改訂新版 世界大百科事典 「音楽図書館」の意味・わかりやすい解説
音楽図書館 (おんがくとしょかん)
楽譜,音楽書,レコードなどの音楽資料を扱う図書館。近年の新しいメディアの開発・普及にともない,録音資料および映像資料をもふくめて非図書資料の名目で一括して音楽図書館で扱ったり,資料の内容とは関係なく非図書資料をまとめて視聴覚センターを独立させたりするのが,最近の傾向である。音楽図書館は,所蔵資料の種類・内容,館の目的・機能によっていくつかのタイプがある。(1)かつて音楽活動の中心であった修道院,教会,大学などで,写本,初期印刷楽譜,自筆譜などの原資料を蔵する館(モンテ・カッシノ修道院,ウェストミンスター・アベー,オックスフォード大学)。(2)音楽学研究用の参考図書,楽譜,専門書をそろえた研究専門図書館(ハーバード大学付属音楽図書館)。(3)広範な資料を集めた国立図書館の音楽部門(米国議会図書館)。(4)教育用の演奏譜・図書・レコードを持つ音楽学校の付属図書館(ジュリアード音楽学校)。(5)プロの演奏団体が演奏会用レパートリー関係の資料を有する場合(ウィーン楽友協会,パリ・オペラ座)。(6)地域住民のための一般教養向け音楽資料を有するもの(県立・市立などの公共図書館。大規模な例はニューヨーク公共図書館)。(7)放送局が持つ録音資料・放送用資料のコレクション(NHK,BBC)。(8)自国の音楽文化推進のために,情報・資料を収集・提供する情報センターで,多くは国公立(アメリカン・ミュージックセンターほか多数)。日本では伝統芸術・民俗芸能の扱い,言語の問題など,欧米と異なる条件もあり,音楽資料整理技術の確立と音楽図書館の整備は今後の課題である。
執筆者:岸本 宏子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報