五つの戒。「戒」はサンスクリット語のシーラśīlaの訳語で、自ら心に誓って順守する徳目をいう。他からの強制はなく、罰は伴わないが、自らにいましめて実践する間に、優れた生活習慣となる。仏教で、在家者のために説かれた五戒がもっとも名高く、それは、不殺生(ふせっしょう)(生命のあるものを殺さない)、不偸盗(ふちゅうとう)(与えられないものを取らない)、不邪淫(ふじゃいん)(みだらな男女関係を結ばない)、不妄語(ふもうご)(いつわりを語らない)、不飲酒(ふおんじゅ)(酒類を飲まない)の五つをいう。ジャイナ教でも不飲酒のかわりに無所有(物を所有しない)を置く五戒が固く守られて現在に至る。
[三枝充悳]
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…仏弟子となるためには必ず道徳の基準となる戒を受けなければならないが,戒には出家と在家,その他の相違によっていくつかの種類があり,それに応じて受戒の作法にも相違がある。在家の戒としては五戒や八斎戒(はつさいかい)があり,また出家の戒としては比丘や比丘尼の具足戒,沙弥(しやみ)や沙弥尼の十戒,式叉摩尼(しきしやまに)の六戒(これは十戒に含まれる)などがあるが,八斎戒が1日(1昼夜),式叉摩尼の六戒が2年に限られているのに対し,他は捨戒しない限り,一生涯保つべきものである。受戒作法のうち最も複雑なのはもちろん出家の具足戒で,これには戒和上(かいわじよう)と羯磨阿闍梨(こんまあじやり)と教授阿闍梨,それに7人の証人(〈三師七証〉。…
…時代によって変遷はあるが,インドでは,通常,善としては,不殺生,不偸盗,不邪淫,不妄語(真実語),不飲酒,自制,誓戒,布施,忍耐,沐浴,祭式,苦行,遊行などが数えられる。このうちの最初の五つの善は,仏教の五戒そのものでもある。また,ヒンドゥー教では,法典の定めるところにしたがい,それぞれの階級(バルナ,ジャーティ)に課せられた社会的義務(ダルマ)を遂行することが,とりもなおさず善であるとされる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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