高山族諸語(読み)こうざんぞくしょご

改訂新版 世界大百科事典 「高山族諸語」の意味・わかりやすい解説

高山族諸語 (こうざんぞくしょご)

台湾に居住する原住民族の言語総称で,高砂(たかさご)族諸語ともいい,すべてアウストロネシア語族(以下〈南島語族〉と略称する)に属する。しかし高山族諸語が南島語族の中でどのような位置を占めるかについては学者によって意見が異なり,南島語族を西部語派(インドネシア語派)とオセアニア語派に二分し,高山族諸語は前者に属するとする説,南島語族を台湾語派(高山族諸語)とその他に二大分する説,南島語族を台湾語派,西部語派,オセアニア語派に三大分する説,さらには南島語族をアタヤル語派,ツォウ語派,パイワン語派(以上の3語派はすべて高山族諸語),マレー・ポリネシア語派に四大分する説などがある。

 高山族諸語の下位分類についても議論が多いが,(1)アタヤル語Atayalとセデック語Sedeqは近い関係にありアタヤル語群Atayalicをなし,(2)ツォウ語Tsou,カナカナブ語Kanakanabu,サアロア語Saaroaは互いに近い関係にあってツォウ語群Tsouicをなし,(3)蘭嶼(らんしよ)のヤミ語Yamiは台湾本島の諸語よりはむしろフィリピンのバタン語群Batanicに属する,という3点については異論がない。その他の言語(早くから漢民族化して固有の習俗・言語を失ってしまった平埔へいほ)族諸語も含めて)はすべて,従来,パイワン語群Paiwanicに属すると考えられていたが,調査・研究が進むにつれさまざまな問題が生じてきた。サイシャット語Saisiyatと平埔族諸語の一つであるパゼッヘ語Pazehは近い関係にあるのみならず,これらはアタヤル語群に属するかもしれない。一般に平埔族諸語は残された言語資料が少ないので確かなことはわからないが,台湾の北西部および中西部で話されていたタオカス語Taokas,バブザ語Babuza(オランダ文献に見えるFavorlangのこと),パポラ語Papora,ホアニヤ語Hoanyaもまたアタヤル語群に属する可能性がある。パイワン語Paiwan,プユマ語Puyuma,ブヌン語Bunun,アミ語Ami,平埔族諸語のサオ語Thao,シラヤ語Siraya(オランダ文献のSideisch)が本来のパイワン語群をなす。ルカイ語Rukaiはおそらくツォウ語群に近い関係にあると考えられるが,なお精査を要する。北部および北東部のバサイ語Vasay,ケタガラン語Ketangalan,クバラン語Kavalanの言語学的位置はまだ不明である。

 高山族諸語は,たとえばtとc(は再構形であることを示す),nとłの区別qを[q]として発音するなど,ほかのすべての同系言語で失われてしまった南島祖語の音体系をよく保存しており,アウストロネシア比較言語学上,非常に重要な位置を占めるが,教育やラジオ,テレビなどが普及したため若年層は北京語を日常話すようになり,固有の言語は急速に消滅しつつある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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