両眼の奥で、いろいろなホルモンを分泌する下垂体と呼ばれるところにできる良性の
症状は、下垂体腺腫が大きくなりまわりの神経を圧迫することによる症状と、内分泌の症状との2つに分けられます。
腫瘍が大きくなると眼の奥や額に重い感じや鈍い痛みを感じることがあります。腫瘍がさらに大きくなると、下垂体の上にある視神経と呼ばれる眼からの情報を脳に伝える神経が下から圧迫され、眼で見える範囲が狭くなります。
見えない範囲は、外側の上のほうから徐々に拡大してきます。患者さんは、最近、斜め前から来る人にぶつかりやすくなった、赤信号で停止していたら後ろからクラクションを鳴らされ、信号を見上げると青になっていた、などの症状を訴えます。また、眼科を受診することで初めて、下垂体腺腫を指摘されることも珍しくありません。
内分泌の症状には次のようなものがあります。プロラクチンと呼ばれるホルモンが多くつくられると、月経異常、乳汁分泌、性欲減退、インポテンツなどが現れます。成長ホルモンが多くつくられると、身長の異常な増加、指が太くなる、唇が厚くなる、あごが前に突き出る、高血圧、糖尿病などが現れます。副腎皮質刺激ホルモンが多くつくられると、肥満、色素沈着、多毛、高血圧などが現れます。そのほか、腫瘍の種類によっては、下垂体からのホルモンの生成が抑えられる症状を現すことがあります。
最初に月経異常や不妊症で産婦人科を訪れたり、高血圧や糖尿病で内科を受診したりして、そこから脳神経外科へ紹介される場合もあります。
下垂体腺腫の診断にはMRIが有効です(図36)。下垂体のなかでどこにできたか、まわりの神経を圧迫しているかどうかなどが診断できます。さらにMRIでは、下垂体の近くにできた腫瘍と下垂体との関係を診断することも可能で、下垂体腺腫以外の腫瘍も確定診断できます。
また、採血によって血中の下垂体ホルモンを測定する内分泌検査も重要です。場合により入院して、早朝に下垂体ホルモンを刺激したり抑えるような薬物を投与して、その後連続して採血が行われることがあります。
注意が必要なのは、薬物の服用によりプロラクチンが高くなっている場合です。この場合は、MRI検査でも下垂体腺腫が発見できません。
患者さんは、吐き気止めの薬(メトクロプラミド、ドンペリドン)、血圧を下げる薬(レセルピン、
プロラクチンが多くつくられる腫瘍では、ブロモクリプチン、テルグリド(テルロン)、カベルゴリン(カバサール)などの薬物療法が第一選択です。これらの薬は服用を中止すると腫瘍が大きくなるので、かなり長期間の継続した内服が必要です。小さな腫瘍、出血している腫瘍、腫瘍のまわりから
成長ホルモンが多くつくられる腫瘍では、手術療法が第一選択です。補助的に行われる薬物療法では、オクトレオチドの皮下注射またはブロモクリプチンの内服があります。そのほか放射線治療が追加される場合があります。
その他のホルモンをつくる腫瘍やホルモンを分泌しない腫瘍では、手術により下垂体腺腫を摘出する方法が第一選択です。
松前 光紀
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
頭蓋(とうがい)内に発生する脳腫瘍(しゅよう)の一種。原発性で、脳下垂体前葉に発生する腺腫であり、ほぼすべてが良性腫瘍とされる。2009年(平成21)の脳腫瘍全国集計調査報告では原発性脳腫瘍の18.2%を占め、3番目に発生頻度が高い。成人(とくに女性)、高齢者に多く発症するが小児にみられることもある。特定のホルモンを産生する機能性腺腫(分泌性腺腫)と、まったく産生しない非機能性腺腫(非分泌性腺腫)とに大きく分けられ、後者の発生頻度が高い。機能性下垂体腺腫では、特定のホルモンの過剰分泌に特有の症状が現れるため、腫瘍が増殖する前に診断が下されることもあるが、非機能性の場合にはホルモン過剰症状はみられず、多くは腫瘍が増殖して下垂体の直上にある視神経を圧迫し視力障害や視野狭窄(きょうさく)を起こすことで診断される。年齢別には、小児に機能性、高齢者に非機能性のものが多くみられる。機能性下垂体腺腫の代表的なものに、プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ、無月経・乳汁漏出症候群)、成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、巨人症)、副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫(クッシング症候群、ネルソン症候群)があり、まれに甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫(バセドウ病に似た症状)、性腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫(性欲低下)などがみられる。治療は手術が基本となるが、開頭術以外に副鼻腔(びくう)から経鼻的に脳下垂体に到達する経蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)的手術なども行われている。
[編集部]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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