髻切(読み)もとどりきり

改訂新版 世界大百科事典 「髻切」の意味・わかりやすい解説

髻切 (もとどりきり)

他人の髻すなわち頭頂部に束ねた髪を切り落とす犯罪。中世では本鳥切とも書いた。《古事談》に,在原業平が二条后を盗み去ろうとして奪い返されたうえに,髻を切られたことが見え,《源平盛衰記》に,平重盛が息子が辱められた意趣返しに,兵をもって摂政藤原基房の車を襲い,基房随従の数人の髻を切ったことが見えるなど,中世の犯罪史にもしばしば現れる特異な犯罪である。烏帽子(えぼし)をもって社会的身分を表す最も有力な外的表徴とした時代にあって,結髪および烏帽子の装着に必須な髻を切断することは,被害者の社会生活を麻痺させるばかりでなく,その人の体面を失わせる凌辱的行為とみなされ,その意味で,女性の髪を切り落とす暴行に比すべき犯罪であったが,これに加えて次の2点が,この犯罪をより特異かつ重大なものとしたと考えられる。その一は,髻切が個人犯罪としてだけでなく,しばしば夜討ようち),群盗といった集団犯罪の場に登場した事実より推測して,この犯罪が身分表示を公然と否定しようとする点で,社会秩序に対する挑戦と受け取られたであろうことである。その二は,戦いに敗れた武将がみずから髻を切り敵に渡すことをもって,わが身を敵の手にゆだねる意思を表明する慣習のあったことより考えて,髻は社会身分表示の手段という意味を超えて,その人の生命そのものとすら意識されたであろうことである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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