改訂新版 世界大百科事典 「鞭打ち苦行者」の意味・わかりやすい解説
鞭打ち苦行者 (むちうちくぎょうしゃ)
flagellant
中世における異端的キリスト教運動の一つ。本来,鞭打ちは規則違反に対する懲罰であったが,のちにこのことから逆に,苦行と改悔の手段として採用されるようにもなった。13世紀イタリアにおいて,世界終末の接近を警告し,道徳的退廃を非難して鞭打ち苦行を行ったものが,最初の集団的な事例である。1261年には,キリスト教教義に反するものとして禁じられている。1348年,黒死病(ペスト)の大流行に際してのものが,とりわけ大規模であった。疫病の流行を神の懲罰もしくは世界終末の予告とみなし,集団で,みずから,もしくは相互に鞭打ちを繰り返し,裸足,粗衣をもって頌詩を朗唱しながら行列をなした。33日半の長期にわたるものが,多く報告されている。その源発地は不詳であるが,伝播(でんぱ)の経路はかなり確定できる。西ヨーロッパ各地に拡散し,しばしば信仰上の宗派をなした。1349年,教皇クレメンス6世は,この運動を異端と宣して禁圧したが,消滅せず後世にも散見する。
執筆者:樺山 紘一
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