノーマでは,頭蓋単純撮影上トルコ鞍の拡大(ballooning)を認め,CT,MRI上,鞍内から鞍上部に伸展する腫瘍を確認する(図15-14-3A).腫瘍は通常,造影剤により均一に造影されるが,造影効果を受けない囊胞成分を腫瘍内に認めることもある.ミクロアデノーマは通常造影効果を受けないので,腫瘍は均一に造影される正常下垂体のなかに円形の低信号域として描出される(図15-14-3B).
治療
 手術,薬物療法,放射線治療の3つの方法がある.手術には開頭による腫瘍摘出術と,経蝶形骨洞到達法によるものとがあるが,ほとんどの腫瘍は後者によって摘出可能である.一般にPRL産生腫瘍以外では,手術が治療の第一選択になる.ブロモクリプチン(bromocriptine)はドパミン作用を有する麦角剤で,PRL産生腫瘍を縮小させ血中PRL値を低下させるため,PRL産生腫瘍の治療に広く用いられている.近年,ソマトスタチン類似体であるオクトレオチド(octre­otide)がGH産生腫瘍の治療薬として用いられるようになったが,これは術後に血中GH値が十分に低下しない場合や,手術をより安全確実に行うために術前に腫瘍の縮小をはかる目的で使用される.[新井 一]

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