通常は,ラジオあるいはテレビの放送番組を制作して放送するための機能と設備を備えた,施設あるいは事業体を指す。通信技術的には放送局は一種の無線局で,放送事業者は放送を目的とした無線局としての免許を得てはじめて放送局を設置し運営することができる(〈放送法〉)。対象を特定の受信者に限定せず,一般公衆が直接受信するという点で,放送局は無線局の中でも特殊な位置づけを与えられている。
いわゆるスタジオと事務部門を収めた放送局は通常交通の便などの制約があるため都市の中心部に置かれている。スタジオには音楽スタジオ,ドラマスタジオ,講演スタジオ,テレビスタジオ,公開スタジオなどの種類があり,エコー室,せりふ室,擬音効果室,調整室,倉庫,スポンサー室などが付属している。そこで制作された放送番組は多くの場合,放送対象地域をカバーするために適したかなり離れた場所に設けられた送信所(放送所ともいわれる)から電波にのせて一般視聴者向けに送り出される。放送局にも巨大なアンテナが建っているが,ほとんどは放送所へのマイクロウェーブ送信用および臨時中継用である。放送所も,東京タワーのように都市の中心部に位置する場合もあり,また非常時に備えて予備の放送所が置かれ,東京の場合は新宿センタービルに全テレビ局共同の放送所がある。
放送局といっても,すべての放送局で番組を制作しているわけではない。番組をまったくつくることなく,送られてきた放送電波を受けて途中の電力損失を補い,さらに強めて伝送することを仕事とする多くの中継局があり,これらの中継局は無人化される傾向にある。こうした中継局も含めると,NHK,民間放送のラジオ,テレビの全放送局数は1万を超える。中継局を除いた大小さまざまの放送局を機能上三つに分けるのが普通である。いわゆるタレントも多く集まる東京中心の局はキー局と呼ばれ,ここでつくられた番組が全国向けのネットワークに分配される。これに準ずるものとして大阪,名古屋の一部の局が準キー局と呼ばれ,ネットワークの放送番組の一部を製作している。これらを除く全国の多くの放送局はローカル局で,キー局,準キー局の番組を受けてそれぞれの地域に放送するとともに,自局編成・制作の,多くは地域社会に密着したいわゆるローカル番組を出している。NHK,民放を問わず日本の放送局はこうした層構造で機能している。
放送法,電波法の除外規定にあたる場合(たとえば発射する電波が著しく微弱であるなど)のほかは,どの地域にどの程度の規模の放送局をつくるかという計画は,もっぱら国の政策にゆだねられ,各地域への放送用周波数割当というかたちで,この計画が実施されている。割り当てられた周波数に対して,放送事業を計画する事業者は免許申請をするのである。最近,日本でも無免許のラジオ放送が一般の放送を妨害することがあるが,この種の放送は海賊放送または地下放送と呼ばれている。外国の例としては,1979年8月フランスで,社会党パリ支部が〈反撃ラジオ〉と名づけた海賊ラジオ放送を開始し,ミッテラン第一書記が録音で,政府権力による情報手段の私物化を攻撃した。そもそも放送にはこうした免許事業という性格から,ある種の権威性がつきまとう。それにくわえて放送は,広い範囲にわたって瞬時に同一のメッセージを伝播することができるので,放送局はしばしば中央集権的な情報の支配機構のセンターとして機能する。そのために革命や反乱の勃発に際しては,放送局は第一の占拠目標とされる。たとえば二・二六事件(1936)の際には当時NHKの放送局があった東京港区の愛宕(あたご)山の上は,反乱軍の占拠を恐れた戒厳司令官指揮下の軍によって厳重に警戒されたし,終戦のいわゆる〈玉音放送〉の際にも,東京都千代田区内幸町の放送会館は,一時期反乱軍によって占拠された。
こうした緊急事態を除いては,とくに大衆消費社会的な状況の中では,放送局は権威の中心としてよりは,大衆文化の拠点としてのシンボルとなる。放送局とは有名人,タレントが出入りする華やかな場所であり,そうした人々を動かしてさまざまの番組をつくるプロデューサー,ディレクターが集まっている場所にほかならない。放送局は都市文化,若者文化のショーウィンドーになる。かつてアメリカ,ニューヨークのRCAビルの中のNBCが,各地から集まるおのぼりさん相手の催しを番組以外にも用意して〈ラジオシティ〉として名をはせたが,近年,地域社会との関係での日本の放送局のあり方は大きく変わってきている。放送自身が堅苦しい権威性を脱ぎ捨て,閉鎖性から開放性へ,専門性からアマチュア性の方向に大きく動いているなかで,放送局も普通の市民が自由に出入りして番組にも参加できる,いわば広場のようなものになりつつある。また,中央文化の伝播手段としての性格が強かったこれまでの放送から,それぞれの地域の文化のセンターとしての放送に方向転換しつつある状況からみて,放送局のあり方もすべて一律ではなく,それぞれの地域で独自のものとなっていくことが予想される。さらに衛星放送などの通信技術の進歩は,放送のシステムを根底から変えるであろうから,とくにローカル局は現実的対応を迫られているといえよう。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」を放送といい、「放送をする無線局」を放送局という(放送法2条)。これが日本の法律上の放送局の定義だが、一般には、総務大臣の免許を受けてラジオまたはテレビの放送を行っている事業体をいう。法制上、放送局は無線局の一種であるから、農村などにおけるラジオ有線放送局や有線テレビ局(CATV)は、機能的には放送局と似ていても、ここでいう放送局には含まれない。放送(局)は、電波法(昭和25年法律131号)、放送法(昭和25年法律132号)によって、有線放送(局)は、有線電気通信法(昭和28年法律96号)、有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律135号)、有線テレビジョン放送法(昭和47年法律114号)によって、それぞれ規律されている。
[伊豫田康弘]
世界で最初の放送局(ラジオ)は、1920年11月2日に開局したアメリカのピッツバーグのKDKA局をあげるのが普通である。日本ではNHK(日本放送協会)の前身である東京放送局(JOAK)が25年(大正14)3月22日仮放送をスタート、同年7月12日から本放送を開始した。民間放送ラジオは、51年(昭和26)9月1日に中部日本放送(CBC)と新日本放送(現毎日放送、MBS)が開局した。テレビ放送の始まりについては諸説あってさだかでないが、アメリカではNBCとCBSが1941年7月1日ニューヨークで正式放送を開始しており、日本では53年2月1日からNHK東京テレビジョン局の本放送がスタート、同年8月28日、民間放送テレビ局第1号として日本テレビ放送網(NTV)が開局した。
[伊豫田康弘]
放送局は、有限の周波数を効率的かつ公平に利用するため、総務省の策定する周波数割当計画(チャンネルプラン)に基づいて置局される。放送局を開設しようとする場合は、所定の手続で総務大臣の免許を受けなければならない(電波法4条)。免許申請を受けた総務大臣は、工事設計の適否や周波数割当の可能性、財政的基礎などを審査し(同法7条)、まず予備免許を与え、ついで建設された施設・設備を検査して本免許を与える。免許の有効期間は5年間で、満了の時点で検査があり、合格すれば再免許が下りる。
[伊豫田康弘]
放送局の施設は大きく分けて、番組を制作するための演奏所と、番組を放送電波として送信するための放送所の二つからなる。演奏所は放送スタジオを中心とするもので、スタジオ、調整設備のほか、報道やスポーツ中継など局外制作用の中継技術関連の設備、録音・録画関連の設備、および、こうした演奏所の制作機能を実現するための番組企画編成、営業その他の経営事務機構が置かれている。一方、放送所は、普通、送信所とよばれ、演奏所が出演者や番組制作上の利便から都市内に置かれているのに対し、郊外に設置され、演奏所から有線または無線で送られてきた番組を、放送機、送信空中線などの設備により放送電波として発射する。
[伊豫田康弘]
放送局の経営形態は、わが国ではこれまで法律に基づいて設置された特殊法人(公共企業体)NHKと民間放送(現在は商業放送のみ、放送法上の名称は一般放送事業者)の2種類だったが、1984年度に政府全額出資の「放送大学」放送局が開局され、新たに国営形態の放送局が加わった。
アメリカは、国・公営はなく民放(商業放送局が中心だが、非営利のコミュニティ団体や大学が経営する公共放送局も多い)のみ、ヨーロッパは、イギリスとイタリアは早くから公共放送と民放の二本立て体制であったが、フランスやドイツ(旧西ドイツ)など主要国が公共・民法二本立て制となったのは、1980年代以降であり、それまでは公共放送ないし国営放送主体の国がほとんどであった。フランスは82年の放送法改正により放送事業への民間参入が認められ、まずローカルFMラジオで民放が誕生、86年2月からテレビ放送でも民放(公共放送のTF1が民営化)がサービスを開始した。ロシアもソ連解体後、国営のほか、公共放送、民放が登場している。中国の放送事業は国営である。
1989年(平成1)10月の放送法等の改正により、受託放送事業者および委託放送事業者からなる新しい放送制度が導入された。通信衛星を利用して放送サービスを行う委託放送事業者は、地上波の放送事業者や衛星(BS)放送事業者自らが電波送信施設の所有者であるのと異なり、自前の送信施設をもたないところから、事業運営も「免許」ではなく「認定」によって認められる。したがって、委託放送事業者は「放送局」ではないが、放送事業者には含まれる。
[伊豫田康弘]
『野崎茂・東山禎之・篠原俊行著『放送業界〔新版〕』(教育社新書)』▽『日本放送協会放送文化調査研究所編『世界のラジオとテレビジョン1988』(1988・日本放送出版協会)』
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